167 チャタム村
とりあえず、問題なく聖女一行は次の目的地のチャタム村に着いた。
途中2組、林の中に潜んでいたり丘の上にいた者たちが、リョウの
サーチに引っかかったが、神殿騎士が行って武器を没収するだけで
すませた。
この世界、現代のように科学的な技術で証拠を集めたり出来るわけがないので
それなりの身分や資格のある者は、『怪しい』だけで相手を罪に問える。
もちろん、神殿騎士はその身分や資格を持つ者にあたる。
まして、こんな狩りをするような場所ではないところに武器を持って
集団でいて冒険者登録もしてない者なら盗賊と判断されても仕方が無いし
実際にそうだろう。
もし現代日本であっても凶器準備集合罪が成立するはずだ。
まあ、当人だちは潜んでいたはずなのに、見つかったのが不思議だった
ようだが、無駄に抵抗したりしなかったのは正解であった。
神殿騎士たちが、これらの集団を切り殺したとしても非難されることは
ないどころか、武器の没収だけで済ませたことを、手ぬるいと判断する者も
いるだろう。
今回の旅の目的が治安維持や討伐ならそうなっただろうが、救済が目的なので
神殿騎士も目こぼししたのだ。
そして、その村は日本のある種のヲタクなら天国に見えたかもしれない。
先触れを出しておいたので、村の出入り口に出迎えの者たちがいたのだが、
そのほとんどが獣人であったのだ。
そう、俗にいうケモナーであったなら狂喜乱舞したに違いない。
普通の動物好きのリョウにとっても、獣人の子供、かわいすぎである。
そういえば、王都などで大人の獣人はわりと見かけたが、子供は
ミーナだけであった。
後で聞いたところによると、獣人は人間より身体能力は優れているが
知能が低い。そのため、騙されたり犯罪にまきこまれたりしやすいため
一部の優秀な者を除いては、こういう保護区で暮らすのが普通なのだとか。
メイフィールド家に仕えていたレイナは、その優秀な者の代表である。
この村は主に林業で成り立っていて、男は基本的に山に入り、女は
畑で働くのが一般的だそうだ。
冒険者ギルドもあるが、依頼のほとんどは薬草などの採取と食用の肉の
調達のための狩りだということだ。
聖女たちは、困っていることなどを聞くために村長の家で話をしている。
この村には教会はないため、今夜は村の広場で野営の予定であるが
聖女とお付きの者たちは、村長の家に泊めてもらうことになっている。
まとめてドーン(笑)のヒールは、ほとんどの者が仕事が終って帰ってくる
夕方にするということで、リョウはジュリアとともにそれまで自由時間を
もらった。
そこで、リョウたちは冒険者ギルドを覗いてみることにした。
冒険者ギルドの建物には、商業ギルドや村の役場も一緒に入っていた。
こういう小さな村では、たしかにそのほうが便利だろう。
リョウはジュリアとともに中に入る。
(うん、当たり前だが獣人ばっかりだよねw)
「こんにちは、チャタム村冒険者ギルドにようこそ」
受付の獣人のお姉さんが話しかけてきた。
犬系か狼系だと思うがもしかしたら狐系かもしれない。
「こんにちは。私達は、聖女様に同行している者です。
滞っている依頼で、もし手伝えるものがあったら受けようと
思って来たんですが、何かありますか?」
リョウはそう言いながら冒険者カードを提示する。
「まあ!Bクラスですか。それなら・・・」
受付のお姉さんが何かを言おうとしたが、
「はあ!何が聖女だ!!」
狼っぽい獣人がからんできた。
「助ける気があるなら、ここに教会を作れよ!!」
「私は、契約で同行しているだけでそういうことはわかりませんが・・・」
そう言いながら、リョウは右手の中指を曲げて親指で支え、狼獣人の
顔の前にだす。
「え、何のまねだ?」
狼獣人がそう言った瞬間、
ズバン!!!
という音とともに狼獣人は数メートルふっとんだ。
リョウが身体強化したデコピンをしたのだ。
狼獣人は完全に気絶していた。
「聖女様を愚弄するのは許しませんよ」
リョウはにこやかに周りの獣人たちにも言い聞かせるように言うのだった。




