アンナのルームメイト【後編】
書籍版8巻とコミカライズ版3巻の発売日が6月15日に決まりました。
その告知をかねた外伝です。
そしてローラたちはアンナの部屋に帰ってきた。
「……もうラーメンを食べ終わったでござるか? 随分で早いでござるな?」
天井裏からシノブの恨めしそうな声がする。
「えへへー。ラーメンはこれからですよ」
「……どういうことでござるか?」
シノブが不思議そうに呟いたとき、部屋の扉がノックされた。
「ラン亭アルよ。ラーメンの出前を持ってきたでアル!」
「待ってました!」
ローラは扉を開ける。
そこにはランとニーナがいた。
二人が担いできた岡持ちの中には、七人と一匹分のラーメンが入っていた。
「おや? 注文したより数が多いですね?」
ローラは事前に打ち合わせしたとおりの台詞を言う。
「せっかくなので、私とニーナちゃんもここで夕飯を食べていくことにしたアル」
「そういうことだから……よ、よろしく」
ランは朗らかに。ニーナは少し緊張した様子で台詞を言う。
「大歓迎ですわぁ。でも、それにしても一人分多い気がしますわよ?」
「あ。作りすぎてしまったアル。誰か食べてくれる人はいないアルか?」
ランは左右をキョロキョロ。わざとらしく天井もキョロキョロ。
「ま、一人分くらいなら、みんなで協力すれば食べられるであります。伸びないうちに食べちゃでありますよ」
「それもそうアル」
岡持ちからラーメンどんぶりを取り出し、床に並べる。
ちょっと汚いが大きな机がないので仕方ない。
全員で床に座り、どんぶりを持って、スープの香りを嗅ぐ。
「いい香り……」
アンナが恍惚とした声を出す。
それは演技ではなく、どう聞いても本心からの呟きだった。
だからこそ効いたのだろう。
天井裏からドタバタとのたうち回る音がする。
「食べたいでござる! 拙者もラーメンを食べたいでござるぅぅ!」
そして天板が外れ、人間が一人落ちてきた。
かなり背の高い女性だった。
大人のエミリアやランなどと比べても長身だ。ほとんど成人男性と変わらない。
だが着ているのはギルドレア冒険者学園の制服。
顔立ちもアンナやシャーロットと同年代に見える。
「ああ……つ、つい出てしまったでござる! ラーメン食べたさに……見ないで欲しいでござる!」
彼女は部屋の隅で小さくなり、手で顔を隠した。
しかし、チラリと見えた顔立ちは、かなり整っていた。それに艶やかな黒い髪も美しい。
「なんでそんなに隠すんですか? せっかく可愛いのに……」
ローラは素直な疑問を口にする。
「か、可愛いでござる!? 皮肉はやめて欲しいでござる! 可愛いというのはローラ殿のような人をいうでござる! 拙者のように背の高い女は可愛くないでござる!」
「なるほど……背の高さがコンプレックスだったんですね……」
ニンジャだ何だと理由をつけていたが、結局のところ、女の子らしい悩みから出発した騒ぎだったのだ。
「シノブさんは可愛い顔ですって。そして背が高いのは羨ましいです! 私に分けて欲しいくらいです!」
「分かる……私も身長、欲しいわ……!」
ローラとニーナは、すらりとしたシノブの長身を羨ましげに凝視する。
「そうですわ。ローラさんとニーナさんに身長を分けるのはいけませんが、シノブさんはお可愛らしいですわ!」
「うん。初めて顔を見たけど、まさかそんな美人だとは思わなかった。背が高いのは恥ずかしいことじゃないよ。格好いい。ローラとニーナに同意。分けて欲しい」
「平均よりは背が高いアルが、そんな不自然なほどじゃないアル。むしろクールで素敵アルよ」
「そうであります! それに身長の話をしたら、この国の女王のほうが大変であります。女王はすっかり大人なのに、ロラえもん殿よりも小さいでありますよ」
「え!? 大人なのにローラ殿より小さい人がいるでござるか……? 確かに、それに比べたらマシかもしれないでござる……」
シノブは少し元気になったらしい。
女王陛下が小さいのは大賢者が魔法で若返らせたからであり、本当はそんなに小さいわけはないのだが、シノブのために黙っていることにしよう。
「拙者、本当に可愛いでござるか? あとでデカ女とか馬鹿にしないでござるか……?」
シノブは恐る恐るという様子で顔から手のひらをどかす。
改めて見た彼女の顔は、やはり可愛かった。
「言いませんよ。そんな酷いことを言う人はこの学園にいません。仮にいても、私たちがお仕置きします!」
「そうですわ。パジャレンジャーの出番ですわ」
「カミブクロンの生贄にするのもいい……」
ローラたち三人はシノブに近寄り、手をギュッと握った。
するとシノブは涙をにじませる。
「あ、ありがとうでござる……昔、近所の男の子にデカ女と馬鹿にされて以来、コンプレックスだったでござる……格好いいとか可愛いなんて、初めて言われたでござる!」
「あはは。その男の子はきっと、シノブさんが可愛すぎて、照れてたんですよ。自信を持ってください。シノブさんは可愛くて格好いいです。私たちが保証します! ハクもそう思いますよね?」
「ぴ? ぴー!」
ベッドの上でくつろいでいたハクは、翼をバサッと広げて肯定するような声を出した。
神獣のお墨付きである。
これに反対する奴にはバチが当たるというものだ。
「仲良くなったところで、早くラーメンを食べるアル。伸びちゃうアルよ」
こうしてシノブとローラたちは友達になった。
一緒に食べたラーメンは、すでに伸び始めていたが、それでもみんなで食べると美味しいのだ。
アンナのルームメイトの話はこれで終わりです。
久しぶりのマホテキでしたが、まるでブランクを感じることなくスラスラ書けました。
「面白かったよー」という方は評価していただけると嬉しいです。




