123 デートその6
何事かと振り返るリョウたち。
支配人がリョウを指差していた。
「あな、あな・・・」
驚きで、どもる支配人。
「山の?!」
「あな、あな・・・違います!!」
リョウがわけのわからないボケを入れる。
「あな、あなたは、宿の食堂で歌った貴族様では?!」
息を切らしながら、支配人が聞く。
「宿の食堂?!」
「ブリスケットの街の宿です」
と、支配人。
「ブリスケット?」
ピンとこないリョウであるが、
「王都の前に宿泊した街です」
ジュリアが説明する。
「ああ、あそこですか」
やっと、リョウも理解した。
「あのときは、子爵家の御令嬢をエスコートするために正装して
いただけで、私は貴族じゃないですよ」
とりあえず、誤解を解く。
そう言われても、そういう役目を任されるということは、
それなりの立場の者であるだろうし、今はそんなことより
もっと重要なことがあるため、支配人は丁寧な態度を崩さない。
「実は、あなた様のせいで大変なことになってまして・・・」
支配人がとんでもないことを言う。
「は?!何のことですか?」
リョウに覚えはまったくない。
「ああっ!申し訳ありません、言い方がおかしかったです」
あわてて謝る支配人。
「支配人、そんなんだから、こういうことになるんですよ」
劇場の職員らしい女性が言う。
説明によると、支配人はブリスケットの宿でリョウの歌と演奏を
聞いてとても感動したそうだ。
そして、劇場に戻ってから、そのすばらしさを伝えようと様々な人に
言って回った。
そして、歌姫・パトリシアにも話したところ、『そんなにすばらし
かったのなら、私なんか必要ないでしょ』と機嫌を悪くしてどこかへ
行ってしまったというのだ。
「まったく、言い方が下手なんですから・・・。『こんなにすばらしい
歌い手がいたが、君はもっと上にいける』とか言えばよかったのに、
単に他の歌手を褒めまくったら、そりゃ機嫌を悪くしますよ。」
あきれたように言う女性職員。
「ううっ・・・」
返す言葉もない支配人。どうやら、言葉の言い回しが下手で、何度も
失敗しているようだ。
「もうすぐ開演なのに、パトリシアさんが戻ってこられないので
職員総出で捜しているところなんです」
「なるほど、それで走り回ってる人たちがいたんですね」
納得するリョウ。
「よくわかりました。では、失礼します」
リョウはそう言って、ジュリアと連れ立ってカフェを出ようとした。
「「「え~~~!!!」」」
支配人と女性職員だけでなく、ウエイトレスまで声がハモる。
「ま、待ってください!!」
あわててリョウたちを呼び止める支配人。
「まだ、何か?」
リョウが聞く。
「いえ、今の話を聞いたでしょう?!」
支配人が言うが、
「聞きましたけど、私に責任ないですよね?!それに、パトリシアさんを
捜す手伝いをするにしても、私、彼女を見たこともないんですよ。
出来ることないでしょ」
さっき言われた『あなた様のせい』というのは完全ないいがかりだし、
手伝う義務も理由もない。
「そうではなくて、パトリシア嬢の代わりにあなたに出演して
いただけないかと・・・」
と支配人。
「それは一番やってはいけないことでしょう?!
パトリシアさんに『お前なんか必要ない』と言うのと一緒ですよ。
そんなことをしたら、パトリシアさん、ここの舞台に二度と
上がらないんじゃないかと・・・」
「うっ、たしかに・・・」
うなだれる支配人。
それを見て、かわいそうに思ったジュリアが言う。
「リョウ様、何かパトリシアさんを見つける方法はありませんか?」
「今言ったように、私はパトリシアさんのことを何も知りませんし・・・」
しばし考えるリョウ。
そして・・・
「ジュリアさんは、パトリシアさんの顔を知ってるんですか?」
「ええ、この劇場ではありませんが、歌を聴いたことがあります」
「それなら、見つけ出せるかもしれません。この近くにいたら・・・ですが」
「ほ、本当ですか?!」
支配人が期待の表情をみせる。
「ウソでも私はかまいませんが」
「そんなぁ~・・・」
普通にデートさせてくれよと思うリョウであった。
支配人「うたやっこじゃね~~よ!」




