第13話 「心臓の寓意」と「大空の智謀」
それは本当にいきなりでした。まるでいつの間にか黒き影と愛鈴自身が移り変わっていたように気付いた時には橋の上で囲まれていたのです。”この水の都が擁している騎士団ではない騎士たち”によって。これには愛鈴も苦笑いを隠せません。
「随分と物騒だね。同盟国でもない相手に軍隊を送り込んで治安維持活動なんて。ーーこれから起こそうとしている戦争の予行練習でも君たちはしているのかな?」
「本当にこの世界にはいるようね。あなたのようにこの世界に生まれてきたという事実さえも誤りで、この世界に生きているということさえも正しくない人間が」
愛鈴も気付いていました。少なくともこの嵐のような擾乱を起こそうとしているあの少女だけは、こちらのことを偽物と勘違いしているわけではないのだろうと。
なぎ倒すように打ち寄せる磨耗させるような駆け引き。パズルのような智謀。
明らかになぜか彼女だけは愛鈴を愛鈴と知って消し殺そうとしていたのです。
それでもどうして愛鈴がこのまま彼女を相手取れるというのでしょう。あいにくながら今の愛鈴に彼女たちとお遊びをしているような余裕なんてありませんから。
ホワイトルビーのような心臓に伝わる促迫するような冷たい光に、生きていくために痛手となるものさえも天性なら、永遠の慈悲なんてどこにもないようで。
「ぼくの事をよく知っている割にはーー君はまだぼくの何も知らないみたいだな」
誰かが思い描いたフィクション。目隠しのまま歩む未来。錯綜する過ぎ去った時。解読できない寓意が枝分かれしたような満天下の悪夢で、明滅する失ったものを取り戻すように、始まりを奏でる者であるようにーー大きな爆発が起きました。