16 アンジェリカの危惧
「先ほどは、私のために、すみません」
リョウがアンジェリカに謝る。
「いいのよ。まったくあの子の戦い好きは、
あきれてしまうわ。オホホホ・・・」
軽く返すアンジェリカだったが、内心は冷や汗ものだった。
人との付き合いで最もまずいのが、相手の逆鱗に
ふれてしまうことである。悪意がなくても相手の
逆鱗にふれてしまったために、人間関係がダメに
なってしまうことは、わりとあることである。
そして、アンジェリカはリョウと出会ってから、
逆鱗がどこにあるかを探し続けていた。
レイナのことをからかってみたり、名前を呼び捨てにしても
何の問題もなく、ただの温厚なお人よしに見えた。
しかし、ニコル村で、護衛の者たちが村人に命令をしているのを
見ていたリョウの目に嫌悪感と思えるものを見たのである。
自分たちにとっては当たり前すぎるほどの光景。
しかし、国民すべてが平民であるリョウの国ではどうだろう?
10年以上も子供すべてに教育をほどこすのが
当たり前という国。その間、子供は労働力とならない。
つまり、子供の労働力がなくても生活が成り立つ経済力が
あるということだ。
高い教育と経済力のある平民。そんなもの能力的にはもう貴族だ。
そう、国民全てが身分の上下がない貴族と考えるほうがしっくりくる。
身分の上下がないため、身分の上下による命令を嫌う。
ここに逆鱗があるのではないかと思ったのである。
そして彼はさっきの会話で
『大奥様の治療をしたら、失礼しますので』
と言った後、
『ほう、私の申し出を断るというのかね?!』
というシュタイナーの言葉を聞いたときにニコル村での
嫌悪感と思われるものと同じ表情をしたのだ。
シュタイナーと関わりたくないという言葉を言った後、
シュタイナーの台詞を聞いて嫌悪感を見せたのである。
リョウが何と言うつもりかはわからなかったが、
シュタイナーの望むようなものでないことは、間違いない。
2人は衝突し、リョウに協力を依頼することは不可能になるだろう。
リョウに返事をさせるわけには、いかなかった。
リョウの能力、知識は手放すには惜しすぎる。
機嫌を損ねて他の土地に行かれてしまっては大損だ。
シルフィード王国内ならまだ何とかなるかもしれないが、
ゴジール共和国に行かれたら大変なことになる。
シュタイナーには悪いことをしてしまったが、
わけがあることをわかってくれたようだし、
後で説明すれば大丈夫だろう。
とりあえず、母の治療だ。




