125 デートその8
「いやだって言ってるでしょ!」
「そこをなんとか・・・」
パトリシアと支配人が話している間に割り込むリョウ。
「少しよろしいでしょうか?」
「誰よ?あなた・・・」
「今、中庭で演奏させていただいた者です」
そう言って、青山を見せる。
「あら、あなたが弾いていたの。なかなかよかったわよ」
「ありがとうございます。有名な歌姫のパトリシアさんにそう言って
いただけるとは感激です」
ありきたりな褒め方だが、彼女に対して、まわりくどい言い方は
しないほうがいいだろうとリョウは判断した。
「それにしても、珍しい楽器ね」
「はい、私の国から持ってきました」
こんなもの、日本にはないが、そういうことにしておく。
「主に、こちらで伴奏を・・・そして、こちらでメロディーを弾きます」
リョウは、青山のベース部分、リード部分をそれぞれ
弾きながら説明する。
「『私の国』ということは、異国の方ですの?」
「海の彼方のニホンという国です。そのへんを説明すると長くなりますので
今はご容赦ください。それで、お願いがあるのですが・・・」
「あら、何かしら?」
「ぜひ、パトリシアさんと一緒に演奏をさせていただきたいと」
「私と同じ舞台に上がりたいというの?!あなたのような無名な者が?!」
「身の程知らずは承知の上で言っております。ぜひ・・・」
こう申し出るためにわざとリュートの演奏だけで歌を歌わなかったのだ。
あくまで主役はパトリシアだと示すために。
「パトリシア、この方はさっき話した・・・ゲホッ」
支配人が横から口をだそうとしたが、脇腹を押さえてうずくまる。
支配人が、まずいことを言うと察知した女性職員から脇腹に
肘打ちをくらったのだ。
「まあ!支配人、どうなさいました?」
女性職員は、しらじらしく支配人を介抱するフリをしながら、
『余計なことを言わないでください』
と耳打ちする。
『よくやった!』とアイコンタクトを女性職員に送るリョウ。
うなずく女性職員。
リョウが『ブリスケットの宿で歌った男』と同一人物だとわかったら
また、パトリシアが機嫌を悪くするかもしれなかった。
女性職員、ファインプレーである。
「そうねぇ、どうしようかしら・・・?!」
もったいぶるパトリシア。
「ダメでしょうか・・・?!」
リョウは、残念そうな演技をしながら言う。
「では、せめてパトリシアさんの舞台を見せていただくわけには
いかないでしょうか?」
これがリョウの狙いであった。
簡単に共演なんて出来るわけがないのにそれを申し出て断らせ、
代わりにパトリシアの舞台を見たいと言って、出演させるのである。
「いいわ」
パトリシアが承諾する。
その言葉にうまくいったと心の中で快哉を叫ぶリョウ。
「ありがとうございます。では、私は客席で拝見させていただきます」
そう言って立ち去ろうとしたが、
「何言ってるの?!共演させてあげると言ってるのよ。
いいわよね?!支配人!」
「ゲホッ、ああ、も、もちろんいいとも・・・」
支配人、まだ肘打ちのダメージが残っている。
「え?!」
リョウ、一瞬、固まってしまう。
「じゃ、さっさと打ち合わせして、リハーサルするわよ。
付いて来なさい!」
歩いていくパトリシア。
とりあえず目的は達したが、策に溺れてしまったような感じの
リョウであった。




