148 おにぎりと盗賊
「な~!、くれよ~~~!!!」
「ダメですよ。グレイシアさんたちはちゃんと朝ごはんを食べたんでしょ?!
食べすぎです。お昼まで待ってください」
リョウが言う。
「そんなうまそうな匂いを嗅いで、我慢なんて出来ねえよ!」
「グレイシア!あなただけにあげたら不公平になるでしょう。かと言って
全員の分はないのです。我慢しなさい!」
マーティアがたしなめる。
「そんな~~・・・」
馬車の中でリョウとマーティアが食べているチャーハンおにぎりを
グレイシアがくれと言って、駄々をこねていた。
大司教たちのおかげで、リョウとマーティアは朝食を食べる時間が
なくなってしまったので、リョウが炊いておいた米で急いで作ったのだ。
「う~~~、リョウの料理が楽しみだったのに、いきなりオアズケって・・・」
うなだれるグレイシア。
「それにしても、米をこういうふうに携帯食にするとは・・・」
チャーハンおにぎりを見ながらマーティアが言う。
「私の国・ニホンでは、米が主食で、いろいろな食べ方をされています。
こういうふうにしたものを『おにぎり』とか『おむすび』と・・・いう
・・・んで・・・すが・・・」
リョウ、何かに気づいたようである。
「どうしたのですか?」
マーティアが尋ねる。
「トラブル・・・?!あ、1人やられた!!盗賊か!!」
リョウが叫ぶ。
「マーティア様、前方1.5km先に盗賊です。護衛の騎馬たちを
向かわせてください!」
「何ですって?!!グレイシア!!」
マーティアに言われたグレイシアが馬車の窓を開け、身を乗り出して叫ぶ。
「前方1.5km先に盗賊だ!!すぐに行ってくれ!!!」
「何?!どういうことだ?」
馬車に併走していた騎馬隊の隊長がグレイシアに聞く。
「聖女様の指示だ!!さっさと行け!!」
グレイシア、さらに怒鳴る。
「わ、わかった。リカルドとドーズはそのまま聖女様の警護を!!
他の者は俺に続け!!」
隊長はそう言って、全速力で馬を走らせ、5騎が後に続いた。
「オラァ!! こいつみたいになりたくなけりゃ、さっさと有り金を
全部出すんだよ!!」
盗賊の首領らしい男が、倒れている男の頭を踏みつける。
見せしめに剣で腹を刺したのだ。
倒れている男は腹を両手で押さえ、うめいていた。
このままでは、すぐに死ぬだろう。
少し離れたところにも2人男が倒れている。
まっさきに狙われてやられた護衛たちだ。
「わかった、だから乱暴はしないでくれ!」
中年の小太りの男がそう言って皮袋をふところから出す。
「これだけか?ああ?!他にもあるんじゃねぇのか?!」
皮袋を奪うように受け取った首領が男にすごむ。
そのとき、見張り役の盗賊が叫んだ。
「お頭!!騎馬がこっちに向かってきます!!」
「何だって?! 巡回の騎馬隊は、やりすごしたんじゃねえのか!!」
「巡回じゃねぇ!!・・・あれは・・・どこかの騎士団だ!!」
ひきつったような声で見張りが叫ぶ。
「き、騎士団?!」
「隊長、たしかに盗賊です!」
「ああ、何でわかったのかわからんが、さすがに聖女様だ」
マーティアの護衛の騎馬隊が盗賊たちを確認する。
盗賊が矢を射ってきたが、そんなたいした訓練もされていない矢に
当たるような者はいない。
仮にも聖女の護衛を任される者たちなのだ。
「ぐはぁ!」
隊長の振り回した槍に吹っ飛ばされる盗賊。
「ぐほっ!」
こっちでは、隊員のハルバートに切り捨てられていた。
「し、神殿騎士じゃねぇか!!」
盗賊の首領が護衛の騎馬たちの姿を見て驚く。
「な、なんでこんなところに神殿騎士が?!」
「はぁ?!我々は、教会のしかも聖女様に仕える神殿騎士だぞ!」
何を言ってるんだという感じで、隊長が言う。
「神のお導きに決まっているじゃないか!」
とてもいい笑顔で隊長は言うのであった。




