表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/520

99 マーティア

やっと聖女様登場。

文章増量(当社比50%増し)でお送りいたします。

その代わり、次回は短いです(当社比30%減)

リョウたちが王都に着く数日前のことである。



少年がベッドの上で苦しんでいた。

彼の歳は6つであるが、同年代の子よりも小さく痩せていて、

もっと幼いように見える。


彼の名は、アレン・リリエンタール、リリエンタール公爵家の

長男である。


「ヒール!!」

声とともにアレンの身体を光が包み込む。

光が消えていくとともに少年の頬に赤みがさしてきて、

荒かった息づかいも穏やかになる。

そして、そのまま寝入ったようだ。


「聖女様、いつも、ありがとうございます」

様子を見守っていた母親、ヴァレリ・リリエンタール公爵夫人が

声をかける。


そう、ヒールをかけたのは聖女である。

名前はマーティア、17歳、金髪翠眼きんぱつすいがんの美少女である。

純白に金糸で縁どられた修道服が清楚さをかもしだしているのだが

そのグラマーな身体をフォローしきれていない。


「いえ、私の力不足で、申し訳ありません」

少年は回復したはずなのに、マーティアは謝る。


実は、アレンは治ったわけではなく、一時的に症状がやわらいだだけである。


先天的な障害や老化、後天的でも固定してしまった障害は

ヒールでは治らないというのが、この世界の常識である。


そして、彼は先天的な心臓の障害によって、ずっと苦しんできた。


疲れやすく、食が細いため身体が大きくならず、1年前に初めて発作が

起きてから、ときどき今回のような発作に襲われるようになった。


幸いにも彼は、公爵家という裕福な家に生まれたため充分な治療を受け、

時にはこのように聖女にまで診てもらえるのだが、完治には至らない。


「いえ、こればかりは運命としか言いようがないですから」

そう言いながらもヴァレリからは、やりきれなさがにじみ出ている。


本来ならば、公爵家の嫡男として幸せな日々を送っているはずが

この病のために、運動もままならないのだ。

そして、いつかは命さえも・・・。


その思いはマーティアも同じである。

先天的な病は、聖女でも治すことは出来ないとわかっていても

この優しく聡明な男の子を助けたいと思わずにはいられなかった。





マーティアは教会に戻り、大聖堂で祈りを捧げていた。


聖デプラクス教会は主神である創造神をはじめ戦神や魔法神などを

信仰する多神教である。そして、ここシルフィード国の教会こそが

本山であり、教会の所有するその区域一帯は治外法権となっている。


ふと、マーティアは、身体が浮かび上がるような感覚を感じた。

何度も覚えのあるこの感覚・・・そして、目を開けると目の前には

やはり主神ライゼンがいた。


「半年ぶりかの、いろいろとがんばっているようじゃの」

ライゼンが声をかける。


「いえ、自分の力不足を感じる日々でございます」

マーティアが言う。


「前にも言ったが限界を感じるということは大切なことじゃよ。

そして、その限界を越える努力をするということもな。

結果として越えられなくともその努力は無駄にはならん」

諭すようにライゼンが言う。


「でも・・・」


「まあいいから、とりあえず座れ」

マーティアの言葉をさえぎり、椅子に座るようにうながす声があった。


「茶でも飲みながら落ち着いて話したほうが、いい考えも浮かぶだろう。

女の子の好きそうなおいしいお菓子もあるぞ」

その大きな身体に合わせた椅子に座るグラダインが言う。


「は、はい・・・初めまして、マーティアと申します」

改めて挨拶をして、椅子に座るマーティア。


「おう、初めてだったか。俺はグラダイン、戦神だ」

鏡スマホで何回か見ていたので、会っていたような気になっていたらしい。


「戦神様でございましたか、よろしくお願いします」

マーティアはグラダインに頭を下げた後、ライゼンの方を向く。


「ライゼン様、やはりお力を貸していただくことは・・・」


「うむ、ダメじゃ。わしらが直接力を貸すのはそれこそこの世界の

危機でもないかぎりありえん。それに、あのアレン・・・じゃったか

彼1人を特別扱いすることも出来ん」


ライゼンの言葉を聞いて、やはりダメかと肩をおとすマーティア。


「まあ、とりあえずお茶でも飲むッス。今日のお菓子はフルーツタルトッスよ」

ナミカが紅茶とお菓子を出してくれる。


それは、マーティアが見たこともないお菓子であった。


フルーツと言う名前がついているとおり、上には赤・緑・黄色・紫と

色とりどりの果物が乗っていて、その上に何か透明な膜のような物が

フルーツを保護するようにかかっていた。


タルトというのは、このお菓子の通称なのだろう。


その美しさ・かわいらしさに食べてしまうのがためらわれたが

意を決してフォークを入れる。

サクッと下のビスケットのような土台が割れ、フルーツと土台に

はさまれた白い物が見えた。


切ったタルトを口に運ぶ。

フルーツの甘さと酸味、土台のサクっとした感触、それをまとめ上げる

甘い白い物。

美味しいとしか言いようがなかった。


「さすがに神の世界のお菓子、美味しいです」

マーティアが心から言う。


「これは、人の世界のお菓子じゃぞ」

ライゼンが言う。


「えっ!」

驚くマーティア。


「ニホンという国があっての、そこで買ってきてもらっておるのじゃ」

ナミカが深浦家に行くついでに評判の店に行って買ってきていた。


「そして、そこはこのお菓子1つをとってみてもわかるとおり

そのほうたちの国よりずっと文明が進んでおるのじゃ。

もちろん、医術もな。」


医術が進んでいる・・・マーティアは今回呼ばれた意味を理解するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ