106 知識の差
マーティアはアレンのことをリョウに説明する。
そして、助けるために力を貸してほしいと頼む。
「生まれつきの障害や病、老化、そして固定化してしまった障害は
ヒールでは治らないと言われています」
マーティアが説明する。
「そして傷跡は固定化した障害なのに、私が治してしまった・・・と」
「はい・・・グレイシア、他に傷跡はないかしら?」
「えっと・・・腰のあたりにあったはず・・・ああ、これだ」
そう言って左側の腰を見せるグレイシア。
そこにも傷跡があった。
「ヒール」
マーティアがヒールをかける。
しかし、ヒールの光が消えても傷跡はそのままだ。
そして、マーティアのヒールにリョウは違和感を感じた。
「サーチして傷の様子を調べて細胞分裂の方向をイメージしたり
しないんですか?」
「「「 え?! 」」」
少しの静寂の後、グレイシアが言う。
「マー様、俺は頭が悪いせいか、今リョウの言ったことがまるっきり
わからないんだが・・・」
「大丈夫、私もわかりません」
マーティアが答える。
「もちろん、私もです」
なぜか胸をはって言うコリーヌ。
それを聞いてリョウは理解した。
彼女達がヒールをするときは、ただ治ることを漠然とイメージしているだけだと。
どういう過程で傷が治るのかわかっていないのだ。
人の身体が細胞で出来ていることも知らないのだから、仕方のないことだろう。
サーチにしても、リョウはレーダーやアクティブソナー、医療関係の
レントゲンやエコーなどを知っているからイメージして使っているが、
知らない者にとってはイメージ出来ないので思いつかない。
そして気がつく。
この知識、理解出来る者は限られるだろうが、広まったりしたら
ヒールによる治療にとんでもない変革が起きるのではないかと。
とりあえず、伝授するのは聖女様だけにしないといけない。
「マーティア様、この技と知識が下手に広まるといろいろと弊害が
起きることになります。これ以降は他の2人には退室していただき
たいのですが・・・」
「え~~~!!絶対に秘密を漏らしたりしませんから、私にも伝授を!!」
と、コリーヌ。
「俺はバカだから、聞いてもわからないので大丈夫だぞ」
いや、グレイシア、それでいいのか?!
「「・・・・・・・・・」」
無言で見つめあうリョウとマーティア。
俗に言うキ○クオ○状態である。
そしてマーティが言う。
「2人とも部屋を出なさい」
「「 ええ~~~!! 」」
文句を言いたい2人だったが、マーティアに睨まれ、仕方なく部屋を出る。
「これでよろしいでしょうか?」
マーティアがリョウに確認する。
「よくないです」
「え?!!」
「ドアのところで、盗み聞きしようとしてますね」
立ち上がりドアを開けるマーティア。
そこには走って逃げていくコリーヌとグレイシアの後姿があった。
ため息をつきながら、ドアを閉め鍵をかけるマーティア。
「これでいいでしょうか?」
「はい、ではまず人間の身体はどういう風に出来ているかから説明します」
そう言って、内臓の位置や役割、細胞の構造などを図を描きながら
説明するリョウ。
あまりにも上手く描けることに自分でびっくりする。
そういえば技芸とは、絵や彫刻なども含まれるのであった。
技芸神の加護、すごすぎであった。




