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59 獣人さんの登場です

 ローラたちは宿題をキリのいいところまで進めてから、食堂に行って朝食を食べることにした。

 着ぐるみパジャマのままで、しかもハクを連れているから、モンスターの群れが校内に侵入したと思われるかもしれない――などとローラは心配した。

 だが、それは杞憂だった。

 それどころか食堂のオバチャンは「あらローラちゃんたち。可愛いパジャマだねぇ」と褒めてくれた。


「パジャレンジャーの姿なのに一瞬で私たちの正体を見抜くとは……あのオバチャン、実は探偵かも知れませんよ……!」


「いや、その理屈はおかしい」


 アンナに冷静につっこまれ、ローラはガクリとうなだれる。

 実のところ、ローラもうすうす勘づいていたのだ。

 この着ぐるみパジャマには、正体を隠す能力が備わっていないということを。


「まあ、今日もオムレツが美味しいので良しとしましょう。オムレツが美味しければ、人生が豊かになります」


「ぴー」


 ハクが同意してくれた。生まれたばかりなのにオムレツの素晴らしさを理解しているとは、なかなか見所のある神獣である。


「さてと……部屋に戻って宿題の続きをやりましょうか」


 全員の皿が空になったのを確認して、ローラは立ち上がる。

 するとアンナが大きなため息を吐いた。


「やってもやっても終わりが見えない。憂鬱」


「あら。わたくしは明日には終わりそうですわよ」


「……これだから金持ちは」


「宿題とお金は関係ありませんわ!」


 アンナの理不尽な一言にシャーロットは抗議した。

 しかしシャーロットの進み具合がゴージャスなのは確かだった。

 ローラもアンナも、夏休み中に終わるかギリギリという状況なのに、シャーロットは倍近い速度で進めている。

 たまに忘れそうになるが、シャーロットは実践だけでなく座学も優秀なのだ。

 羨ましいが、頼もしい。


「いざとなったら、シャーロットさん。家庭教師をお願いします!」


「私にもお願い」


「ええ、構いませんわ」


 シャーロットの協力があれば、宿題が終わる可能性がぐんと高まる。

 ローラは肩が軽くなったような気持ちで寮に向かった。

 そして再び宿題を進める。

 そのときだ。

 部屋の扉が突如、ドンドンドンと激しく叩かれたのである。


「誰でしょう? エミリア先生でしょうか」


「エミリア先生はこんな品のないノックをしないでしょう」


「強盗かも知れない」


「強盗!?」


 ローラはアンナの一言に驚き、ベッドの下から剣を引きずり出した。

 だが、こんな金目の物がなさそうな学生寮にわざわざ強盗に入る人がいるだろうか。

 しかも生徒は全員、冒険者の卵だ。その辺の一般人とは戦闘力が根本的に違う。

 教師は元一流冒険者ばかりで、学長に到っては人類史上最強とまでいわれている。

 こんな場所を襲うより、銀行強盗のほうがまだ成功率が高そうだ。


「ハク様! ハク様! ミサキがお迎えに参上したであります! ハク様ああああ!」


 廊下から、少女の声が聞こえる。

 しかしローラの知り合いではない。

 ミサキという名前にも聞き覚えがない。


「ど、どちら様でしょうか」


「我が名はミサキ! 代々ハク様にお仕えする巫女であります! ここを開けるであります!」


 ドンドンドンとノックはますます強くなっていく。

 このままでは扉を破壊されそうだ。

 ローラはシャーロットとアンナに目配せし、鍵を開けることに決めた。


「今開けますから扉を叩かないでくださーい」


 相手が本当に強盗でもすぐ対処できるよう注意しながら扉を開ける。

 すると少女が一人、風のように部屋に滑り込んできた。

 異国情緒溢れる紅白の不思議な服を着ている。亜麻色の髪をなびかせ、耳と尻尾をパタパタと揺らす。

 そう。耳と〝尻尾〟である。

 彼女のお尻の上からは、髪の毛と同じ亜麻色の尻尾が伸びていた。とても見事な毛並である。

 そして頭の上には二つの大きな耳が生えていた。人間のものではない。おそらくは狐だろう。

 すなわち、獣人。


「おお、ハク様! そこにいたでありますか!」


 ローラたちが驚きの表情を浮かべているのに構わず、ミサキはベッドの上でくつろいでいたハクに飛びついた。


「ぴー?」


 ハクも何が何やら分からないらしい。不思議そうに鳴いている。

 ただミサキだけが満足そうにハクを抱きしめ、ベッドの上に正座して頬ずりしていた。


「さあハク様。獣人の里に帰るであります。人間の街にいたら売り飛ばされてしまうであります」


 ミサキはハクを抱いたまま、何の説明もなしに部屋から出て行こうとする。

 無論、ローラはそれを止めようとした。

 が、真っ先に反応したのはハクであった。


「ぴー! ぴーぴーぴー!」


 見知らぬ少女の手で、部屋から連れ出される――。

 そんな状況に恐怖を覚えたらしく、激しく鳴いて、四肢と翼をバタつかせ、ミサキの腕から脱出した。

 そしてローラの元まで飛んできて、腕にギュッとしがみつく。


「ぴ!」


 ローラのそばから離れないぞ、と宣言するような声だ。


「な、なぜでありますかハク様! ハク様は獣人の里の神獣でありますのに。どうして人間に懐いているでありますか!?」


 ハクが自分ではなくローラを選んだ。そのことがよほどショックだったらしく、ミサキは目に涙を浮かべて叫ぶ。


「えっと……ハクは生まれたとき、最初に私と目が合って……刷り込みって言うんですか? 私をお母さんだと思ってるみたいなんです」


「ぴー」


 ハクはローラの体をよじ登り、いつものように頭の上に座り込んだ。


「そんな、ハク様……大賢者殿が言っていたことは本当だったでありますか……」


 ミサキは絶望に染まった顔で、よたよたと後ずさる。

 そのまま廊下に飛び出し、尻餅をつくかに見えた。が、肩を銀髪の女性に支えられ、転倒せずに済んだ。


「はい、そこまで。もうミサキったら、私の話を最後まで聞かないで飛び出して。言っておくけど、この子たちはメーゼル川をどんぶらこと流れてきたハクの卵を拾って保護した恩人なんですからね。ちゃんと敬意を持ちなさい」


 それはこの学園の学長。大賢者カルロッテ・ギルドレアであった。

 どうやら大賢者は、この獣人の少女ミサキのことを知っているらしい。

 果たして、ハクを巡る話はどう進展しているのか。

 大賢者は「自分が獣人と交渉する」みたいなことを言っていたが、なぜここに獣人が直接乗り込んできたのか。

 そしてローラたちは夏休みの宿題をやる時間があるのか。

 全ては謎に包まれている……。

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