Story005 ギルド安定所
数分と掛からずに、レオンはギルド安定所に辿り着いた。
だがその安定所の出入口には、自分に合うギルドを探す若者から、以前所属していたギルドとは違うギルドを探す年配の方まで大人数の老若男女が殺到していて、すぐに中に入れる状況ではなかった。
七年前から発足し始めた多くのギルドが多くの伝説を残し、さらに人気を博したせいで、国内外問わずギルドに所属したい方々がドッと押し寄せ、さらにギルドの数が増え、伝説を残し、人気を博し……を繰り返したからだ。
「……相変わらずだなぁここは。僕が入れる隙間はあるかな?」
これまでにレオンは数回、この安定所へと赴いた事があった。
今回の訪問と同じく、自身が所属しているギルドの宣伝がちゃんとされているのかどうかを確認するためにだ。
しかしだからと言って、毎回毎回いろんな人達にギュウギュウ詰めにされながら安定所内に入るのに慣れたワケではない。
「………………いや、迷っていちゃ帰れない。行こう!」
これまでに味わった汗と湿気が混じったギュウギュウ詰め具合を思い出し、一瞬入るのを躊躇ったレオン。だがしかし、このままジッとしているワケにもいかないため、意を決し人の肉の壁というステージへと立ち向かう――!
――弾かれた。
※
それから人肉の壁へと挑戦する事、八度目。
主に出入口付近に展開している、人肉の壁の突破になんとか成功したレオンは、各ギルドの宣伝広告が貼ってある掲示板が設置された場所へ向かった。
「やれやれ。前回は五回で突破できたのに……来年の事を思うと憂鬱だなぁ」
人肉の壁での事を思い出し、まるでギルド長のようにグッタリしながらレオンは廊下を進む。
「お、レオンじゃん」
すると、その時だった。
後ろから、気さくな感じで声をかけられた。
「……その声、ジェイコブ?」
知っている声だったので、一応訊ねながら振り向く。
するとそこにいたのは、レオンより五歳ほど年上であろう、短い茶髪を生やした茶色の瞳の青年だった。
「よっ! 久しぶり」
「やっぱりジェイコブか」
レオンは柔和な笑みを見せながら言った。
「ジェイコブも掲示板の確認に?」
「ああそうだよ。まったく、最近の安定所は入るだけでも一苦労だな。そろそろ人の流れを整理するか、出入口を大きくした方がいいんじゃねぇの?」
「あははは、そうだよね」
「お前のイトコにそろそろそう言っといてくれよ」
「いや、ウチのイトコはこの件については僕の言葉でも聞かないよ」
「は? なんで?」
「どうせ『こっちもこっちで忙しいんです』と返されるのがオチだから」
「まぁそうだろうけどさぁ、それでも下っ端の修道女にでも行列の整理を頼むべきだぜここは」
「最近じゃその下っ端の修道女も受付に出張っているらしいよ」
「マジかよ。どんだけ人手不足なんだアルテラ教」
「勇者様たちの信仰心の薄さがうつって、多くの聖職者が冒険者に転職したって噂だよ」
「いやさすがに信仰心の薄さどうこうはねぇだろ。つうかそもそも総主教が勇者様の一人だしよ」
「いや、あの勇者様だから……」
「ああ、なるほどな……」
改めて総主教がどんな人物かを思い出し、苦笑する二人。
というか二人にそんな反応をさせるとは、いったいどんな元勇者な総主教なのだろうか。
「と、そんな事を話してる場合じゃない」
「ああ、そうだね。早く見に行こう」
しかしすぐに……先にジェイコブが、そして遅れてレオンが我に返る。
「確認したら早く帰らんと。ウチのギルドに新人が面接に来ていたら本末転倒だ」
※
出入口はともかく、安定所はとても広い施設だった。
こちらの世界で言うところの、学校の校舎と同じくらいはあろうか。
それだけシルクレッド王国のギルドに所属したい者が増え、それに伴い王国内の安定所の数を増やしたり、増築した結果である。
そんな中を二人は、行き交う人とぶつからないよう気を付けながら進み、やっとの思いで目的地に辿り着いた。
目的地は安定所内に複数ある廊下の内、特に幅が広い廊下だ。
二人の目の前の廊下の壁には、赤色の、巨大で横長な掲示板が掛けられている。冒険者ギルド用の掲示板だ。
掲示板には、掲示板自体の色がほとんど見えなくなるほど多くの、ギルドの新人募集の広告が貼られている。
ちなみに冒険者ギルド用の掲示板の隣には、書籍を出版する出版ギルドの広告が貼られた緑色の掲示板や、執事及び家政婦ギルドの広告が貼られた黒い掲示板などの様々なギルド用の掲示板があるのだが、残念ながら冒険者用の掲示板が他の掲示板よりも巨大であるため、レオン達の位置からは、それらを見る事は叶わない。
言うまでもなく、シルクレッド王国内の冒険者ギルドが増えたせいである。
「えーと、ウチのギルドは……っと」
「えーと、清浄……戦団は、と……」
所属するギルドが違うため、ここから二人は別行動をとった。
巨大な掲示板に貼り付けられている広告を、一つずつ丁寧に確認していくレオンとジェイコブ。
そして互いの姿が、L字に曲がった壁の向こうに見えなくなった頃。
ジェイコブの方で「お」と声が聞こえた。おそらく、自分のギルドを見つけたのだろう。
負けてはいられないと、レオンも『清浄戦団』の広告探しに力を入れる……のだが、こちらはなかなか見つからない。
「………………まさか、また……?」
冒険者ギルド用の掲示板に貼られた広告の六割ほどを確認したところで、とある可能性に思い至るレオン。
すぐに彼は場所を移動し、冒険者ギルドの掲示板から離れていく。
レオンが移動した先にあるのは、執事及び家政婦ギルドの掲示板だ。
「前もこっちに間違って掲示されていたしなぁ……って、やっぱりここ!?」
前回の経験からここと踏んだのだが、なんとすぐに目的の広告を発見した。
悪い予感がこうも簡単に的中した事に対して、レオンは複雑な気持ちを覚える。
しかしすぐに……今までと同じく馬鹿の一つ覚えのように、敢えてこんな間違いをするだろう唯一の人物――己の知り合いに対し、久々に怒りを覚えた。
「あっれぇ? ちょっとレナちゃん! なんでウチのギルドの求人広告が執事及び家政婦ギルドの掲示板に貼ってあるの!?」