128 デートその11
パトリシアが歌い終り、楽団の演奏がやむ。
キュイ~~~ン!!
そして、観客たちが聞いたことのない弦楽器の音が響く。
いや観客のうち10数人は聞いた覚えがあった、しかもほんの2時間ほど前に。
舞台袖から現れた男はネックが2本ついた見たこともない楽器を弾いていた。
そして、ダッシュするとくるりと反転して後ろを向き、床を蹴って
バック宙を決め、その勢いのままスライディングしてパトリシアの
側にすべりこんできた。
もちろん、その男とはリョウである。
身体を起こし、片膝をついてノリノリで前奏を弾き始めるリョウ。
「リョウ様~~~!!!」
思わず叫ぶジュリア。
そして、パトリシアが前奏に負けないハジけた感じで歌いはじめる。
パトリシアの持ち歌なので何度も聞いたことがある者もいたが、
地球の現代風にアレンジされたその曲は、観客全てに新鮮で強烈だった。
間奏はリョウのソロパートである。
派手なアクションをつけて弾きまくる。
キュイーン
右手を上げアピールした後、スッと身を引きパトリシアが入れ替わり
歌い始める。
後半部を歌いきったパトリシアが両手を上げ歓声と拍手に応える。
そして最後の曲である。
しっとりとしたバラード。
リョウもさっきまでとは打って変わって、目立たずにパトリシアを
たてるように弾く。
客席、しんみりである。
歌い終わり、最後の挨拶をするパトリシア。
「本日はありがとうございました。今日の私のコンサートはこれで
終りですが特別にもう一曲お付き合いください。
先ほどからの演奏でリュートの腕はおわかりだと思いますが、
すばらしい歌い手でもあります。
王都に現れた謎のエンターテイナー、リョウ~~~!!!」
パトリシアがリョウを紹介する。
「え~~!!」
何でそんなことに・・・と思うリョウに近寄るパトリシア。
「じゃ、ブリスケットの宿で歌ったのと同じように一曲お願いするわね」
と囁き舞台の後方に下がる。
バレていたようである。
(まあ、落ち着いて考えれば気がつくよな~)
そう思いながら、覚悟を決めるリョウ。
キュイ~~~ン
舞台の前方に出て青山を一鳴らし。
(さて、曲は何にするかな・・・)
考えてるリョウの耳に
「リョウ様~~!!」
ジュリアの声が聞こえた。
(よし、せっかくのデートだしジュリアさんに喜んでもらうか!)
そしてリョウは、ムーディーな前奏から歌い始める。
「覚えているかい、このリュートを~♪」
曲がすすむと、そのメロディーと歌詞、そしてリョウの歌声に
特に女性客、うっとりである。
もちろん、ジュリアもうっとりと聞いていたがそこに、
「好きだよジュリア~♪ 愛をもう一度~♪」
「ええ~~~!!!???」
ジュリア、びっくりである。
(お、落ち着けジュリア!あ、あれは歌の歌詞だ!リョウ様が私を・・・)
必死で自分を落ち着かせようとするジュリアだが
「好きだよジュリア~♪ 愛をもう一度~♪」
「あ・・・」
リフレインでもう一度歌われると興奮のあまり気絶してしまい
気がついたのは、パトリシアの控え室であった。




