少年は父親になった
仕事にも大分慣れた7月中旬。
外は蒸し暑く、とてもじゃないが日向なんて歩けたもんじゃない。
そんな中、妻が作ってくれた愛妻弁当を食べながら皆よく外に昼飯を食べに行く気力があるもんだと関心していた所で、携帯が鳴った。
義母からの電話で、久しぶりに妻と外食していると、妻が産気づいたと言う。
病院に居るから来いと言う事らしい。
丁度皆昼食から戻ってきたし、僕は有休を使っていないので、今日明日は休もうと思い上司に早退する事を伝えようとした。
「あの~僕この後早退しても良いですか?」
「どうかしたのか?」
「妻が産気づいたらしくて」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
「そうか、じゃあ行ってやれ」
「はい、すいません。明日も出られないと思いますんで」
「気にすんな、どうせノルマはとっくに終わってるだろ?」
「一応は」
「じゃあ1週間位休んでて良いぞ?」
「ホントですか!?ありがとうございます!!それじゃ、お疲れ様です!」
僕は早足で会社を後にした。
後に聞いた話だが、僕に子供が生まれた事を知った女性社員はその日の夜にかなり荒れていたそうだ。
いきなり仕事増やされたせいだろうな。
電車で30分程で僕は病院に到着し、本を読みながらベッドで横になっている妻を見てホッとした。
「大丈夫なの?」
「割とね、陣痛が着たら死ぬほど痛いけど。会社は?」
「早退した。有休も使ってなかったから1週間位休み貰えたんだよね」
「えっ、そうなの?」
「まぁ今月のノルマも終わってたしね」
「そ、そうなんだ(まだ2週目の終わりなんだけど・・・・)」
それから4時間ほどして、陣痛が本格的になり、妻は分娩室に運ばれた。
僕も立ち会いたかったが、妻に全力で阻止された。ちょっと残念。
更に1時間ほどして、分娩室から泣き声が聞こえた。
分娩室から看護士さんが出てきて僕に言った。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」
「あ、ありがとうございます!」
僕は涙声だった。
それから更に30分程で産後の処置が終わり、僕は初めて、生まれたばかりの息子を抱いた。
僕の腕でスヤスヤ寝ている息子は本当に小さく、とても軽かった。
これから僕はこの子を守っていく事になるのだ。
そう思うと初めて父親としての実感が沸いた気がした。
僕は息子を生まれたばかりの子供専用の部屋のベッドに寝かせた。
義母は一旦家に帰るらしい。明日義父と一緒に来るそうだ。僕は病室に戻った妻のもとへ向かった
妻は意外なほどケロッとしていた。出産とはもう少し辛いものだと聞いていたのだけどな・・・
僕は妻に労いと感謝の言葉をかけた。
「お疲れ様」
「本当に疲れちゃったよ」
「うん、ありがとう、僕の子供を産んでくれて・・・」
「これからが大変なんだからね?しっかりしてよパパ?」
「ママもね?」
僕らは声を合わせて笑った。
その後、2人で息子の様子を見に行った。
検査の結果、健康で異常はないという。
妻は息子を抱いて「今更だけど名前考えなくちゃね」と笑った。
僕は「もうお義父さんが考えてくれたよ」と答えた。
それが妻と結婚した時の約束だったし。
それにしても、僕ら他の何組かの夫婦に物凄い見られている気がする。
なんだろ?