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119 エミリア先生が合流です

 屋台ごと学園の敷地に入り、そして魔法学科の訓練場へ行く。

 訓練場は壁で仕切られているが、天井はない。

 よってローラが魔法を放っても、天井を壊してしまう心配がないというわけだ。


「いいですか、ランさん。これが私の実力です! てやっ!」


 ローラはかけ声とともに、火の玉を出現させる。

 訓練場の気温が、肌で感じ取れるほどハッキリと上昇する。


 そして空に向かって発射した。

 自分の身長の倍ほどもある火の玉だ。

 きっと王都のどこからでも見えるだろう。


 ゴオオオオオンッ!

 と轟音を上げ、赤い線を描きながら、火の玉は雲の奥に消えていく。


「す、凄いアル……体がちっちゃくても、魔力は大きいアル!」


「ふふふ、どんなもんです。あと、体がちっちゃいは余計です」


 ローラは胸を反らす。

 すると、そこに、エミリアが走ってきた。


「コラァッ、またあなたたちね!」


「ふぇっ!? どうして怒ってるんですかエミリア先生。空に向かって魔法を撃っちゃいけないなんて校則はなかったはずですよ!」


「校則に書いてなくても、あんな大きな魔法を撃ったら皆がびっくりするでしょ!」


「言われてみれば……ごめんなさい」


 ローラは素直に頭を下げた。すると頭の上に座っていたハクが転げ落ち、エミリアの手でキャッチされた。


「シャーロットさんとアンナさんも、年長者なんだから、ちゃんとローラさんがおかしなことを始めたら止めてあげて。一緒になってふざけてちゃ駄目よ」


 エミリアにそう言われたシャーロットは、戸惑った顔になる。


「そ、そう言われましても……あの程度の火の玉が駄目だなんて……逆に何ならよろしいのですか!?」


 今度はエミリアが引きつった顔になった。

 エミリアはズレためがねを直しながら、アンナの肩を叩く。


「……アンナさん。あなただけが頼りよ」


「善処はするけど、この二人の暴走を止める自信はない」


「……ケガしない範囲で頑張って!」


「分かった」


 アンナは教師の期待を背負って頷いた。

 ローラからすれば心外な話だ。

 ちょっと魔力を込めすぎただけの話なのに。


「きっと王都の人たちも『ああ、また冒険者学園か』と慣れてきたと思いますよ」


「慣れちゃ駄目でしょ! この学園に変なイメージをつけないで! 怖い場所だと思われて、来年から入学者が減ったらどうするの!」


 言われてみればごもっともな話だった。


「エミリア殿。安心するであります。常識人のミサキが付いているであります。そして今はラン殿も一緒であります」


「そうアル。私は大人アル。子供たちのことはお任せアル。エミリア先生も、休日くらいは生徒のことを忘れて、ゆっくり休むアル」


「……でも二人とも、ローラちゃんが火の玉撃つのを止めなかったじゃない」


「そ、それは仕方がないであります。常識人のミサキたちに、ロラえもん殿を止める力はないであります」


「じゃあ駄目じゃないの」


 エミリアに指摘され、ミサキとランはシュンとした。

 と、そのとき。

 地面に伸びたエミリアの影から、白い腕がぬっと生えてきた。


「ひゃあ!」


 白い腕に足首を捕まれたエミリアは悲鳴を上げる。

 ローラたちもギョッとした。

 まさか新手のモンスターだろうか。

 なんて思っていると、腕に続いて、大賢者の上半身が現われた。


「なーんだ、学長先生でしたか」


 次元倉庫の出口を地面に開いて、遠く離れた場所からやってきたのだろう。

 便利な技である。


 今度ローラも練習して、遅刻しそうなときに利用してみよう。

 完全に会得すれば、実家にも一瞬で帰ることができるかもしれない。

 しかし、遠く離れた場所から、狙った位置に出口を開くのは、なかなか難しそうだ。


「草原でお昼寝してたのに、今の火の玉で目が覚めちゃったわ。ローラちゃん、休日の王都を騒がせちゃダメよ」


 大賢者は、よいしょと這い出しながらそんなことを言う。


「ごめんなさい。今、エミリア先生にも怒られてたところです」


「あらあら。じゃあ私の説教はいらないわね」


 そう言って大賢者はローラの頭をなでなでした。


「学長。教育熱心なのはいいですが、変なところから出てこないでくださいよ」


「ごめんなさい。エミリアのが、ちょうど掴みやすい足だったから」


「どんな足ですか、もう」


「ところでローラちゃんたち。どういう経緯でラーメン屋の屋台をここに持ち込んで、空に火の玉を撃つことになったの?」


「それはですね――」


 ローラは今までの流れをざっくり説明する。


「なるほど。屋台ごと狩り場に乗り込んで、お腹をすかせている冒険者にラーメンを売る……面白そうね」


「ですよね! というわけで学長先生も手伝ってください!」


「うーん……でもラーメン屋の店員って疲れるし。お昼寝の途中だし」


 びっくりするくらい、ぐーたらな理由で断られてしまった。

 流石は大賢者。

 常人とはひと味違う。


「学長。手伝ってあげたほうがいいんじゃないですか? この子たちだけで行かせると、また何かやらかすかもしれませんよ」


 エミリアが心配そうに言う。


「大丈夫だと思うけど……そんなに心配なら、エミリアが手伝えばいいじゃないの。そうよ、そうしましょう」


「え、私がですか? でも私、飲食店の店員なんて、あ、ちょっと学長、何を!」


 エミリアの後ろに素早く回り込んだ大賢者は、彼女の肩をガシッと掴み、そして足下に次元倉庫の入り口を開いて、向こう側に消えてしまった。


 それから数分後。

 帰ってきたエミリアは、チェイナドレス姿になっていた。


「おおー、エミリア先生、似合ってますね!」


「大人の色気であります」


「ちょ、ちょっとジロジロ見ないでよ! 学長、どうして私がこんな格好をしなきゃいけないんですか!」


「えー、だってそれがラン亭の制服だし。たまにはエミリアもローラちゃんたちと遊んでみたらいいじゃない。というわけで、私はお昼寝に戻るわね。ばいばーい」


 そう言い残し、大賢者は次元倉庫に消えていく。


 残されたエミリアは赤くなりながら、スリットから見える太ももを必死に隠そうとしている。

 しかし無駄な努力だ。

 チェイナドレスのスリットはそんな生やさしいものではない。

 あと少しでパンツが見えそうなくらい深いのだ。


 特にエミリアが着ているのは、やたら深い。

 きっと大賢者がハサミでちょっきんしたのだろう。


「エミリア先生。観念してラーメンを売りに行きましょう!」


「メガネっ娘が加わって、隙のない布陣になったアル。これで無敵アルよ」


「こ、こんな格好で人前に……お嫁に行けないわ!」


 エミリアは涙目だ。

 だがシャーロットたちもチェイナドレスなのだ。

 お嫁に行けないなどということは……いや、全員独身だ。

 考えてみると大賢者も独身だ。

 もしやチェイナドレスには、結婚できなくなるという副作用でもあるのだろうか。


 ローラは、自分は華ロリでよかった、と胸をなで下ろした。

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