第一期--No.10 禅宗の力
「なんだ、この男・・・」
そのスキンヘッドの男は、全ての煩悩を狩りとるとゆっくりと立ち上がった。
「今の召喚魔術は、禅宗のお経ですよね?」
「ああ、よく知っているな。
【大正新脩大蔵経】(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)は禅宗の魔術だ。
だが、お前らの召喚魔術とは少し違うぜ。」
「どういうことですか?」
「話と長くなる。少し座ろうか。」
僕たちは木の切り株に腰をおろした。
そして、スキンヘッドは話を始めた。
「俺の召喚魔術は少し特殊でな。
正式には【結界封印術式魔術】(けっかいふういんじゅつしきまじゅつ)と言ってな。
座禅を組むことで結界の作り上げ、そこから魔獣を呼んで煩悩を狩る。
狩るというのは、喰らうのとは少し違う。
実は魔獣が喰らっているのではなく、魔獣が煩悩を引きずり込み、それを結界に封じ込めているんだ。」
「なるほど。」
「喰らっているわけではないから、魔獣は消滅しない。
そして、狩ることのできる煩悩の量にも制限がない。」
「そんな、じゃあ無敵じゃないか。」
「禅宗の中でも、煩悩を捨てきれた者にしか使うことができない能力だ。」
「やはり、こいつ煩悩を・・・」
「まあ、結界を作るのに多少の時間がかかるのが弱点だな。
その間に攻撃を受けると精神が乱れて、結界が作れないんだ。
それに、効果の及ぶ範囲はせいぜい半径100メートル程度。
だからさっきのようにお前たちに身の安全を確保しておいてもらう必要がある。
敵の100メートル以内に座り込む訳だから、リスクも高い。」
ーー「じゃあ、私達と一緒に行動しませんか?」
沙羅が躊躇なく、男に言い放った。
「本当にいいのか?」
スキンヘッドは顔に似合わず嬉しそうだった。
「ああ、これほど強力な召喚僧が味方ならば、心強い。」
「ありがとう。しかし、この魔術にはもうひとつ弱点が・・・」
「弱点って?」
スキンヘッドは少し黙り込んだ
「いや、時が来れば言うさ。」
そう言うと、彼は懐から二枚の札を取り出した。
「この、札は俺の魔術の弱点に関係あるのだが・・・
まあ、使うことのないことを願うよ。」
スキンヘッドはにっこり笑い、共に行動することを決めた。
こうして仲間がさらに増え、争いは勢力を増していく―――。




