第一期--No.2 プリースト
「仏教魔術経典」
僕はその1ページ目から読み始めた。
―――この世界には2つの仏教がある。
1つは心の迷いを捨て、さとりを開き、苦しみから逃れることを説くもの。
そして、もうひとつは召喚魔術を使用し召喚魔獣を呼びよせ、この世界を救ったといわれるものだ。
2つ目の仏教も1つ目のものと教えは変わらないが、
1つ目の仏教を極め、心の迷いを断ち切った者が使うのが2つ目の仏教である。
しかし、この仏教は今はもう禁じられている・・・
「なんだよこれ。こんなのデタラメだ。」
そう思いながらも、仏教のことを知りたいという一心で、次のページもめくった。
―――禁じられた仏教
かつてこの世界ではたくさんの紛争が起こっていた。
その紛争は激しさを増し、全世界に広がっていった。
その当時、高い地位におかれていた僧侶は安全な寺院に集められていた。
だが、ついに争いは寺院をも襲った。
しかし、一人の僧侶は銃を持った敵を目の前に、こう言った。
「殺したいのならば殺しなさい。
私は煩悩のない世界を望んでいたがそれは無理だったようだ。
最後に言わせてくれ・・・
南無阿弥陀仏―――」
すると、彼の目の前には大きな獣が現れた。
その獣は人々の煩悩を喰らった。
争いを生み出した、人々の感情。
それは紛れもない煩悩であった。
煩悩とは、欲望、他人への怒りなど心の苦しみを生み出す精神のはたらきである。
その感情を喰らい尽くした獣はやがて消滅し、その僧侶も笑って浄土へと旅立って行った。
争いを沈めた代償として。
その僧侶、及び召喚魔術を使う僧侶を人々は
召喚僧と呼んだ。
読めば読むほど嘘くさい話だった。
しかし、本を読み始めると止まらなくなる僕はものすごい早さでその本を読み続けた。
―――召喚魔術は煩悩を捨てた者しか使うことはできない。
今までに成仏させてきた魂の数だけ召喚獣を呼びよせることができる。
召喚獣は煩悩を喰らい、一定の量を喰らうと消滅する。
そして、召喚獣を使いきった者は浄土へと旅立つ。
召喚魔術を使ういたくば、煩悩を捨てろ。
そして、一心に唱えるのだ、
「南無阿弥陀仏」と・・・―――
「煩悩ならば、もう捨てたつもりだが・・・」
そう呟き、僕は最後のページをめくった。
「うわっっーーー」
その瞬間、急にまぶしい光りが僕も包み、僕は意識を失った。
目をあけるとそこには、黒衣を着た僧侶が立っていた。
「あなたは?」
「名乗るほどの者ではありません。
それより、あなたのような人を待っておりました。
若くて繊細な煩悩のない感情を持つあなたを・・・」
「どうして?」
「この世界では、新な争いが起ころうとしています。
その争いを止めるのです。」
「どうやって?」
「本はお読みになりましたね。」
「まさか」
「そうです。」
「でも召喚獣は成仏させた魂の数だけって・・・」
「それなら大丈夫です。私の魂を差し上げましょう。
それでは静かに唱えるのです。
南無阿弥陀仏と・・・」
僕は静かに手を合わせた。
「南無阿弥陀仏」―――