第一期--最終話 心
祥雲は疲れ果て、倒れ込んでしまった。
「大丈夫か?!」
祥雲はゆっくりと口を開いた。
「・・・俺はもう力を使い果たした・・
圭秀・・この前お前に話した俺の魔術の弱点を覚えているか?・・
あの時、話さなかったもうひとつの弱点・・・
それは、封印の結界は俺が死んだら消滅してしまうことだ・・・
結界が消滅したら、そこに封印した煩悩が漏れだしてしまう・・・
お前には、1枚の札を渡したはずだ・・」
「ああ、持ってるよ。」
僕はカバンから札を取り出した。
「・・それを、俺の額に貼ってくれないか?・・
その札は、俺自身を封印するための札・・
それを貼れば、俺は封印されて消える。」
「なんでそんなことするんだよ!」
「・・・俺がここで死んだら、煩悩がまたばらまかれる。
そうはしてほしくない・・」
「でも、そしたら君は消えてしまう。
そんなこと僕には出来ない。」
「・・俺の最後のお願いだ。」
「嫌だよ!!
まだ祥雲と一緒にいたい。君まで失ったら僕は・・・」
「パチッ」
祥雲は最後の力で圭秀の頬を叩いた。
「・・お前がそんな意気地無しだとは思わなかった・・・・
俺はお前を信じてその札をお前に渡したんだ・・」
僕は、自分の頬に手を当てた。
とても熱い。すると胸の奥も熱くなった。
圭秀の赤くなった頬に光の雫が流れ落ちた。
僕は、札を祥雲に近づけた。
「ありがとう、祥雲・・・
・・・・・・さようなら・・・」
祥雲は静かに消えていった。
笑っていた。でも、目の奥はうっすらと輝いていた。
「・・・・・・」
僕は涙をこらえて、両手を合わせた。
「さよなら、祥雲。さよなら、沙羅。」
僕は空を見上げて、目をつぶった。
「南無阿弥陀仏」
すると数珠が光り輝いた。
圭秀は眩い光に包まれた―――――。
≫≫≫≫≫≫≫≫
村の争いは3人の召喚僧によって沈められた。
村の石碑には、2人の名前が刻まれ、それと同時にこの村に仏教という宗教が広まった。
そしてこの村は、世界一平和な村として語り継がれていった―――。
あれから数年。
僕は実家の寺の住職となった。
あの日の出来事は夢であり、幻だったのかもしれない。
でも、記憶だけはしっかりと僕の胸に刻み込まれていた。
「仏教の教えは永遠に人々の心の中に輝き続ける。」
僕は今、住職として人々に仏教の教えを説いている。
あの時のことは今でも忘れない。
仏壇に手を合わせるたび、記憶がよみがえってくる。
「南無阿弥陀仏」
僕は目を閉じた。
僕が持っていた数珠が少しだけ輝いて見えた。
『仏の仕事は、永遠に終わることを知らない。
人のある限り、生物の続く限り、また、それぞれの生物の心がそれぞれの世界を作り出している限り、そのやむときはついにない。
いま仏の力によって彼岸の浄土に入った仏の子らは、
再びそれぞれ縁のある世界に帰って、仏の仕事に参加する。
一つの燈がともると、次々に他の燈に火が移されて、尽きることがないように、
仏の心の燈も、人びとの燈に次から次へと火を点じて、
永遠にその終わるところを知らないであろう。
仏の子らも、またこの仏の仕事を受け持って、人びとの心を成就し、
仏の国を美しく飾るため、永遠に働いてやまないのである。』
僕は目を開ける。
そこには、永遠に消えることのない輝きが僕を見守っていた―――。
第一期はこれで完結します。
皆さま、ご愛読ありがとうございました。
これからしばらくは、休載させていただきます。
構想を練り次第、第二期、もしくは新連載も考えておりますので
これからも応援よろしくお願いいたします。