111 タコ
大根でそれを叩くリョウに驚くゾーエ、エマ、ミーナ。
「あんた、何をしてるんだい」
ゾーエが聞く。
「こうやって、大根で叩くと、身が柔らかくなっておいしくなるんです」
説明するリョウ。
「えっ?!それを食べるのかい?!」
ゾーエがとんでもないという口調で言う。
「お母様、食べたことがないのですか?」
エマが言う。
「だって、海の悪魔だよ!それをいきなり叩き始めるから、何か怪しい
儀式でも始まったのかと・・・」
そう、リョウが叩いていたのは、ここでは海の悪魔と呼ばれるタコであった。
獣人のエマは食べたことがあったようだ。
タコの身を柔らかくするために大根で叩くと大根に含まれるジアスターゼで
柔らかくなるというが、そのへんは怪しい。
叩くことで筋肉の繊維が切れるからで、大根を使うのはちょうどいい硬さと
大きさだからであろう。
叩く前にリョウが怪しい笑みをもらしていたのも、ゾーエが変な儀式と
思った理由であった。カテリーナにタコを食べさせるという約束を
守らせることにドSの血が目覚めたらしい(笑)。
叩いたタコに塩をまぶして洗い、ヌメリをとる。
そして頭(実際は胴だが)を一口大に切る。
足は先端の3cmほどを残してブツ切りにする。
叩くのに使った大根の皮を剥き輪切りにして下茹でし、タコの頭と
足の先端と一緒に白ワイン、砂糖、そして魚屋で手に入れた魚醤で煮る。
本当は醤油が欲しかったが、魚醤でも充分アタリである。
ブツ切りにした足は、にんにくと唐辛子を入れたオリーブ油で煮て
アヒージョにする。
そのとき、宿の主人が客が来たと知らせてきたので迎えに行く。
マーティアはダーク聖女モードであった。
やはりおしのびのときはそのほうが都合がいいのだろう。
服装はギルドに来たときのローブではなく黒いワンピースで帽子をかぶっているが
顔は隠していない。
ローブ姿のときはわからなかったが、髪の毛が金髪ではなく黒の
ストレートになっている。
和服が似合いそうだと思ったリョウだが、マーティアの大きすぎる胸では
いろいろと無理がでそうだ。
コリーヌとグレイシアはギルドに来たときと同じ服装である。
挨拶して部屋に案内する。
「マーティア様、実はもう1人、お客様が増えてしまいまして・・・」
部屋に行く途中でカテリーナのことを説明するリョウ。
「まあ、王女様もリョウ様の料理が気に入られたのですね」
「家庭料理なんですけどねぇ・・・」
ドアの前の護衛に言って、ドアを開けてもらう。
「カテリーナ様、マーティア様たちがいらっしゃいました」
「ご無沙汰しております、マーティアにございます」
マーティアはカテリーナと面識があったようだ。
「ん?!髪が違いますが確かに聖女様のようですね。おしのび用の
変装ですか?!」
「はい、騒ぎになるといけませんので」
本当は、変装ではなく変身だがそんなこと言う必要はない。
「では、料理を持ってまいりますので、少々お待ちください」
リョウはそう言って厨房に行く。
そして、ミーナたちと一緒に料理を運んできたが、コリーヌとグレイシアが
立ったままである。
「コリーヌさん、グレイシアさん、席についてください」
リョウがそう言うが、
「いや、座れねぇだろ!王女様だぞ」
「無理です」
2人は拒否する。
「カテリーナ様、2人が同席することに何か問題がありますか?」
リョウがカテリーナに聞く。
「今日はしのびですので構いません。2人とも座りなさい」
「カテリーナ様もそうおっしゃってますので、座ってください」
リョウは2人を座らせるが、さすがにカテリーナの隣は無理だろうと、
カテリーナから左回りに、マーティア、グレイシア、コリーヌ、そして
ミーナの順にする。
先ほど、ミーナを膝に座らせていたぐらいだから、ミーナが少しぐらい
失礼をしても大丈夫だろう。
さて、料理を食べてもらおう。




