月猫の行路 (の一幕)
某MMORPG:マビ○ギ
裏設定が捗りすぎてるんですが、短編だと生かせないのでタグに盛り込みました。
感の良い方ならわかるかも。
《救いの御手》美鈴: <G><すいません、だれかちかくにいませんか>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆: <G><どうした>
《救いの御手》美鈴: <G><あ、きらさんぎるますかいぎおつかれさまです ちょっといますいるでごえいにんむしてるんですが、やばいんです>
VRMMORPG【Wiedergeburt Online】。 科学技術が発展した末に作られた、バーチャルリアリティをご家庭で手軽に体験できる道具を使用し遊べるオンゲーの一つである。 再誕という言葉をドイツ語に変えただけの安直なネーミングとは違い、中身はわりと自由度が高いと評判が良い。 また、あるMMORPGと同じように『成長』というシステムが搭載されており、一定期間経つごとにその世界で生きる者達、調停者と呼ばれるプレーヤーしかりNPCしかり、は年を取り老けていく。
しかし調停者達とNPC達の成長速度は違う。 NPC達は、老ける速度こそ種族により違えど、きちんと一年につき一歳づつ年を取っていく。 逆に調停者達は、同じように老ける速度は種族別だが、ゲーム内での一ヶ月がNPC達の一年と同等となっている。 なぜなら調停者達はその名の通り、この壊れかけた世界を治すために生み出された世界そのものの子供達であり、親の元に戻りたいという欲求が段違いに強いからだ。
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><あらら、どんなふうにやばいの?>
《ピンク色のビリーバー》みるく: <G><スイルって魔族が住んでる大陸の地域だっけ、魔物もその分強いんだってねー>
《救いの御手》美鈴: <G><いえちがいまsしゅうげきです ごえいたいしょうすごいねらわれててもうあいてむもそろそろ>
その代わり調停者達は、死亡後および成人年齢後は街という街にはかならず一つ設立されている【魂の神殿】にていつでも再誕する事が可能となっている。 再誕後はステータスおよび一般スキルを保持しつつ任意の年齢に生まれ変わることができ、ジョブの再選択、そしてアイテムを(レベルによって数は変わってくるが)幾つか持ち越すことが可能となっている。 また、最初にあげたMMORPGとは違い、このゲームでは再誕はゲーム性の一つであり、勿論課金などしなくても普通に遊ぶには困らない。 課金をすれば低レベルでも好きにアイテムを持ち越せたり、生まれ変わる前の割り振り用ポイント(通常は前世のレベルにより数が変動する)に色を付けたりなどが可能になるだけである。
唯一持ち越せないのがジョブ専用スキルだけ、というのも魅力の一つにカウントされている。 それもジョブを変更した場合のみであり、しかもスキルは使う事さえ出来ないものの保存はされているので、もしも後でまたあのジョブになりたいなーと思ったら以前辞めたその状態の所から続けられるのだ。 これが嬉しくないなら一体何を嬉しがれば良いのだろう、とはある廃人の言葉である。
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><そっちか……誰かスイル居ない?>
《ピンク色のビリーバー》みるく:<G><ごめーん>
《ビリビリ魚》鯰:<G><ごめんキュテレン方面 妖精たんかわいいよ妖精たん>
《謙虚なる守り手》ヒッグス:<G><最初の街だわ……>
《深い森》翠玉:<G><今コペラ、マジ無理>
しかし何よりこのゲームのみに搭載され、このゲームにしか無いユニークかつオンリーワンなシステムがある。 『魂の形』と呼ばれる、ランダム要素を使ったように見える外見成形だ。 そう、このシステムこそがこのゲームの根強い人気の秘密なのだ。 これにより作られる外見は身長も体重も種族さえもリアルでの容姿とは全く違う。 普通であれば動きにくいことこの上無いので一から作りなおしたりするものだが、不思議とこれで生成された体は良く馴染み、一部のプレイヤー達からはリアルよりも動きやすい!と大好評だ。
《堅牢》アルカトラズ:<G><ラフォーレにて投獄され中、出るの無理>
《月に打たれた猫》司:<G><(ΦωΦ)>
《空飛ぶ魚》ハシビロコウ先輩:<G><近いけど後二分でログアウトしなきゃリアルがヤバイ>
《あったか毛布》穂村:<G><遠すぎて無理……アルカさん今度は何やったの>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><司近いん?>
《月に打たれた猫》司:<G><偶然にもその地域の村に用事がありました故、現在スイルの北側に拠点を構えております。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><よしいけ>
《月に打たれた猫》司:<G><了解、これよりミッションに入ります。>
また、体はほぼ全てが何故か本当の性格に見合った容貌をしているらしく、「おかげで可愛い服が着れるようになりました!」とリアルではすっきり長身の女性からの声もある。 勿論、成形された体をベースに弄ることも可能であるし、一から自分の好みの体を作る事も可能となっている。 ただしその場合、一つパーツを変えるごとに本当の手足のように扱う難易度が高くなっていくので、せめてリアルに近い体型にする事が推奨されている。
《救いの御手》美鈴:<G><ひょうこにちかいもり おねがいします>
《堅牢》アルカトラズ:<G><可愛い女の子見つける→ちょっと強引にナンパ→\(^o^)/>
《月に打たれた猫》司:<G><補足しました。 よって美鈴さんは今から護衛対象の保護行動のみお願いします。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><早いな>
《月に打たれた猫》司:<G><依頼品の薬草を採取しておりましたので。>
《月に打たれた猫》司:<G><では殲滅に移ります。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><頼んだ>
《あったか毛布》穂村:<G><またかよ、何やってんのマジで>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><アルカ、もう迎えに行かんぞー>
《堅牢》アルカトラズ:<G><工エエェェ(´д`)ェェエエ工>
《ビリビリ魚》鯰:<G><もうお前は一回で良いから処刑されてみろ、結構楽しいから>
《堅牢》アルカトラズ:<G><いや俺任意でしか再誕しないって決めてるから>
これはそんな世界での、ある頭がおかしい人物の一コマである。
自慢に思っていた、魔族の血の証である少々尖った耳のすぐ側で座布団が殴られたような音を聞いたその瞬間、鎧を着た男の一人は絶命した。 急速に人形のようなその体は意思を失い、生きていた頃己に課していた速度のまま横の木にぶちあたり跳ね返る。 完全に動かなくなった頃には藍色の頭部に開けられた穴から朱色の血が止めどなく流れだし、その辺りを鉄味に変えていた。
「な」
「おい、どうし」
駆け寄ろうとした仲間であろう栗髪の男も、同じような耳で同じような音を聞いた。 それは他の者達にとってはただの羽音か何かにしか聞こえなかったが、打たれた者達と、ごく僅かに覗く木漏れ日と所有主のみがそうではないと知っている。 湿った土と己の血が入り混じった臭いを肺に入れ、二番目の男も呼吸を止めた。 残された八人の同じような男達が警戒を始めるが、遅すぎたことには気づいていないのだろう。 逃げようともしていない。
《月に打たれた猫》司:<G><二人完了。 残り前衛八人及び後方の支援職一人。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><多くね?>
《月に打たれた猫》司:<G><見た所護衛対象は中々に高い地位の者の子ですからそれでし>
男達の後方に居る一人が耳に手を当て何事かを喋ると、一斉に右側の斜め後ろに振り返るよう指示を出す。 フードを被った小さな子と魔術士風の酷く負傷した、ほんの少しだけさらに耳の尖った黒髪の男と、薄茶色の緩く波打った髪の人間にも一応は警戒を向けているが、いつでも殺せると思っているのだろう。 新しい襲撃者の方を先に片付ける事にしたようだ。
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><どうした>
《救いの御手》美鈴:<G><あの、何か敵が皆さん変な方を向いてるんですが>
《月に打たれた猫》司:<G><支援職の探知が私の通常隠蔽より高かったようです、先に潰しておくべきでした。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><えっ>
「五人ぐらいであいつら牽制しとけ。 ゲールとポーンは俺と一緒に来い、仲間を殺した償いをさせてやろうぜ」
「おう!」
「見た目良かったら嬉しいな」
叩き合う軽口とは裏腹に、彼らはやけに洗練された足取りで道の端へ向かう。
「あー、この前の女舌噛みやがったからなぁ」
「男の可能性の方が高いだろ、期待すんな」
「俺ぁ顔が良けりゃもう男でも良いなー」
「俺も俺もー」
下卑た笑い声とともに森の奥に消えた男達は自身の選択をすぐ後に悔やむ事になるが、今はまだその事を誰も知らない。
《謙虚なる守り手》ヒッグス:<G><おい待て、早まるな>
《ピンク色のビリーバー》みるく:<G><やっちゃえやっちゃえ!>
《堅牢》アルカトラズ:<G><そうだそうだーやっちゃえー>
《月に打たれた猫》司:<G><位置がバレてるスナイパーほど意味ないものはありませんもんね>
《深い森》翠玉:<G><煽んな戦闘狂どもw>
《あったか毛布》穂村:<G><最近我慢してたらしいし、べつに良いんじゃ?>
《月に打たれた猫》司:<G><ついでに守られてない支援職もですがね、一人っきりでかわいそうでしたので気づかせずにやっておきました>
《ビリビリ魚》鯰:<G><諦めよう(提案>
《ピンク色のビリーバー》みるく:<G><やっぱ暗殺職といえど何かおかしいよこの子>
《深い森》翠玉:<G><怖いよー(棒)>
《月に打たれた猫》司:<G><仕方ないですよね前衛職居ませんもんね>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><信じてるぞ司>
《月に打たれた猫》司:<G><大丈夫です、護衛対象及び美鈴さんは髪の毛一本たりとも傷つけません。>
《ドドメ色の癒し手》鬼羅☆:<G><なら良い>
爆竹のような音が静かな空気に響き渡った。 残された襲撃者達は聞きなれないそれに不安げに顔を見合わせるが、自分達のリーダーと腹心達が負ける訳がないと信じている。 信じているからこそ、逃げ遅れた。
《月に打たれた猫》司:<G><それでは皆さん、許可も頂いた事ですし>
まるで幽霊のように木々の合間から現れでたのは、柔和な笑顔の細身の男だった。 彼の濡羽色の髪の上には猫の耳がぴんと尖っており、雪色の肌には左の目を横断するように文様のような痣が浮かんでいる。 容姿は整っている方と本人が常日頃から自分で言って回っているように、悪くはない方だった。
一歩一歩動くごとに、身に纏った暗色のローブがふわりと揺れて、施された濃い緋色の刺繍が木漏れ日に煌めき誘う。 それはさながら発情した雌の踊りのようで、男達の目を引きつけ離そうともしない。 顔を上げたローブの少年の目が見開いた。
「お? なんだこいつ」
「へー、結構良い顔してんじゃねぇか。 これならそこそこ楽しめるかもな!」
「おこぼれでも十分だな、こんぐらいなら」
「てゆーか飽きたら貰えるよう頼んでみっかー」
「だな。 ……あれ、そういやリーダー達h」
目にも留まらぬ早業とはこの事だろうか。 いつの間にか優しげな男の手にはショットガンが握られており、やけに小さな静かな音をもって一人の頭は撃ちぬかれていた。
「…………てめぇ、まさか」
一人が硬直から回復し、呻いた。 しかしその刹那に柔和な笑みが獰猛な威嚇に変転し、一丁の銃は一丁のガトリング砲に姿を変える。 男達は、ついに生き延びるチャンスを完全に逃したのだ。
《月に打たれた猫》司:<G><Let’s Happy!>
《ピンク色のビリーバー》みるく:<G><Let’s Happy!>
《堅牢》アルカトラズ:<G><れっつはっぴいいいいいいいい!>
「あーっはははははははははははははははははは!」
友と遊ぶ子供のような純粋な笑い声が、幾千とも知れない銃声とともに響きわたった。
もしも似てる設定の小説を知っておいででしたらご一報くださいませ。
自分では見つからなかったんです。 だから書いたのです。
《深い森》翠玉:<G><こいつらほんとなんでここいるの>
《あったか毛布》穂村:<G><僕は好きだけどね、ギルド名によく合ってると思うよこの雰囲気>
《謙虚なる守り手》ヒッグス:<G><どう考えても『辻ヒール委員会』とはかけ離れてる気がします先生>