第一期--No.18 可能性
「お前は絶対に許さない!!」
涙をこらえきれなかった。
祥雲は僕の肩を叩いてくれた。
「圭秀、気持ちは分かる。だが、目の前の敵に集中しろ!」
「・・・そんなの無理だ。
僕にはもう召喚魔術を使う輝きは残っていない。
祥雲だって分かるだろ!
あんなやつの前で座禅でも組んでみろ、やられるに決まってる。」
「圭秀、諦めるな!!
俺達がなんのためにここに来たのかを思い出せ!」
「そんなことわかってる。
だけど、可能性は0だ。」
すると、不意に甲府軍の将軍が鎧を脱ぎ捨てた。
「・・・こうなったのも、将軍である俺の責任だ。
命に換えてもアイツは倒す。」
鎧をはずした将軍は刀だけ持って、煩悩の塊に向かって走っていった。
ーー「ほう、わざわざやられに来るとはな。」
煩悩は黒いオーラを将軍に向かって放った。
「その程度では俺は倒れないぞ。」
鎧をはずし、身軽になった将軍はひらりとかわした。
「将軍様、いくらなんでも無茶だ。」
祥雲と圭秀は将軍を止めた。
しかし、彼は聞く耳を持たなかった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
将軍は、自分の3倍程の大きさの煩悩の塊の胸に刀を振り上げ飛び込んだ。
ーー「おもしろい。」
煩悩は黒いオーラを一点に集め始めた。
「まずいぞ!あれを発射する気だ!
将軍様、逃げろ!!」
僕たちは思わず目をつぶった。」
「シュッッッ」
急に、煩悩に向かって、手裏剣が飛んできた。
続けて、鎖のついた鎌も飛んでくる。
「将軍様!!」
黒いオーラは放たれたが、手裏剣と鎌によって軌道をずらされ、将軍は守られた。
「今の手裏剣は?!」
後ろを振り向くと、たくさんの村の人々が集まっていた。
「あの手裏剣、そして鎌。
間違いない。あれは僕たちが以前戦い、煩悩を抜き取った村の人々だ。」
「あの時は、俺たちを煩悩から救ってくれてありがとう。
今度は、俺たちが手を貸すよ。」
村の中心部で戦った敵、、松山城での敵。
みんなが助けに駆けつけてくれた。
「煩悩を抜かれた人はしばらくすると意識が戻るはず。
そう、言っていた。彼らに煩悩はもう無いはずだ。」
0だった可能性に少しずつ光が見えてきた。
ーー「なに?!お前たち、私を裏切るのか?」
「裏切るもなにも、今となっちゃ、貴様は大将でもなんでもねぇ。
この世界には必用のないものだ。」
「お前がいるから人々は苦しみ、迷い、そして争う!!」
圭秀は、目をつぶった。
「僕も君を完全に追い払うことは出来なかった。
だから、僕の心にもきっと君はいるはず。
でも、本当の君の姿に気づいた僕は、もう惑わされることはない。
僕たちは迷い、苦しんだからこそ少しずつ成長できたんだと思う。
争いを起こし、人々を悲しませる君はいらない。
人々を成長させることのできる君でいてくれ・・・」
圭秀が目を開けると、黒いオーラは少しずつ消えかかっていった。
ーー「くそ・・・
なんなんだこの感情。胸の奥が熱い。」
黒いオーラが小さくなっていく。
「これならば行ける。」
祥雲は座禅を組み始めた。
「よし、みんな祥雲を守ってくれ。」
「おう!!」
将軍を先頭に煩悩に向かって立ち向かっていった。
村の人々は黒いオーラに惑わされることはない。
ただ、ひたすら前に進む。
ーー「止めろ!
うわぁぁぁぁぁぁ!!」
黒いオーラはわめき声をあげて倒れた。
「今だ!!」
祥雲の回りに結界が現れる。
ーーーーーー大正新脩大蔵経ーーーーーー
結界から召喚魔獣が表れて、黒いオーラにのしかかった。
今までように簡単に結界に引き込むは出来なかった。
煩悩も必死で抵抗する。
「くらえ!!」
鎧をはずした将軍が煩悩の胸に、トドメの一撃を食らわせた。
煩悩の動きが止まった。
「よし!!」
結界から現れた召喚魔獣は黒いオーラと共に結界に入っていった。
「・・・・・・」
「終わった。」
「・・・やったぞ!!!」
「よくやってくれた。」
「よくやったぞ!!」
周りからは歓喜の声が飛び交った。
「・・・・・祥雲!!」
僕は祥雲に近づいた。
祥雲のツルツル頭は大粒の汗で輝いていた。
「圭秀、俺やったぜ。」
祥雲は微笑みを浮かべ、その場に倒れ込んだ。
「おい、祥雲! 大丈夫か?!」




