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第一話 『檻に囚われまして、はや四百日……』

 ここは監獄。閉じ込めの最中、暇を持て余さぬように、と大量の書籍を備蓄しておりましたが、もう全て読み終えてしまいました。だって、もう一年以上はこの閉鎖空間で過ごしているんですもの。何十冊とございます本はもう一言一句外さず、そらんずることができます。

 ああ、暇ですわ。退屈ですわ。


――わたくしは檻に閉じ込められし者。哀れな囚われの王女。


 皆様は『四季の塔』というものを存じ上げておりますか。

 たぶん、ご存知ないでしょう。

 私はこの国で、『冬の女王』と呼ばれ、人々から慕われております。いえ、正確に言えば現在は疎まれているのですが、しかし、それはまた後述致しましょう。

 さて、わたくしこと冬の――がおりますから、春の、夏の、秋の、と他に三人の女王様がいらっしゃるも道理。

 私たち四人の女王はおよそ三か月周期で『四季の塔』に入っておりました。

 この塔は資格ある者しか入ることを許されず、また、必ず誰か一人が入っておりませんと瞬く間に崩壊してしまいます。そして、それこそは世界の破滅を意味するのでございます。

 ですから、私たち資格ある者、つまり四人の女王は毎年、決められた時期に四回の引継ぎを行っていたのでございます。

 

「だっちゅーのに、あの女ァ……」


 私は鉄格子をむんずと掴んで毒づきます。白銀の世界が外には広がり(私が一年以上塔に居る影響で降雪が止まらないのです)そして、あの霞んだ山の向こうに例の女は居るのでありましょう。

 おおかた、こうなった原因は分かります。かの女――つまりは『春の女王』は塔に入るのを渋っているのです。その魂胆は……まあ、「夫と別れたくなぁい」という所でありましょうね。

 もちろん私にも伴侶がおります。もう結婚して一人の男の子をもうけております。

 子供は生まれてまだ五年と経っていない童でありますが、しかしながら、私は毎年三か月の間、塔に赴かねばなりません。暫しの別れの時期が訪れるたび、それは息子が大泣きして大変でした。

 そんな息子をばあば(私から見た母ですね)は、


「××ちゃん。ママは皆の為に冬を呼んでくれるのよ? ××ちゃんも冬が無くなってサンタさんがやって来てくれなくなったら、嫌でしょう?」


とお上手にたしなめてくれたものです。夫も寂しげな顔をしながらも、協力してくれたものです。

 私はそんな沢山の理解者に恵まれ、だからこそ、安心して塔に入ることが出来たのです。


 しかしながら、後の交代の時期。

 春の女王様はいらっしゃいませんでした。

 これこそがこの国に訪れた『明けぬ冬』の真実なのです。


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