15 脳筋
南の大門から入ると、広場になっていた。
有事の場合は、ここで兵を編成して出撃するのだという。
広場の先の軍の施設の立ち並ぶ通りを抜けると
領主の館であった。
馬車が中庭を抜け、館の前に止まる。
レイナ、クラリスの後に馬車を降りたリョウは、
アンジェリカの手をとり、降りるのを手伝う。
さっき、ニコル村でアンジェリカに
「こういうときは、女性をエスコートするものですよ」
と言われ、休憩中に簡単な礼儀作法を習ったのだ。
アンジェリカは、出迎えの中央にいた一番みなりのいい
30歳過ぎと思われる男のほうに行きハグをする。
身長190cm越えの筋肉おやじだ。
弟のシュタイナー・E・ガリア辺境伯爵に間違いないだろう。
「シュタイナー」
「姉上、ご無事で」
と声をかけあっている。
「こちらのリョウに助けていただいたのよ」
と紹介されたので
「リョウです、よろしくお願いします」
と、アンジェリカから習った右手を左胸にあてる動作で
挨拶をする。
「シュタイナーだ。姉たちを助けてもらって感謝する。
さあ、修練場に行こう!!」
「いきなり何を?!」
「オーガを簡単に切り捨てるほどの腕前と聞けば
試すのが当たり前だろう」
(あ、やっぱ脳筋だ、この人)と思うリョウ。
「ダメですよ、シュタイナー」
アンジェリカが止める。
「お母様の治療をしていただいた後になさい!」
「いや、そこは、完全に止めて下さい」
思わずツッコむリョウ。
「大奥様の治療をしたら、失礼しますので」
このおっさんに関わると面倒になりそうな気がするので
とりあえず逃げることにする。
有力者とのつながりは、アンジェリカでできたし、
冒険者ギルドがあることがわかったので、
そっちでも、情報収集をしたかったのだ。
「ほう、私の申し出を断るというのかね?!」
お約束ともいえる脅し文句を言うシュタイナー。
貴族の、それも辺境伯という立場の者が、
平民に対する言葉としては、柔らかいものであったが
パワハラされた上司を思い出し、リョウは少しイラッとした。
「シュタイナー!!!」
アンジェリカの声が響く。
「リョウは私の客です。あなたは控えていなさい!」
そこにいたすべての者が唖然とする。
姉とはいえ、辺境伯を叱りつけたのだ。しかも、
辺境伯は何も問題がある行動をとったわけではない。
意味がわからず、姉の目を見つめるシュタイナー。
そこには、有無を言わせぬ光が宿っていた。
ならば、後で聞けばすむことだ。
「わかりました姉上」
ここは、ひきさがっておくことにする。
「リョウ、お母様のところに案内するわ」
リョウをうながし、メイドのクラリスと3人で
母の部屋に向かうアンジェリカだった。




