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スクーバダイビング体験リポート

作者: ONOKILL

辻本綾子(つじもとあやこ)は控室でウェットスーツを身に付けると一段落し、その場に座り込んだ。

彼女が身に付けた両面スキンの真っ黒なウェットスーツは、彼女の女性らしい身体のライン、特に胸元のバストラインを際立たせていた。

しかし、その鮮やかさとは裏腹に身に付けるのにとても苦労した。

この日、彼女が身に付けたウェットスーツは、潜水教室で身に付けていた使い古したものではなく新品だったが、身体のサイズよりもほんの僅かだが小さかったのだ。

5mm厚の両面スキンの生地は新品とはいえ、勢いよく引っ張ると簡単に破れてしまうので気を付ける必要があると、このスーツを準備した衣装係から説明を受けた。しかも控室には水が無く、スーツを水に濡らしながら着ることが出来ないので、我慢強くゆっくりと身に付けるしかなかった。


最初にズボンを手に取り、自分の足に差し込んだが、予想していた通り、水が無いとすんなりと履けないことが分かった。

素材自体が持つ圧迫感と密着感に加え、生地のサイズが5mmと分厚くてうまく履けないのだ。

それでも辛抱強く苦労してズボンを履き終えた綾子は、今度はジャケットを手にした。

ズボンを履いた時と同じように苦労しながらジャケットに両腕を通した後、胸元に手繰り寄せながらジッパーを一気に首元まで上げた。すると、彼女の素晴らしく豊満な胸を包むにはジャケットの寸法が合わず、僅かだが押しつぶされたようになった。

彼女は胸を楽にするために、胸元を開けたままにしたかったが、テレビがそれを許さないことを分かっていた。だからその思いを断ち切るように一気に閉めたのだ。

最後に足を大きく広げてガニ股になり、ビーバーテールを股に通し、下腹部に付いている金具で固定した。

こうして彼女の身体はウェットスーツに包まれた。


一息ついていた綾子は改めて自分の姿を眺めた。

黒いスキン地が綾子の身体にピッタリと張り付いていて、彼女の身体のラインを想像以上に強調していることが分かった。

彼女は自分の姿を眺めながら、先日テレビで見た、ある外国映画に出てくる女スパイを思い出していた。

その女スパイは今の彼女と同じように黒いウェットスーツに身を包み、海を潜って敵のアジトに一人潜入するのだ。

女スパイを演じる女優は、さすがに映画女優らしく、美しい顔ととても良いプロポーションしていたのだが、海から上がった後の水に濡れて光るウェットスーツ姿が妙に艶めかしく、その身体を更に美しく見せていたのを覚えていた。

彼女は映画女優のように美人ではなく、プロポーションも決して褒められるものでは無いが、このウェットスーツ姿は、あの時の女スパイと同じように艶めかしく感じられた。

そして、これからテレビを通して、この姿を視聴者に見られるのかと思うと、彼女の身体は急に熱くなった。

その時、壁に掛けられた時計を見て、テレビ放映の本番まであと僅かしかないことに気付いた彼女は徐に立ち上がると、扉を開けて控室を出て行った。


辻本綾子はNANテレビに勤めるアナウンサーだ。

このテレビ局に入社をして三年目の彼女は、夕方のニュース番組を担当していたが、メインではなくサブで、番組内で紹介される様々な体験レポートをこなすのが彼女のアナウンサーとしての仕事なのだ。

そして今回の体験レポートは「スクーバダイビング」だった。

スクーバダイビングは彼女にとって初めての経験であり、しかも潜水学校に行って潜水士と同じ厳しい訓練を行う本格的なものだ。

彼女の体験レポートはすでに収録されていて、今日はその録画を紹介する形で番組に出演するのだが、体験時と同じくダイビングのフル装備をして出演することになっていたのである。


このため綾子はいつもより早く局入りすると、早速ウェットスーツに着替えた。

その後、メイク室を経てスタジオ入りした彼女は、丸いゴーグル、ウエイトベルト、フィン、更に重い酸素ボンベまで背負って、そのまま控用の丸椅子に座って自分の出番を待った。

ウェットスーツは保温性が高く、冷たい水中で奪われる体温を逃がさないようにするためのもので、水中に入らなければただ暑いだけだ。

しかもスタジオ内は沢山の照明により控室やメイク室より格段に室温が高く、彼女は出演前にも関わらず全身が汗だくになり、うなだれながら出番を待っているしかなかった。

彼女のメイクを担当するメイク係が彼女の額から噴き出た汗を拭うと、もう一度軽くメイクし直してくれた。


「それでは、今回のスクーバダイビング体験レポートを担当してくれた辻本アナウンサーをお呼びしましょう。辻本アナー!」

辻本綾子の同期であり、総合司会を務める髙木あずさアナウンサーがメインスタジオの中央から綾子の名前を呼んだ。

彼女は自分の出番がやってくると、ゆっくりとその重い腰を上げた。

ボンベの重みで僅かに前かがみになり、フィンでつまずかないように蛙が立ちあがって歩くような足取りで、彼女は何とかカメラの前に立った。


おわり

昔々、黒スキン地のウェットスーツに身を包んだ若い女子アナウンサーが、生放送のテレビに出演した、という話をネットで見て、それをそのまま超短編にしました。

これは実物を見たいです。テレビ局かどこかに録画が残っていて、誰かネットで流してくれないかな、と思います。

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