第4話「星空の楽譜」と「虚構の列車」
万華鏡のような星空が夜空には広がっていました。標高3000メートルの列車はもう止まることはありません。列車の窓から星空を仰ぐ小さな少女の感情の楽譜は、誰もが夢見るほどの美しい星空にどのような音楽を奏でるのでしょう。
「この世界に理想郷なんてそう簡単に見つからないって思っていたけど、どこかにはこんなに美しい景色があるならこの世界も誰かにとっては理想郷なのかな」
「そんなことばかり言っているからろくな人生も歩めないんだろうな、本当に」
「いつかはあんな星々に生まれ変われるならーー全てを許せる気もするからさ」
それでもたぶん誰も答えなんてわからないのです。どうして星々があんなに美しいのかということは。だからこそ星々はあんなにも美しいのですから。
そしてこんな虚構のような世界にはいつも虚構のような現実が待ちました。
不穏なる竜騎士たちが上空を飛んでいたのです。羨ましいほどの自由さで。
「いつからぼくたちも影踏みの鬼になれるんだろう。いつもぼくたちは鬼さんに影を踏まれるばかりで、なかなか鬼さんになれる機会は回ってこないんだけど」
「わかってるだろ愛鈴? お前は月葉のことを抱いてあげたまま、もうこの窓枠から飛び降りたほうがいい。流れ星に大切な願い事をしっかり願いねがらね」
「またどこかで会おう奈季。いつかの夢が果実のように落ちてしまうまえにさ」
近づいてくるのは死を導こうとする運命。終わらせる意識。どんどん見えなくなっていく時と空間。抱きとめられたまま遠く離れた。もう戻れない分かれ道の出来事。捉えどころのない芸術のように浮遊した陰謀の種。落とされていくだけの答え。救われないからこそ人は願うのでしょうか。最後の行く先を委ねるほどに。
帰らないといけない場所が愛鈴にはあったはずでした。この世界のどこを眺めてもたとえ風前の灯火のようであっても。鉄橋を走行する列車の窓枠から飛び降りるようにしてーー月の光も花の香りも届かない湖の中へと2人は落ちていきました。