桜の木の町
某ブログで書いた
桜の木の町を再構築しました
テーマは『王道』
町を一望できる丘に登り
沢山ある桜の木の中の一つ
最も崖側に近い位置にある
桜の木に額をあて感慨に浸る
この木の本に彼女が眠っている
モンシロチョウがタンポポの周りをひらひら
と舞い、丘の桜が少しずつ咲き始める季節
数週間もしたら新学期が始まる
そんな時に彼女はいなくなってしまった
火葬場の細長い煙突から昇る煙が
澄んだ青色の空にかかる淡い雲に吸い込まれ
ていく
その煙は彼女に二度と会うことが出来ない事
を物語っていた
ツゥッと目から一筋の涙が頬を伝った
昼休みのサッカーの試合
相手の選手と激しく接触して足を痛めた
放課後になっても痛みがひかなかったので
学校の帰りに病院によって帰ることになった
この町に一つしかない病院
住んでいる町の規模にしては大きい気がする
制服のまま受付を済ませ
名前が呼ばれるまで
近くにある椅子に座って待つことにした
平日にしては人が多くて
結構待つことになりそうだった
足の痛みは段々酷くなっていくが
『君は・・・
桜木中学校の生徒さんかな?』
いきなり話しかけられて驚いた
後ろを振り向くと僕と同じくらいの年齢に見
える女の人が立っていた
それが
彼女との出会いだった
この町には少し変わった風習がある
死んだ人は桜の木の下に埋めるという風習が
昔は土葬だったらしいけれど
今は火葬をして火葬後の骨を骨壷に容れ桜の
木の下に埋めている
『木って言う字は人を十字架に
貼り付けているように見えるのよね』
と彼女は言う
病室の窓からのぞく
桜の木のある丘を眺めながら
『なんで?』
と僕は質問した
『幽霊って木の下に出る事もあるでしょ
それは人のこの世に留まりたいって気持ちと
か、怨念や執念といったものが木に縛り付け
られているって思うのよ、
それは十字架に磔にされたも同等だともね、
ほら十字架って木でできているし』
彼女はちょっとあたふたしながら
空中に絵を描くが如く
手を上下左右に動かし説明してくれた
『う〜ん、それだと先に木あったのか
十字架があったのかって話にならないか?』
僕は腕組みをして
首をかしげる
『あ〜もう』
彼女は黒い髪を少し掻いた
『そもそも私がしたかったのはそんな鶏と卵
のような問答じゃなくて、この町の事』
毛布をぼふっと叩く
それらの仕草が妙に面白かった
『この町と十字架と何の関係が』
僕の首の首は更に横に傾く
傾けすぎて椅子から落ちそうになってしまっ
た
『十字架から離れる』
彼女は少し強い口調で言った
『ほら、この町って人が死んだら桜の木の下
に埋めるじゃない』
彼女は推理物で言う所の
犯人のトリックを暴く時のように
人差し指を立てている
『その話は聴いたことがある』
僕はかしげていた首を元の状態に戻して
体を少し前に出した
『それってこの町の人が
死んだ人が桜の木に宿って欲しいって
願ってやり始めたのかな?
と思って』
『確かに桜の木の下に人を埋めるのは
少し変っていると思うけれど
そんな理由でやるのかな?』
僕はおでこに手を当てて
病室の天井を覗き込む
其処には真っ白い壁と
蛍光灯しかないのだけれど
『むぅ、じゃあ何がきっかけだと思う』
彼女は少し頬を膨らせてそう言った
『そうだなぁ
村に伝染病が流行って
それは人の死体からどんどん感染していって
それを沈めるには桜の木の下に埋めないとい
けなかったとか』
単なる思い付きで言ってみる
『あはは
何所の三流ホラー映画ですか
感染した人はゾンビ化するとか
そう言った設定だったり』
彼女は可笑しいとお腹を抱えて笑った後
ケホッと少し咳き込んだ
『もう、ちゃんと答えてよ』
彼女は笑いすぎが原因か
少し涙目になっていた
『真面目にか』
腕組みをして
目を瞑り
少しうなだれて
考え込む
『あの丘はこの町を一望できるよね
だから、死んだ人がこの町をいつまでも見守
れるようにって思いを込めてやり始めたって
のは』
実は僕の母親が祖父が亡くなった時に
凄く悲しかった僕に対して
言ってくれた言葉だった
『余り、私が言ったのと変らないね』
彼女は少し残念そうにしていた
『そうか?
そっちのは心霊スポット作成の為って思えた
けれど、こっちはこの町の守り神を称えるよ
うなイメージだよ』
僕は笑いながらそう答えた
『心霊スポット作成って酷い
じゃあ私が死んだら
桜の木の元に化けて出てやる』
彼女が笑いながら軽くそう言った
ただ僕の心は少し
何かの針にでも軽く刺されたように
ほんの少しだけチクリと痛かった気がした
あの日から最低でも一日に一度
この桜の木の元まで来てしまう
僕は幽霊でも良いから彼女に会いたい
と思っているのかな
『ふふふ、はーっはっはっは』
僕が久しぶりに病室にお見舞いに来て
椅子に座るなり
彼女が悪役の如く高笑いした
『急にどうしたの?
悪いものでも食べた??』
余りに急だったので
椅子から仰け反った
『今度の月曜からね
また、学校に行けるようになるの
実際は日曜日から退院だけど』
彼女がこっちに向けて力強いVサインをして
はしゃいでいる
こんな笑顔を見たのは初めてだ
『おぉ、おめでとう』
彼女の笑顔を見て
なんだか僕まで少し嬉しくなって
自分でも微笑んでいるのが解った
『そういえば
丁度、今度の日曜日サッカーの試合をやるっ
て言ってたよね』
一瞬悪寒が走った
彼女が何かを企んだ時の悪役の如く
いい笑顔で微笑んでいた
しかし、今日は何故ここまで悪役仕様なのか
『そうだけど、試合があること言ったかな?』
前に来た時にでも言ってたのかな
ちょっと記憶が曖昧だな
『前に来たときに言ってましたよ
で、そのサッカーの試合だけど
私が応援に行ってあげてもいいわよ
ってなにその嫌そうな顔は』
彼女はちょっとショックを受けたのか
しゅんとなってしまった
『え・・・いや
ベツニイヤデハナイデスヨ』
やっぱり悪寒の正体はそれか
『物凄く凄く棒読みに聞こえるんだけれど』
彼女がむぅっと唸って
こっちを睨んでる
『いや、
本当に嫌なわけじゃないんだけれど・・・』
頭を抑えて俯く
なんと言ったらいいのか言葉に悩む
『解った
女の子が応援に来るのが恥かしいんだ』
まさに、図星
ドキリとして
数ミリほど体が浮いた気がした
恥かしいというのもあるけれど
普段他の部員に言っている
「ある事」も要因の一つだった
『あはは赤面しちゃった
図星なんだ〜可愛い』
彼女はベットから乗り出して
ぷにぷにと僕のほっぺを突く
日曜日
近隣の中学のサッカー部が集まって
3校総当りで試合が行われる
『先輩さっきからきょろきょろして
なんか人を探してるみたいだけど
どうしたん?』
後輩の部員が話しかけてきた
急に後ろから話しかけられたから
驚いて、少しうゎっと声を上げてしまった
『え、別にいつも道理だけれど』
いつもと変わらない様にしていると
思ってたが
後輩に言われてみると
確かにいつもより
客席を見ているような気もする
『あからさまな程におかしいですって
先輩はいつもは其処まで熱心に客席のほう
見ていませんから・・・まさか!!』
後輩がハッっと何かに気がついたようで
どこぞの家政婦かの様に驚いている
『先輩いつも
サッカーはもてる為じゃなくて
ただ楽しいからやってるんだ
って言ってたのに
まさか彼女ができて
その彼女が応援に来るから
さっきからきょろきょろと』
『違うそんなんじゃない』
必死に否定したが
逆にその必死さが仇となったみたいだ
後輩は何か確信めいた表情をした
『大変だ〜
先輩に彼女ができたぞ〜』
後輩はそう叫びながら
ベンチの方へ走っていく
だから
嫌だったのに
まぁ、自分の不注意だから仕方ないか
はぁ、と深くため息をついて
もうすぐ一試合めが始まる時間だったので
トボトボとベンチの方へ歩いていった
僕は
チームメイトにからかわれながら
試合に臨んだ
一試合目 0-8
元々僕の中学のチームは
強いチームで無いけれど
ここまで酷い試合は久しぶりだった
大量失点の原因
監督が言うには
守備の中心人物
最終的なストッパーの役割を果たす人間が
集中力を欠いて怠慢なプレーをしていた
からだそうだ
僕の事だった
確かに今日は
相手FWに結構抜かれてたし
不必要なファールが多かった気がする
怠慢なプレーをした罰として
二試合目はベンチスタートになった
二試合目の相手は
長身の選手が多く
セットプレーからの失点が多くて
前半で既に5失点
後半から長身の選手に対抗するために
出場したけれど
その後点差が縮まらなくて
また負けた
二試合目はちゃんと集中してプレーが出来た
相手のクロスボールをとことんクリアした
『これが僕の本気さ〜』
とか叫びながら
今日のサッカーの試合
結局彼女は来なかった
少し余裕があるときに
観客席のほうを見ていたけど
其処には選手の親御さんや兄弟ばかり
僕が見落としていただけだったかもしれない
ただ、何故か彼女が居たら絶対見つける事が
出来るという確信があったけど
試合も散々だったし
チームメイトからも色々とからかわれるし
彼女も来なかったし
今日は仏滅ってやつなのか・・・
しかし
サッカーの試合に負けたことよりも
彼女が来なかった事のほうに
ショックを受けている気がする
何故だろう?
この日
彼女の病状が悪化し
退院することが延びた事を知ったのは
まだ先の事だった
『ごめんね、応援に行けなくて』
彼女は凄く申し訳無さそうに謝り
見たかったな〜と呟いていた
その気持ちだけでも少し嬉しかった
『その気持ちだけで嬉しいよ
正直な所来なくて良かったかもしれない
2試合ともボロ負けだったし』
溜息をついて
俯く
『あらあら
私の応援があったら勝てたのにね』
彼女は僕の頭をよしよしと撫でながら
微笑んでいる
『その根拠は何所から来てるんだよ』
『ないよ』
彼女はあっさりとそう答えた
『ないのか』
僕は呆れて肩を落とした
『でも、驚いたよ
病状が悪化して退院できなかった
って聞いたときは』
初め聞いたときには耳を疑いそうになった
でも、彼女がまだ病室に居る事が
その証明だろう
だから、彼女と病室で再開した時は
自分の事では無いのに
物凄く心配だった
『大丈夫よ
ちょっと咳き込んだだけだったのに
周りが大騒ぎしだして
退院延期になっただけだし』
彼女は毛布ギュッと握り締めて
つまらなそうにそう答えた
『それだけ
皆心配してるってことだよ』
ふぅっと胸をなでおろす
何事も無いようならよかった
『そっか』
彼女は少し照れているように見えた
『まぁ
その分良いこともあったし』
彼女は少し嬉しそうに笑っている
『良い事?』
退院延期になって良かった事
むぅ、さっぱり思いつかない
『手術をする日程がやっと決ったの』
彼女は胸の前に両手を合わせて微笑んでいる
『おぉっ・・・
って手術をしないといけないほどだったの?』
驚いた
いつ来ても変わらず陽気にしているから
そこまで
深刻そうな病気では無いと思っていたけど
むしろ、本当に病気で入院しているのか?
と思う事もあったくらいなんだけど
『一応ね
退院って言っても
手術の日程が決るまでの
一時的なものだったし
でも、手術が無事に成功したら
やっと
普通に学校生活を送れるようになるんだ』
彼女は凄く嬉しそうだった
その喜びは多分
少し学校が鬱陶しくなってなっている
僕にはわからないだろう
長い間
学校に行けずに
入院生活をしている
彼女だけに解る事だと思う
でも
彼女の喜んでいる笑顔を見ていると
僕も不思議と嬉しくなった
『そうなんだ
無事に手術が成功するといいね』
僕も笑顔でそう答えた
その手術は無事に成功した
でも、彼女は死んでしまった
『と言う事で
無事に手術成功しました』
病室で彼女が満面の笑顔を振りまきながら
拍手をした
『良かった・・・』
言葉はそれだけしか出なかった
うつむいて
グッと両手に力がを入れる
そうしないと
涙がこぼれてきそうだった
『そして
朗報がもう一つ』
彼女はその事に対して
ちょこっと
もったいぶった素振りを見せている
ドラムロールを口ずさむ姿は少し滑稽だ
『わたし、桜衣高校に合格しました!!
あそこの制服は凄く可愛かったから
どうしても行きたかったんだ』
彼女は毛布ギュウっと抱きしめて
上半身を左右に振りながら喜んでいる
『え・・・凄い
あそこの倍率高いうえに
入試が凄く難しいって聞いてるよ
いったいどんな裏口入学を』
話だけなら聞いた事がある高校だった
県下で最も
有名大学に合格者を出している高校で
偏差値もありえないくらい高かった気がする
桜をイメージした制服も有名で
どこぞやの有名デザイナーさんが
デザインしているらしい
サッカー部の部員も
その高校の女子生徒を大絶賛してたような
『ちゃんと入試を受けてますよ
入院してると結構暇だから
勉強もちゃんとしてたし
一応成績優秀なのよ』
彼女はむぅっと唸りながら
毛布を軽く叩いている
『冗談だよ、冗談
でも、やっぱり
入院生活って暇なんだ』
僕だったら
長い間入院した場合どうしてただろう
・・・勉強はして無いだろうな
『まぁね
余程の暇人くらいしか
お見舞いなんて来ないね』
彼女は視線を少しの間だけ窓の外に移した
その横顔からはなんとも言えない
寂しさの様な物が伝わって来た
『余程の暇人って
それは僕の事か』
はぁっと深く息を吐いて
頭を抑える
『さて、どうかしら』
彼女はクスクスと笑いながら
僕の頬をまたぷにぷにと突いてきた
その日見た笑顔が
僕が見た最後の彼女の笑顔になるとは
微塵にも思わなかった
彼女が眠っている桜の木
色々な景色を見ることが出来なかったら
せめて彼女の眠る桜だけでも
広く多くの物が見れるようにという事で
一番見晴らしの良い場所に立っている
僕はあの日から
毎日その場所に通っている
彼女に会うことが
出来ないとわかっていながら
彼女に言い残した事があった気がして
そして
ここならその言葉を思い出せる気がして
丘の上の桜は桃色の花びらを
枝いっぱいに咲かせていた
ふわっと
一陣の風が吹いて
桜の花びらが舞った
少しの時間
視界が奪われた
僕が再び目を開けたとき
目の前に女の人が立っていた
僕の通っている高校の制服を着ている
砂が目に入ったのか
まだ視界がはっきりとしない
でも、高校にこんな人いたかな?
しかし、可愛い
制服がよく似合っている
うちの学校でここまで制服が似合う人って
いたかな
視界がはっきりしてきた
そして、女の人の顔をみて驚いた
いや驚く何て行動さえ出来なかった
そこには
僕が見間違える事は絶対無い人が
桜の木の下で眠っているはずの
彼女が立っていた
幻?幽霊?
いやいや
今は夕方だから幽霊は無いか
幽霊は夜でてくるものだ
いきなりの事で
頭が中がぐるぐるまわっている
心臓がバクバク言っている胸が苦しい
『・・・・』
声がでない
まるで金縛りにあったときみたいだ
『まったく
毎日この桜の木まで来てるよね
どこのストーカーさんですか』
彼女は昔と変わらない笑顔で
昔と変わらない口調で
昔と変わらない軽口を叩いてきた
『酷い事を言うね
ちゃんと花も供えにきてるよ』
その軽口を聞いて
少しだけ緊張が融けた
心臓の苦しさは相変わらずだけど
『ははは、確かに
でも、供えるんだったら
もうちょっと私好みの花を供えてなさいよ』
彼女がいつもの様に
僕のほっぺたを突こうとした
ただ
その指はスゥッと頬を通り抜けてしまった
『やはり
幽霊は触れないのね
ちょっと残念』
彼女は物悲しそうに
人差し指をじっと見ながら
軽く溜息を突いた
『やっぱり、幽霊なのか
でもどうやって此処に?』
幽霊ってのは
もっと暗くなってから
うらめしや〜
って言いながら出てくるものじゃないのか
『言ったでしょ
私が死んだら桜の木の元に
化けて出てやるって』
彼女がうらめしや〜
とたまに絵本とかで見る
幽霊のポーズを真似ている
『と言っても
私も自分がなんで此処に居るのか
解らないけれどね』
彼女は腕を組んでう〜んと悩んでいる
『まぁ、特に気にしなくていいか
一番見せたかった人に
この制服姿を見せる事が出来たし』
彼女はスカートの裾をもって
クルッと一回転した
『どう?似合うでしょ』
彼女はニコッと笑った
今までで一番かわいい笑顔だった
余りの綺麗さに一瞬言葉を失った
『うちの学校の誰よりも似合ってるよ』
見惚れるってこういう事を言うのか
『でしょ〜』
彼女は照れながら喜んでいる
『あ・・・』
彼女にずっと
言い残していた言葉に気がついた
それは、凄く簡単な言葉で
とても大切な言葉だった
『ありがとう』
彼女は僕の言葉を遮って
そう言った
『いつも
お見舞いに来てくれてた事
私は凄く嬉しかったんだよ
私の入院中での数少ない楽しみだったんだ』
彼女は言葉を震わせながら
優しく微笑んだ
『良かった
やっと、言えた
私がずっと言いたくて、言えなかった事
もう言えるチャンスが無いと思ってた』
彼女の声は少しかすれて
目一杯に涙を溜めていた
『最後まで笑顔でいようって思ってたけど
ちょっと無理そう』
僕は初めて
彼女が泣くところを見た
できる事ならば
ギュッと抱きしめたいけれど
触れる事が出来ないから
それは無理で
その事が凄く悔しかった
また風がふいた
桜の花びらが舞った
たくさん舞った
まるで吹雪のように
凄く綺麗だった
桜吹雪が止んだとき
彼女もいなくなっていた
『最後の最後まで
一方的に言いたい事、言ってきて
こっちの言いたい事を言う前にサヨナラかよ』
力強く桜の木を叩いて
桜の木に項垂れる
『ありがとう
って言うのは僕も言いたかった言葉なのに』
僕は泣いた
声を出して思いっきり泣いた
何度も嗚咽しながら泣いた
泣きつかれて
目を開けたら
辺りはもう暗くなっていた
僕はとぼとぼと坂道を下って行く
桜吹雪の中で聞いた
彼女の最後の言葉を思い出す
その言葉を聴いて
何故僕が桜衣高校に行ったのか
解った気がした
空を見上げる
空には色とりどりの星が瞬いている
僕は両を空のほうへ突き出して
星を掴むかの様にグッと拳を握った
そして、やっと
自分がやらないといけない事が解った
決意を固めた僕は
駆け足で坂道を下った
坂を下りた後
僕は振り返った
彼女の桜に向って
最後に一言だけ呟くように言った
『ありがとう』