151 ヒールのせぇるすまん
馬車の中でマーティアは両手で顔を覆って、座席に突っ伏していた。
「やっちゃいましたね~~・・・」
馬車に戻ったリョウが言う。
「言わないでくださいませ・・・」
顔を真っ赤にして言うマーティア。
「だから、練習してからのほうがいいと・・・」
「だから、言わないでと・・・」
マーティアの巨大ヒールの原因は、リョウの身体強化であった。
ジュリアにした身体強化を見て、今から重傷者をヒールすることに
なるので自分にもやってくれと言い出したのである。
いずれ、マーティア本人が身体強化を出来るようになってもらう
つもりだったのでリョウも了承したのだが。
「魔力の通りがよすぎて、やりすぎてしまいました」
ということだ。
「まあ、いいんじゃないか」
馬車に最後に乗り込んだグレイシアがドアを閉めながら言う。
「聖女様のすごさをアピールできたということで」
グレイシアが窓の外を指差す。
そこでは全員、こちらに膝をつき、頭を垂れたり、両手を
合わせたりしていた。
「そうですよ~。これから行く村とかでも、皆を集めて今のヒールを
ドーンとやっちゃいましょう!」
コリーヌが元気に言う。
(ドーンって・・・。そんな攻撃魔法みたいなヒール、ちょっと嫌だな・・・)
リョウの頭の中では、真っ黒な衣装を着たマーティアがオーホッホッホと
高笑いをしながら民衆を癒していた。
傷口だけではなく心の隙間まで埋めてしまいそうである。
「何か変なことを考えていませんか?」
「ギクッ!」
マーティアに図星を突かれるリョウ。
「な、何もたいしたことは考えてないですよ~~~」
ごまかそうとするが、あきらかに怪しいリョウ。
「まあ、いいでしょう。コリーヌ!出発しましょう」
「はい、マーティア様」
コリーヌが馬車の御者に、そして御者が護衛の神殿騎士に出発を伝える。
先導の神殿騎士が隊形を整え出発し、それに合わせて聖女の馬車も
走りはじめる。
それを見送る駅馬車の乗員乗客と盗賊たち、そして駅馬車が向かう次の
町まで盗賊たちを護送するように命令された神殿騎士が2人。
「あの、騎士様・・・」
神殿騎士たちに話しかけてきたのは、盗賊の首領に腹を刺された男だった。
横には、妻と男の子がいる。
「治療の代金は・・・?」
「今回の聖女様の旅の目的は貧しき者、弱き者の救済である。代価は不要だ。
ただ、余裕があるのなら教会に行ったときに気持ちだけでいいので
喜捨をしてくれ」
そう言った騎士に頭を下げ礼を言う夫婦。
男の子はといえば、キラキラした目で神殿騎士たちを見ていた。
「次の町までは我らが護衛するので、危険はないだろう。出発の準備を
してくれ」
駅馬車の御者にそう言う神殿騎士。
神殿騎士を見て、襲おうなどと思う盗賊など普通はいない。
盗賊たちの両手を縛り、数珠繋ぎにして駅馬車に繋げ
無理やりに歩かせる。
神殿騎士の2人はその後方で盗賊たちを見張りながら、ついて行く。
「なあ、ラルフ」
神殿騎士の1人がもう1人に話しかける。
「昼飯、俺たちの分、残ってるかな?!」
「隊長が俺たちの分まで食っちまうかもな・・・」
ラルフと呼ばれた神殿騎士が答える。
「あの人ならやりかねないな・・・」
彼らにとって、盗賊の襲撃などより昼食のほうが心配であった。




