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108 賢者

リョウは肉屋に来ていた。


カラアゲ用の鶏肉やトンカツ用の豚ロースなどを買うが、今回の

一番の目的は加工肉である。


ハムやベーコン、燻製肉などを見ていると、


「ああっ!賢者様!」

どこかで聞いたような聞かないような呼ばれ方をされる。


呼ばれた方を見ると、見覚えが・・・学園の料理人の1人であった。


「こんにちは。昨夜は手伝い、ありがとうございました」

挨拶をする。


「いいえ、貴重な経験をありがとうございます。ハンバーグ、

おいしかったです。料理長、さっそくメニューに取り入れるために

研究をはじめました」

そういえば、手伝いのお礼に料理人たちにも提供したんだった。


「あと、揚げ物用の道具を揃えることになりました」

上質な食用油は高価だが、学園なら問題ないだろうし、育ち盛りの

学生たちに揚げ物は人気になるだろう。


「そういうことなら、次に行ったときにコロッケやトンカツなんかの

作り方もお教えしましょう」


「おお!ありがとうございます。ぜひ、お願いします」

コロッケやトンカツがどういうものかわからないが、きっとおいしいに

違いないと期待する料理人。


「ところで、ハムやベーコンを買いたいのですが、おすすめのものが

あったら教えていただきたいのですが」


「何か料理を作られるのですか?」


「泊まっている宿屋の娘さんにねだられたもので今夜、作ってあげようかと」


「そ、それは・・・私達も行ってよろしいでしょうか?」


「ダメです」

あっさり断るリョウ。


「ええ~~~!!そこを何とか!!!」


「他に重要なお客も来るので、邪魔になりますからあきらめてください」

今回は、ほぼ1人で作るし、お忍びで聖女も来るので

他の者の相手なんかしていられない。


「ううっ・・・わかりました」

そう言ってガックリと肩を落として去る料理人。


ハムやベーコンのおすすめを聞いたやつは、放置かい!!

というか、彼もこの肉屋に買い物に来たんじゃないのか?!

何も買ってないようだったがいいのだろうか?


「お客さん、賢者様なのかい?!」

肉屋の店主らしいおやじが聞く。


「あははは・・・なぜかそう呼ばれることが多いですね。それより、

このハムとベーコンとパンチェッタをください」

適当に流してごまかすリョウ。


「賢者様って儲かるのかい?」


いや、流してるんだからツッコむなよと思いながら、リョウは答える。

「あなたがたの商売と同じですよ」


「え?!」


「知恵を高く買ってくれる人がいれば儲かるし、そうじゃなければ

儲からない。同じでしょ?!」


「なるほど。で、高く売れたのかい?」

納得するおやじ。


「まあまあですね」

前金で金貨10枚と言ったらねたまれそうだ。


「でも、仕入れがないから丸儲けじゃないのかい?」


「とんでもない。学校で習ったり、本を読んだり、実験して調べたりと

仕入れが大変なんですよ。しかも仕入れた知識が売れるとは限らない」


「ああ、確かに大変だな。俺なんかにはとても無理だ」

品物を渡しながらおやじが言う。


「世の中、楽なものなんてないですよ」

お金を払って、品物を受け取るリョウ。


そして、店の外にに出てふと思う。


俺、王都でのんびりする予定だったのに、また働きすぎてないか?!


・・・とりあえず、宿に戻ってミーナちゃんに癒されよう。

気を取り直して、残りの買い物をすませ、宿に向かうリョウであった。

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