160 カクテル
リョウは、用意してもらったテーブルの方に行きながら収納バッグから
ウイスキーの入った瓶を1本取り出し、宙に放る。
「「「「 え?! 」」」」
さらに、2本目、3本目と放り上げる。
そしてそのままジャグリングしながらテーブルの向こう側に移動して
テンポよく空中の瓶を掴み、トントントンと並べて置いていく。
そう、リョウがやろうとしているのはフレアバーテンダーとかフレア
バーティングと言われるカクテルを作るときのパフォーマンスである。
ポーズをつけながらいくつかのグラスやまな板や包丁、氷の入った容器などを
並べていく。
グラスに氷を入れ、軽くかきまぜて冷やしておく。
次にグレープフルーツっぽい柑橘類の果実を2個取り出し、2~3回
お手玉をしながら、すばやく包丁を手にとり一閃。
包丁をまな板の上に置き、果実を両手に1個ずつ受け止めると2つとも
横に真っ二つになっていた。
驚く観客(?)たち。
果実を搾って果汁をガラス製のボウルに入れる。
タンブラーグラスの氷が溶けて出た水を捨てる。
茶漉しを取り出し、クルクルとペン回しのように回転させた後、
タンブラーグラスの上に置き、種や細かい皮などを取り除きながらボウルから
果汁を注ぐ。
ボウルの残った果汁にメープルシロップ、氷、ウイスキーを入れかきまぜる。
本当ならシェイカーでシャカシャカとやりたいが、そんなものはない。
そのうち、鍛冶屋にでも作らせることにしよう。
3個のリキュールグラスの氷と溶けた水を捨て、茶漉しを使って
種や氷を入れないようにしながらボウルに出来たカクテルを注ぐ。
果汁を入れたタンブラーグラスは、氷とウイスキーを入れてかきまぜる。
「どうぞ、召し上がってください」
タンブラーグラスをジャスティン伯爵に、リキュールグラスを女性3人に配る。
「ほう。君の国ではこういうふうにして飲むのかね?!」
と、ジャスティン。
「はい、そのまま飲んでもいいのですが、こういうふうにお酒にいろいろと
混ぜて楽しむこともよくやります。こういうものの総称をカクテルと言って、
数千種類あると言われます」
「数千種類もあるのですか?!」
と、レイチェル。
「元になる蒸留酒だけでも、このウイスキーをはじめとして10数種類
ありますから。今回は、女性の方々には少し甘くして口当たりを良く、
ジャスティン様のはアルコールを高めにしてみました」
女性たちには20%、ジャスティンには40%のウイスキーを使った。
「ふむ」
一口、飲んでみるジャスティン。
「おお、これは・・・果汁で薄めたのに、なかなか強いな」
「ドワーフ酒よりも、アルコール度数が高くなるように作っていますから」
女性たちも、グラスに口をつける。
「あら、おいしい!」
「スッキリしてますわね」
「この甘みは?・・・砂糖ではないですね?!」
「あ、お気づきになりましたか。この甘さはメープルシロップと言って、
ちょっと特別なものです。これもガリアの名産にしたいんですが
量産が難しく、もう何年かかかりますね」
そういえば、メービス、エイビス兄弟はメープルシロップ作りに
ちゃんと協力しているであろうか?!
「それも君が?!」
「はい。偶然、材料が見つかったもので」
たいしたことではないという感じで話すリョウを見て、辺境伯や聖女が
この男を重用することを納得するとともに、自分にも協力して欲しいと思う
ジャスティン伯爵であった。




