Story015 昼食会
その後、いったいどういうワケなのか。
何事もなかったかのように……合同入団式はそのまま続行となった。
イオ達新入団員は説明を求めたかったが、求めようとした瞬間に、大地の勇者であるミリアンの、有無を言わせぬ圧力を感じ……結局そのまま、ギルドの関係者による挨拶へと移行し、そして――。
『これにて、神暦1387年度、第十三回国営ギルド合同入団式を終了する!! 一同、礼!!』
――最初から最後まで、不明な部分が多い合同入団式は終わりを迎えた。
イオは正直ホッとした。
分からない事だらけの式だったから、というのもあるが、アルテラ教の関係者やギルドの関係者から向けられる、期待が込められた視線に辟易したから、というのもあったからだ。
期待してくれるのは、もちろん嬉しい。
それに見合った働きをしたい、と思えるくらい。
だけど一方で、これだけの規模の式を挙行した事も手伝って、その期待をとても重く感じたのである。
『この後は懇親会を兼ねた昼食となる。新入団員のみなさま、そしてご来賓のみなさまには……隣の大広間への移動をお願いする!』
しかし式は終わっても、すぐに帰れそうになかった!!
「…………ふぇ?」
この瞬間まで。
式の最中感じていた緊張感のせいで、イオはすっかり合同入団式の日程を忘れていた。慌てて『国営ギルド合同入団式開催のお知らせ』を取り出し、確認する……確かに昼食をとる予定も、ちゃんとそこには書かれていた。
※
入団式が始まったのは、午前九時。
そしてアルテラ教関係者やギルド関係者による挨拶に二時間近く掛かったので、現在十時五十四分。
少し早いが、昼食をとってもいい時間帯だろう。
イオ達は、司会進行役の男性の新たな指示に従い隣室に移動する。
ベラドンナ亭の従業員達が、彼女達の動きに合わせ隣室への扉を開ける。そしてイオ達は……多くの色彩を目撃した。
まず目に飛び込んできたのは、張り詰めた雰囲気のあった隣室と同じく、暖色系の絨毯が敷かれたりしているものの、大理石の壁に淡い色合いの、多くの装飾用の帯や造花が飾られている……まるで、披露宴の会場のような雰囲気の、華やかな大広間だった。
次に目に飛び込んできたのは、大広間に並べられた多くの食卓。
しかし椅子はどこにも見当たらない。どうやら立食形式のようだ。
そんな食卓の上には、壁にあるのと同じ淡い色合いの造花や装飾用の帯。
さらには様々な料理が乗った皿が所狭しとズラリと並べられていた。イオ達新入団員はその圧巻の光景に、思わず息を呑んだ。
一部の食いしん坊冒険者はゴクリと唾を飲んだ。
「ま、まさか本当に昼食を食べていいなんてッ!!」
中でもアノンは、目を輝かせながら唾を飲み込み……きれていなかった。少々口から唾液が垂れている。
入団式の間中、よほどお腹を空かせていたのか、それとも美味しい料理を食べるのが楽しみなだけなのかは分からない。
しかし一方で、彼と一緒に移動をしていたイオは……いや、彼女だけではない。この場にいるほとんどの新入団員達は、同じ疑念を抱いていた。
――何から何まで、恵まれ過ぎていないか?
わざわざ高級宿屋で、ギルドの関係者やアルテラ教の関係者が主催する入団式を催してもらい、祝福してもらい、昼食まで用意されている。
到れり尽くせりとはまさにこの事である。
もはや何か裏が……例えば、みんなの気持ちを上げておいて、いざ、ギルドでの仕事に取り掛かる際は、安定所で言われた『ブラック・ギルド』のように、非合法な手段でこちらが鬱になるほど使い潰されたりする不条理が待っているのではないか……と勘繰ってしまうくらいだ。
いや、ブラック・ギルドを取り締まる立場にある《教会》関係者が、そんな事を許すハズはないと思うのだが。
「イェイ! この時を待ってたぜ!」
「もう私、お腹ペコペコだよぉー!」
そして新入団員達のほとんどが、己の中に抱いた疑念のせいで、なかなか料理に手を付けようとしなかった……そんな時だった。そんな重苦しい空気をぶち壊すかのような声が突然上がった。
しかもその声は、つい先ほど聞いたばかりの声だ。
まさかと思い、新入団員全員が声のした方を見て……唖然とした。
「いやー、今回の料理も気合が入ってるねぇ!」
「早く食べようぜみんな! 料理が冷めちまうぞぉ!」
なんと、その声を出したのは……先ほどの【国営ギルド】についての説明の途中で、勇者に対して怒鳴り付けるという不敬を働いただけでなく、仲間を募り、出ていった、あの男女二人組ではないか!?
「そうだね。そろそろ食べないと」
「料理を作ってくださった人に失礼だぞ」
すると今度は、イオ達の背後から声が聞こえた。
イオにも、そしてアノンにも聞き覚えがある声だ。
二人はハッとして、後ろを振り向いた。
そこにいたのは、入団式の際にはギルド関係者として新入団員達に挨拶をした、清掃ギルド『清浄戦団』の副ギルド長であるレオンと、警備ギルド『暁天戦団』のギルド長であるアッシュという名の青年だった。
「ッ! レオンさ――」
「あっ! ギルド長!」
突然の上司の登場に、イオは目を丸くした。
けれどすぐに、上司となるレオン達に挨拶をしようとした……のだが、その前にアノンに、挨拶を先越された。どうやらアノンが入団したのは、アッシュがギルド長を務める警備ギルド『暁天戦団』のようだ。
「イオさん、残ってくれたんだね。よかったよかった」
「まったく。確かにああいう偽入団者がいた方が好都合なんだが……毎回毎回必要以上に新入団員が減ったりしないか不安だぞ」
するとそんな二人に対し、レオンは微笑みを。
アッシュは、二人が残ってくれた事への安堵の溜め息を返した。
「…………偽、入団者?」
挨拶の出鼻を挫かれたイオは、改めて挨拶をする瞬間を計りかねていた。
だがしかし、その直後に聞こえてきた、レオンとアッシュの会話の中に気になる点があったため……思わず彼女は、理解ができない事や緊張する事の連続で、心が少々参って余裕がないのもあり、挨拶の事などすっかり忘れ、特に気になった部分のみを繰り返す形で訊ねた。
「ああ、偽入団者っていうのはね」
しかし、場合によっては失礼な訊き方をしたにも拘わらず、レオンはすぐに疑問に答えてくれた。
「実はこの入団式も……それぞれのギルドの入団試験の一環でもあるんだ」