壊れてよ
この世で最も魅力的な表情
笑顔、泣き顔、怒り顔、喜ぶ顔。
あらゆる感情、あらゆる表情のある中で。
最も多くの人が語るのは
好きな人へと向ける表情だというけれど
果たしてそれが事実だというのなら
――――――それはどれほど残酷な真実だろう
☆☆☆☆☆
「実は俺たち、付き合うことになったんだ」
高校生になって二回目の四月。
ずっと一緒にいた君の横にいたのは、高校でできた初めての友人。
幸せそうに、うつむきがちに。
でも、はにかむようにほんのりと頬を染めて。
君は彼の袖を握っていた。
「よかったね」
それはどう見ても、初々しい恋人で。
だから私はそう言うしかなくて。
頬を染めた君の顔が、どうしても収まらない動悸を私に残していることに気付いたのは、その後、君から嬉しそうに彼の話をされた時からだった。
「それは恋ですね」
いつまでも離れない幻影に、相談した先生はそう告げて。
でもどこかで、そのことを当然だと納得している自分がいて。
そして同時に、突きつけられたどうしようもない現実に、心が擦り切れそうになるほどに傷んできて。
始まりから終わっているなんて、それはなんの悪夢だろう
行き詰まりの迷路だって、もうちょっと慈悲があるじゃないか
進めるかどうかも曖昧なその恋で
叫びたい気持ちがそのまま行き場を無くしていけば、残るのは不安定な私
――――――ねえ、壊れてよ。
漏れたのは、悪意と狂気。
始まったのは、私の崩壊。
それは私の知らない感情で。
内側から、自分を食い荒らすほどの激情で。
自分の中の倫理の全てが
自分の持つ理性のどれもが
鳴らした警告が聞こえないほどの
破局を願う呪い。
君と彼の不幸を願う、身勝手で醜くて幼くておぞましいだけの悪意
君に知れたらと不安になる脆弱な悪意。
君に知られない場所では、言わずにはいられないほどの強固な悪意。
お願いだから、気づかないで。
彼に向ける笑顔をそのまま私へと向けて。
ねえだから、
壊れてよ。
壊れてよ。
壊れて壊れて、
壊れて壊れて、
壊れて壊れて壊れて壊れて
壊れて壊れて
壊れてよ