第五話 『意外な来客の知らせ』
陽が上がり、気温も上がり、ようやく身体が温まり始めた時分のことです。
「王女さまーっ」
カランコロン、という門扉の音と共に可愛らしい声が私を呼びました。
「ふぁ……や、まと……ちゃん……?」
時計の表示は『8:30』
あの無礼者共を追い払ってから、三時間近く眠っていたようです。
姿見に映った顔の口元には、よだれの跡が。慌てて拭き取り、まだ半開きの目をぐしぐしと擦りながら、階段を下りました。
「あ、おはようございます。王女様」
「おはよう、大和ちゃん」
私の挨拶に彼女は深々と頭を下げました。
給仕だからこそ、こうして寝間着で髪ぐしゃでノーメイクでも顔合わせが出来るのです。そう考えると今現在私が最も心を開けるのは彼女なのかもしれませんね。
「今日は、隣国から沢山の果物が届いたそうです――一番のオススメは――今夜も綺麗なお月様が見える――」
大和ちゃんは、いつも通り今朝の王都の様子と今日の天気など色々なことを、頑張って伝令してくれます。
そんな中、私はと言えば、大和ちゃんの愛らしい顔を観察するのに夢中でした。ニュースのことなど全く頭に入ってきません。
「王女様……聞いておられますか……?」
にこにこ笑んでいた私に大和ちゃんは少々不満げな表情。少しむっとしたその顔も私は好きですわ。
はぁ……まぁいいです、大和ちゃんはそう呟くと思い出したように、告げました。
「あ、それとですね。王女様」
「はい?」
「本日の夕刻、春さまがいらっしゃいますよ」
「え」
口が半開きで止まってしまいました。
どうしてって、あんなに私を陥れようとしていたはずの女がそう簡単に、戻ってくるでしょうか。モノの道理に合いません。
あ、分かりましたわ。
嘲笑いに来るに違いないのです。未だこうやって阿呆のように、塔に閉じ込められた私を外から小馬鹿にするため。
そうに違いありませんわ。くっ……想像しただけで虫唾が走りおるわ……!
仕方がありません……であるならば、負けないよう、百の罵倒文句を今から練り上げておきましょう。
「うっふっふっふっふ」
例の女が私の詰りに屈服する様を妄想して、私はにやにやが止まりません。
そして、大和ちゃんが一人、眉尻を落として私を見つめていたことなど気付きもしませんでした。