158 微妙な雰囲気
「聖女様、ようこそいらっしゃいました。そしてリョウ殿、義母と妻を
美しくしてくれて感謝する」
伯爵が挨拶をする。
伯爵は、リョウを呼び捨てにしたかったが、義母と妻が尊敬して
『様』をつけている者なので、せめてもの抵抗ということで『殿』付けにした。
「ジャスティン!」
それをマルティナがたしなめようとするが、
「伯爵様、リョウと呼び捨てで結構ですので、」
リョウが『殿』などつけなくてよいと言う。
というか、そんな中途半端な敬称で呼ばれたくない。
そしてめんどくさくなったリョウは、もうこの場を辞そうかと思ったが。
「それなら、あなたも名前呼びを許しましょう」
伯爵の妻のレイチェルがが言う。
「レイチェル、それは・・・」
「そうね。ガリア辺境伯やメイフィールド伯爵も名前呼びを許している
そうだから、何も問題はないわね」
と、マルティナが追い討ちをかける。
「う・・・」
伯爵は、マルティナとレイチェルの顔を交互に見て言う。
「わかった。リョウ、私のことはジャスティンと呼んでくれ」
伯爵当人は気がついてないが、彼は幸運にも首の皮1枚で踏みとどまったのだ。
まだ、ウダウダ言っていたなら、リョウは帰ってしまって2度と会わなかった
だろう。
リョウ本人は面倒なので、もう関わりを持たないようにするだけだが、
マルティナとレイチェルに責められるだろうし、聖女であるマーティアが
報復行動を起こしたら・・・。
「ありがとうございます、ジャスティン様」
正直、『お前の名前なんぞ、呼びたくもないわ!』と言いたかったリョウだが、
気を使ってくれたマルティナとレイチェルの顔をたてて、名前呼びを
許された礼を言う。
「伯爵様」
落ち着いた声でゆっくりと言うマーティア。
「は、はい、聖女様」
急に声をかけられ、とまどうジャスティン。
「リョウ様は、かけがえのないお方です。リョウ様に敵対する者は
教会にも敵対する者であると判断しますので・・・」
微笑みながら言うが、目が怖い。
「ひっ」
まさかそこまで言われると思ってなかったジャスティン。
「は!はい!!決して、敵対なぞいたしません!」
ガツッ!
あわてて頭を下げたためテーブルにぶつけてしまったが、そんなことは
気にする余裕がない。
「あらあら・・・失礼します」
それを見たマーティアは席を立ち、ジャスティンの額をさっと撫でる。
それだけで、打ち付けて赤くなっていた彼の額は治っていた。
「「「 !! 」」」
3人は驚いたが、この程度、詠唱どころか精神を集中させる必要もないと
言わんばかりのマーティア。
いろいろと微妙な雰囲気の中、晩餐会は始まっていった。




