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134 目には目を。プニプニにはプニプニを。です

 ニーナは泊まるところがないので、ローラとシャーロットの部屋に泊まってもらうことにした。

 彼女は十八歳だが、ローラと似たような体格なので、パジャマもそのまま使える。

 近頃ローラは着ぐるみパジャマばかり着ているが、それ以外のパジャマだって持っているのだ。


「……あなたたちのパジャマ、随分と可愛いのね」


 着ぐるみパジャマを見たニーナは、興味深げに言う。


「おや? ニーナさんも着ぐるみパジャマが気になりますか? だったら今度、買いに行きましょう」


「ニーナさんにはどんな動物が似合うか、今から考えておきませんと」


「小さいのでハムスターとかどうでしょう」


「ああ~~想像しただけでお可愛らしいですわ!」


「……あなたたち、私のことオモチャにする気でしょう」


 ニーナは疑るようにローラたちをみつめてくる。

 しかし、ニーナはいじりがいがあるので、オモチャにするなと言うのは、無理な話である。

 もう辛抱たまらないので、ローラとシャーロットはニーナに抱きつき、ベッドに押し倒した。


「うわぁ!」


 突然の出来事にニーナは悲鳴を上げる。

 が、容赦はしない。

 左右から頬ずりだ。


「ぴー」


 楽しげな気配を察したのか、ハクも布団に飛び乗ってきた。

 更に、猫パジャマのアンナと、ミサキまで部屋に入ってきた。


「お、やっているでありますな」


「パジャマパーティーに混ざりに来た」


「いらっしゃいませ! さあ、ニーナさんにギルドレア冒険者学園のノリを教えて差し上げましょう!」


「いや、別にそんなの教えてくれなくても……っていうか、あなたたち、全員、着ぐるみパジャマなの?」


「私の耳と尻尾は自前でありますよー」


 ミサキは何やら自慢げに耳と尻尾をピコピコさせた。

 実際、彼女の耳と尻尾のモフモフ感は実に偉大だった。


「こうやって改めてみると、その耳と尻尾、もの凄く触り心地が良さそうね……ちょっと撫でていい?」


「……ニーナ殿もモフリストでありましたか……触られるとくすぐったいでありますが、ちょっとくらいならいいであります」


 そう言ってミサキはお尻をニーナに向け、尻尾を突き出した。


 ニーナはベッドに座ったまま腕を伸ばし、ミサキの尻尾を撫で上げる。一度、二度と手を動かすだけで、表情が恍惚としたものにしてしまう。


 それから体を伸ばして、狐耳もモフモフする。

 まるで今すぐ昇天しそうな顔だった。

 やはり、誰もミサキの耳と尻尾の魅力には適わないのである。


 一方、撫でられているミサキは、耳と肩をビクビクと震わせ、くすぐったさを必死にこらえていた。


「も、もうこの辺で勘弁して欲しいであります……」


「あ、ごめん。あんまり触り心地がいいから、つい……」


 ニーナは顔を赤くし、尻尾から手を離す。

 欲望に負けてしまったことが恥ずかしいのかもしれない。


 だが化物ならば、ミサキの尻尾を見ても、モフりたいとは思わないだろう。

 つまりミサキをモフるのは、人間である証!

 何も恥じることはない!


「いつも私だけモフられて不公平であります。たまには私も皆を触りたいであります!」


「じゃあモフられたお返しに、ニーナさんの髪を撫でたらどうです? 黒くてツヤツヤで、絹糸みたいですよ」


 ローラは適当なことを提案した。


「おお、それはいい考えであります。ニーナ殿、覚悟であります」


「ええ……」


 ニーナは戸惑った声を上げる。

 しかしミサキが迫ってきても逃げ出したりしなかった。

 恥ずかしそうにしながらも、なんだかんだでされるがままになる。


「おお……おおっ! これは凄いであります! ツヤツヤのサラサラでありますよ!」


「ほほう。では、今日は第一回モフモフ&サラサラ祭りですね」


「素晴らしいお祭り。月に一度は開催したい」


「ああ……皆さんお可愛らしすぎて……全員を祭り上げたいですわぁ!」


「どういう集団なの……あなたたち」


 ニーナの戸惑いを無視して、全員がベッドに横になる。

 流石にこの人数だと少し狭いが、基本的に全員が小柄だ。


 そして冒険者学園の寮のベッドは、屈強な冒険者を基準にして作ってある。

 それを二つ連結させたローラとシャーロットの特製ベッドは、モフモフ&サラサラ祭り開催に何とか耐えられる。

 むしろ、少し狭いからこそ、仲良くくっつけるというものである。


「天国ですわ~~」


        ※


 やがて朝になり、窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてきた頃。


「ローラちゃん、ローラちゃん。結果が出たわよ」


 ローラは大賢者の声で目を覚ました。


「ん……ふぁ……おはようございます、学長先生……何の結果ですか? もしかして、全世界オムレツコンテストは夢じゃなかったんですか……?」


「随分とまた自分にとって都合のいい夢を見ていたのね……そうじゃなくて、ローラちゃんの吸血鬼病が治ったかどうかの検査結果」


 ベッドの脇に立つ大賢者がそう言うと、ローラだけでなく、他の皆もモゾモゾを起き上がった。


「が、学長先生。それで結果は!? ローラさんは人間のままでいられますの!?」


「大丈夫よ、シャーロットちゃん。ローラちゃんの血から、吸血鬼の魔力は全く感じなかった。つまり、治ったのよ。よかったわね、ローラちゃん」


「おお……! いやぁ、安心しました。これで安心して眠れます」


「ロラえもん殿。昨夜は一番最初にぐっすり眠っていたでありますよ?」


「モフモフ&サラサラ祭りの主催者なのに、まっさきに脱落。だから途中から、寝ているローラのほっぺプニプニ大戦に変更した」


「なんと、そんな大戦を……」


 いや、本当に不安だったのだ。

 たとえ一番早く眠りについたとしても、ローラ的には不眠の部類なのだ。


「ところで、ニーナさんも私のほっぺをプニプニしたんですか?」


「え……いや、その……ちょっとだけ……?」


 ニーナは目を泳がせた。

 これは怪しい。

 そして案の定、シャーロットがニヤリと笑いながらニーナを見つめた。


「ちょっとだけですの? ニーナさんの故郷では、あれをちょっとだけと言うのですか? 最初は遠慮していたくせに、途中からわたくしを押しのけてまでプニプニしていたではありませんか!」


「だ、だって……ローラのほっぺがありえないくらい触り心地がいいから……! あれはミサキの尻尾超えてるわ!」


「なんと! 負けてしまったであります!」


 それほどのものだろうか、とローラは首をかしげる。

 自分で触ってみても、さほどいい感触だとは思えないのだが。


「そもそも、あんなに触ったのに起きないローラが悪いのよ!」


「いやぁ、私は一度寝ると朝までぐっすりなので……というか、『あんなに』と自分で言ってしまうほどプニプニしたんですか?」


 ローラが指摘すると、ニーナは「うっ」と唸り、また赤くなって俯いた。


「ニーナ、語るに落ちた。これは有罪」


「アンナ裁判長。どのような刑を?」


「目には目を。プニプニにはプニプニを」


「分かりました。ふふふ、ニーナさん、覚悟してください。私たちにほっぺをプニプニされることにより、罪を浄化するのです……悔い改めるのです!」


「ちょ、ちょっと待って、そんな、朝から、ああ、あああ……!」


 ローラたちがニーナをプニプニする様子を、大賢者は横から楽しげに見つめていた。

 そして五分ほど経過したとき。


「あなたたち、いい加減にしておきなさい。エミリアのところに灰を届けるんでしょ。午前の授業は私の権限で免除してあげるから。早く着替えて顔を洗って、歯を磨きなさい」


「「「「はーい」」」」


 決して忘れていたわけではないのだ。

 ただ、プニプニされているニーナの表情が可愛らしすぎるのが悪いのである。


「や、やっと開放された……」


 ニーナはベッドに力なく横たわる。

 そんなニーナを、ようやく目覚めたハクが「ぴぃ?」と不思議そうに見つめていた。

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