少年は大人になっていく
2週間後の週明け、僕は彼女に「家まで迎えに行く」と連絡して、彼女の家に向かっていた。
勿論納車されたばかりのタイプMでだ。
そうこうしている内に彼女の家に到着し、呼び鈴を鳴らした。
彼女は直ぐに出てきた。
「おはよ」
「おはよう、随分速かったね?」
「まぁね」
「あれ・・・あの車・・」
「買っちゃった」
「うそ!?」
「本当、これからはあの車で送り迎えさせて頂きますよ、お姫様」
彼女は苦笑していたのを覚えている。
僕は彼女を車に乗せて少し寄り道しながら学校に向かった。
学校の駐車場は生徒証を提示すると無料で使えるから便利だった。
空いている所を探すと、友達のシルビアを発見した。
まだエンジンが掛かってるっぽかったから横に止めた。
僕は車から降りると窓を軽く叩いた。
すると友達とその彼女は直ぐに僕だと気づき車から降りてきた。
「どうしたんだよそのスカイライン?」
友達が聞いてきた
「買った」
「いくらよ?」
「総額で85万位かな?」
「これで85万か、良い買い物したな」
「でしょ」
「あ、しかもバンパーGT-R用じゃねぇか、最初からか?」
「それで決めたんだ」
等と会話していると彼女達が剥れ始めたので校内に入る事にした。
それからの3年間は本当に楽しかった。
友達のシルビアと2台でツーリングに行ったり、彼女達と4人で遠出したり。
彼女と些細な事でケンカした時も、首都高の夜景を見に連れ出したら何とか許してもらえた。
多分人生の中で1番楽しかった時期かもしれない。
しかし、卒業間際に事件は起こった。
もう単位も取り終わり、卒業が確定して、会社からの内定も貰った大学4年の年末の事だった。
クリスマスが過ぎて後は正月だなと言う時に、突然彼女に呼び出された。
僕はスカイラインで彼女の家に向かうと、玄関先で少し不安そうな顔をした彼女が突っ立ていた。
「どうしたの?」
「うん・・・ちょっと二人で話したい事があるの・・・大事な事なの」
「う、うん、分った」
彼女を助手席に乗せ、僕は適当に車を走らせた。
彼女はいつもの元気が無く、全く喋らなかった。
僕は何時もドライブに来ていた奥多摩の峠道を登った。
そして頂上にある駐車場に車を止めて、自販機で紅茶を2本買って彼女に渡した。
「ありがと・・・」
「いいよ。それで、大事な話しって?」
「・・・・・・・・・・・・」
彼女は黙り込み下を向いてしまう。
少しして彼女は決心したように話し始めた。
「あのね・・私たちにとって本当に大事な話しだから、ちゃんと聞いてね?」
「うん」
「実はね・・・」
彼女の暗い雰囲気からすると、もしかしたら他に好きな男が出来たから別れたいとかなのかな・・・
と僕は思ってしまった。僕は彼女の事が本当に好きだけれど、彼女は違ったのかな・・・と
でも、僕は彼女が離れて行くのなら止めようとは思わなかった。心が離れた相手に追い縋っても絶対幸せにはなれないからだ。しかし、彼女が口にしたのは僕の想像を遥かに超えるものだった。
「子供が出来たの・・・・貴方の・・」
「・・・・・え?」
「2ヶ月前から・・・その・・・来なくて・・病院に行ったら妊娠3ヶ月目だって・・・」
えっとー、心当たりは・・・・有り過ぎますね・・・・・・
「マジ?」
「うん・・・私、貴方以外の人としてないし・・・間違いなく貴方の子なの・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は考えた。彼女が妊娠した、間違いなく僕の子、春からは社会人。
でも、僕らはまだ社会にすら出ていない22歳だ・・・・そんな僕にこんな大事な事を決めて良いのかは解からなかった。でも・・・・・・自分の子供を堕ろせだなんて言いたくなかった・・・・・そんなの酷過ぎる。第一男として最低すぎる。そう考えたら答えはアッサリ決まった、僕はもう直ぐ社会人だし、男なら責任を取るべきだ!
「結婚しよう!」
「ふぇ!?」
「必ず君とお腹の子を幸せにしてみせるよ!!だから・・・・・結婚して一緒に育てよう?」
「・・・・・・・・・うぅ・・うぅぅぅ・・・・・・・・・・」
彼女は泣き出してしまった。もしかして・・・
「僕と結婚なんか・・・したくない・・・かな?」
「違うの!私も貴方と結婚したい!」
「え?」
じゃあなんで泣いているんだろう・・・
「堕ろせって言われると思っていたから・・・私は絶対そんな事したくなかったから・・・一人で育てる覚悟もしてて・・・・・・・・」
「いやいやいや、そんな事言うわけ無いじゃん!」
その後彼女を宥めるのは結構大変だった。
30分位して落ち着いた頃、僕はもう一度言った
「僕と結婚してくれますか?」と
彼女の答えは・・・・
「よろこんで!」
そう言った彼女の頬にはまた涙が流れた・・・・・・