境界の地《エストリア》
chaos 02
国によって最強の称号というのは違っている。
グランディール王国において最強を表すのは、
“賢者”
である。
別の国では賢者は、知に長けるもの。
魔術師の長
魔術を極めし者
などとされている。
賢者と名乗るだけで恐れられることもあった。
グランディールの賢者は
剣技、魔術、召喚術、格闘、知力、体力などの総合力を持って与えられる。
グランディールから境界の地までの距離はかなりある。
馬など使っていられない。
ましてや、師匠のこともある。
「賢者アスラ=ミスラの名において召喚す」
「その身体は鋼のごとく」
「その翼は風を切り裂く」
「その眼光は全てを見通す」
「その牙は鋭く」
「紅き鱗を身に纏い」
「我が声に応えよ」
「紅血竜!!」
私は城門を出て、開けた場所で召喚術を発動する。
大地に光る魔方陣が出現し、紅く輝く。
何かに持ち上げられているかのように、ゆっくりと姿を現す。
その体躯が全てを現した時、魔方陣は砕けるように消えた。
真紅の鱗が夕日を浴びて更に紅く輝き、大きく広げた四枚羽で力強く羽ばたく。
風が巻き起こり、砂塵が吹き荒れた。
私が最も頼りにしている相棒。
「久しぶりだね、クロード。」
紅血竜名をクロード。
『あぁ、久々の現界だ。また争い事か、アスラ?』
低く唸るような声と共に頭に響く声。
彼らは私たちのように言語を発することは出来ないが、契約した者通しであれば脳内に直接声を届けることが出来る。
私はこれを“念話”と呼んでいる。
「いや、あれ以来平和なものだよ。今回は少し遠いところまで一緒に行きたいんだよ」
私の言葉はそのまま通じるので楽だ。
『こんな時間にということは、勇者関連か?』
クロードは聡い。
一を聞いて十を知るとまでは行かないが、私のことを良く理解している。
「大正解だよ。クロード、さすが相棒!」
『アスラはあいつのことになると一直線だからな。非常に分かりやすい。』
私は会話をしながらクロードの上に乗る。
かなりのスピードで飛行するため、クロードの手足と私をロープのようなもので固定する。
そして、風の魔術によって障壁を作り受け流す。
ドラゴンに乗るということはそれなりの準備と度胸、技術が必要になる。
『では、行くぞ!』
クロードの声と共に、左右に大きく開いた翼が羽ばたきを始め、その巨体が宙へと舞い上がる。
「くっ!」
腕や全身にそれなりの負荷がかかり、思わず息が漏れる。
だが、いつものことだ。
気がつけばかなり上空を飛んでいた。
空気は澄んでいる。
夕日が赤く空を染め上げながら、西の山に沈んでいくのを見ながら加速していく。
風の音しか聞こえない。
しばらく飛んでいるうちに、空なは満点の星が煌めいている。
境界の地まで、数時間くらいだろう。
間に休憩も入れなければならない。
私の意図を知っているように、クロードは最速で空を駆ける。
途中、広い山岳地帯にて休憩を取り、境界の地が見えてくる頃には空もしらみ始めていた。
「クロード、ありがとう」
高速飛行は身体にそれなりのダメージを残すのだ。
それをわかった上で私のために飛んでくれた。
『アスラも無理するなよ』
そう言ってクロードは光の粒となって消えていく。
境界の地付近でクロードに降ろしてもらい、
クロードも体を休める為に、元の住んでいる場所へ帰還してもらった。
近くの村まではそう遠くない。
走れば昼位には到着出来るはずだ。
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「おかしいなぁ。村が無い?」
方向は間違って無いはずなんだけど。
クロードと離れて数時間。
かなりの距離を走ったり、歩いたりして来た。
なのに、人影どころか建物の影すら見えない。
まるで狐に化かされてる気分。
「化かされてる?………まさか幻術っ!?」
私が気づかない程の幻術?
師匠?
でも、師匠は幻術系得意じゃなかったし。
とりあえず、幻術破りをしてみないと分からない。
魔力を圧縮して、違和感のあるところへ広げる。
魔力に反応して、景色が歪む場所が幻術だ。
「ここかな…?」
私は、しらみ潰しに魔力を放っていく。
数分ののち、蜃気楼がかかっているかのような場所が歪む。
「ここかっ!」
歪みのある場所に私の幻術を叩き込んだ。
ギシギシと軋むような音のあとに、景色が割れる。
周囲360度の景色が変わった。
荒野にいたはずの私は森のなかにいる。
そして、その森には一つの住居があった。
その前に佇む一人の少年。
「あなたは誰?」




