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第三話 『牢の中で私は順調に腐ります』

 ―夜―


 今晩は雲一つなく、目の醒めるように澄んだ寒空が窓の外に見えます。高度が低くなった満月はただでさえ冷涼とした大地を青白く、より寒々しいものに変えています。凍てつく冬の夜でございます。 


 一般人であれば、凍えて死んでしまう気温ですが、わたくしこれでも『冬の女王』、この程度おちゃのこさいさいでござりんす。


「ふぅーむむむ……」


 親指と人差し指を顎に当てて眉根にシワを。気分は完全に探偵シャーロックです。青白く怜悧れいりな月光を放つ満月を眺めながら、私は先刻の大和ちゃんのお話を思い出していました。


 つまるところ、春の女王は国長様とデキていたのです。おやおやいけませんね。たしか彼女には夫が居た筈です。

 要するに、これは不倫ということでしょうか。何だか色々お盛んなようです、春だけに。オホホ、冗談が過ぎましたわ。


 はあ……、なんだかこの囚人生活でかなり心が荒んでしまったようです。早い所、脱出せねば。さもなくばこの先どうなってしまうのやら。夫と子供も心配ですし。


「んにぃ……!」


 柔らかいソファの上、私は節々の関節を伸ばして身体を反らせます。レース素材で出来たマリンブルゥのドレスが、私の動きに合わせしゃわしゃわと鳴ります。


 しかしまあ、これでようやく私の所へ春の女王様がいらっしゃらない理由が分かりました。なれば、あとはその問題を解決すればよいだけ。


 ふむ。最初は新婚生活に浮かれて、『四季の塔』への参上を忘れているのかと思いました。


 しかし、それは事実と異なり、彼女は夫とは別のもう一人の男との恋路にいそしんでいたと。しかも、畏れ多くも『国長様』との逢瀬でありますか。

 普通に考えて、春の女王のそれは職務怠慢という追及すべき事柄なのですが、なにせお相手はこの国最高の権力者。報道に管制を敷くことなど容易いことでありましょう。


 そして、あらゆるスキャンダルを抑えてのこのお触れ。


『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない。』


 あたかもこの長きに渡る天災の責が私にあるような綴り口。まったくもって完璧ですわ。国長様は心根から政治家なのでしょう。

 それと、これは憶測の域を出ませんが、間違いなく春の女王様も今回のお触れに圧力をかけたに違いありません。あくまで自分は被害者である、潔白である、と公に主張する材料とするために。

 まったく。

 あの方も随分と手馴れていらっしゃいます。やはりこれくらいに器用でないと、旦那の目を忍んで外に男を作ることなど出来ないのでしょうね。全くもってその周到さには舌を巻いてしまいます。


 あらら、またもや荒んだ想像を働かせてしまいました。いけませんね、慎むべし、慎むべし。

 ふう……。しかし、ともあれ暫くはここから出られなさそうです。

 まいりました……。


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