172 旅・3日目
就寝前に今日の報告・連絡である。
「4人とも問題なく治療が済みました。
トラブルといえば、傷跡が治った嬉しさで興奮した狼獣人の女性に
リョウが抱きつかれて顔を舐められたことぐらいですね」
(いや、その後半部分、わざわざ言う必要ないよね?!ジュリアさん)
心の中でツッコむリョウ。
「子供たちにも舐められてましたね」
笑いながらマーティアが言う。
「いや~、ひどい目に会いました」
笑ってごまかすリョウ。
「その原因の水飴の製造販売の件ですが、商業ギルドも乗り気だそうです」
コリーヌが報告する。
「主婦や未亡人などの副業として貴重な現金収入になるでしょうね。
問題は利権ですが・・・」
とマーティア。
「はい、村長とこの村の商業ギルドにきちんと契約をさせたいので、
そのへんを教会に取り持っていただきたいのですが」
「わかりました。ここには神官を1人、赴任させることになっていますので
その者も経営に関わるようにさせましょう」
いきなり教会を作って常駐というのは無理なので、とりあえず出張の
ような形になるようだ。
「あと、個人的な要望なのですが・・・」
リョウが契約に入れてほしいことについて話す。
それを聞いたマーティアは、
「ふふっ・・・、リョウ様らしいですね。いいと思います、契約条項に
入れましょう」
喜んで、賛成してくれた。
聞いていたジュリアたちも賛成である。
あとは、明日の予定の確認をして就寝となった。
そして、就寝であるが、リョウはマーティアが寝ている部屋の前の廊下で
床に座って仮眠をとりながら番をする。
昨夜は教会内だったし、護衛として雇われているわけではないので
神殿騎士や教会の警護の者たちに任せた。
もちろん、今夜も神殿騎士たちが交代で番をしているのだが、今回は
小さな村の村長の家なので、万が一があってはまずい。
部屋の中にはジュリアとグレイシアがマーティアの眠るベッドの両脇で
椅子に座って仮眠をとっている。コリーヌはドアの前である。
もっとも、今回の旅はリョウの依頼のついでに突発的に決まったので
(救済の旅そのものは、マーティアが以前から計画していたが)
暗殺者などを送り込む時間などなかっただろうし、こんな小さな村に
余所者が入り込んだらすぐにばれるだろうが。
そして夜が明け・・・
「うん、まあ何も無いよね」
まぶしそうに朝日を見ながらリョウが独り言を言う。
夜が明けて油断したところを襲うのも奇襲の基本である。
夜討ち朝駆けは武士の習い、というやつだ。
この世界に武士はいないし、同じような意味のことわざがあるかどうかは
知らないが、暗殺者がいるぐらいだから、とにかく油断は出来ない。
そんなことを思いながら付近をサーチするリョウである。
朝食後は、昨日、村長から要望のあったところの作業である。
壊れたままの魔物避けの柵や水路にかかる橋などを修復していく。
こういうことのために、職人たちを同行させているのだ。
もちろん、それだけではとても人手が足りないので、ギルドを通して
村人を雇い、その賃金は教会が支払うことでこの村の経済が回るように
配慮もしている。
連れてきた職人の中には、村にはいない土属性の魔法を使う者がいるため、
今まで手が回らなかったところも含めて順調に作業が進んで行く。
そして、リョウは昨日作った水飴の仕上げに厨房に行くのであった。




