169 フィン
カイラの治療は問題なく終った。
獣人の美的感覚はわからないので、左耳の再生は、アミーナの美乳のような
アレンジはなしで、出来るだけ右耳と対称形になるようにした。
顔の傷もそのまま治しただけである。
もちろん当人にとってはそれで充分すぎるぐらいである。
ジュリアの持つ鏡に映った顔や耳を両手で確かめるように撫でていた
カイラは・・・
「神使様!!」
そう叫んでリョウに飛びついて抱きつき・・・顔を舐めはじめた。
「わっぷ!」
突然のことに驚くリョウ。
カイラはちぎれるほど尻尾を振ってさらにリョウを舐める。
持っていた鏡をあわてて置いて、カイラを羽交い絞めにして止めるジュリア。
リョウは舐めまくられ、仮面がずれてしまっていた。
「落ち着いて、どうどう!!」
ジュリアがカイラをなだめる。
ジュリアに軽く頬をペシペシと叩かれ、興奮状態から醒めたカイラ。
「あ、も、申し訳ありません!神使様に何ていうことを・・・」
土下座っぽい姿勢で謝るカイラ。
リョウは仮面をもどすと、カイラの前に片膝をついてカイラの左肩に
右手をあてて話す。
『気になさらないでください。どうぞ、幸せを掴んでくださいね』
(確かに10代の大事な時期を傷跡のおかげで辛い思いをして過ごしたが、
まだ21歳、これからだ。)
そう考えながら、両手を床について礼を言うカイラ。
「神使様、ありがとうございます」
そして何度も礼を言うカイラを部屋から送り出し、ジュリアが
次の患者を招き入れる。
今度は猫系の男の獣人だった。
書類によると名前はフィン、29歳だそうだが、大人の獣人の年齢は
人間種にとっては見るだけでは、あまりわからない。
林業で木を切り倒したときに倒れてきた木の下敷きになり、下半身
不随になってしまったそうで、彼の奥さんが車椅子を押していた。
ベッドにうつ伏せになってもらい、腰骨から背骨にかけて損傷した部分を
治していき神経を繋ぐ。
そして、リョウは彼の足の裏を指でちょんちょんとつつく。
「わふ!何するんだ?!くすぐったい・・・」
足をばたつかせるフィン。
「「 え?!!! 」」
驚くフィンと奥さん。
『いいようですね。筋肉が弱ってますので、起き上がってゆっくりと
立って下さい』
リョウは身体を支えながら、フィンを立たせる。
『いいですよ~、そのまま歩いてみましょうか』
フィンは立った後、リョウに支えられながらゆっくりと歩く。
それを見た奥さんが涙ぐんでいる。
リョウは奥さんの手をとり話す。
『一応治りましたが、筋肉が弱ってますので毎日少しずつ歩く訓練、
リハビリと言うんですが、それをしてください。転倒したら大変なので、
訓練のときは奥さんが必ず手伝ってあげてくださいね』
特にケーキの生クリームですべって頭を打ったりしたら大変である。
(時事ネタはすぐに風化します)
「は、はい!ありがとうございます」
涙をあふれさせながら礼を言う奥さん。
「神使様、ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
車椅子に座ったフィンがリョウの両手を握りながら言う。
『リハビリ、がんばってください。必ず、元に戻りますから』
リョウが骨伝導でそう言ったとき、
ワーーーーーーーー!!!!!!!
窓の外から歓声が上がる。
マーティアがエリアヒールをやったようだ。
こっちの残る患者はあと2組である。
こちらは、家路を急ぐカイラ。
嬉しさのあまりスキップでもしかねない様子だ。
彼女はふと気がついた。
(あれ?!神使様、飛びついたときに声を上げなかったっけ・・・??)
骨伝導とは違うような声だったように思えたが、
(まあ、気のせいだよね。私も興奮してたし・・・)
気にしないようにしたようである。




