第百五十六話 京で満たせぬ欲
天文十九年(一五五〇年)八月。
松永久秀が三好長慶のもとへ戻ったのは、祝言から後日のことであった。
京の空気は、阿蘇とは違う。
湿り気も、匂いも、人の目の動きも違う。
阿蘇では、客は驚き、商人は嗅ぎ、公家は笑みを作り、武家は沈黙した。
京では、誰もが探る。
笑っていても、黙っていても、礼をしていても探る。
久秀は、その京の空気に戻ってきたはずだった。
だが、胸の内にはまだ、阿蘇の夜空に咲いた火が残っている。
赤い火。
白い火。
尾を引く火。
山を震わせた祝砲。
それは戦の火であった。
城を焼き、兵を崩し、船を沈める火であった。
だが、阿蘇はそれを祝言に使った。
恐れを、祝いに変えた。
それが、久秀には何より恐ろしかった。
◇
三好長慶は、久秀の報告を聞く前から、何かを察していた。
松永久秀は、軽々しく驚く男ではない。
奇物を見た程度で顔を変える男でもない。
豪奢な膳や珍しい器に、心を乱される男でもない。
その久秀が、戻ってからしばらく口数を減らしている。
それだけで、長慶には十分だった。
「松永」
「は」
「阿蘇は、どうであった」
久秀は、すぐには答えなかった。
部屋には長慶と久秀のほか、数人の近臣が控えている。
長慶が目を向けると、その者たちは静かに下がった。
襖が閉まる。
ようやく、久秀は口を開いた。
「祝言にございました」
「それは知っておる」
「されど、祝言ではございませぬでした」
長慶の目が、わずかに細くなる。
「では、何だ」
「市にございます」
「市か」
「はい」
久秀は、膝の上に手を置いた。
「朝廷、幕府、三好、博多、堺、島津、九州諸家。すべてを一つ所に集め、飯を食わせ、器を見せ、火を見せ、氷を出した。あれは、阿蘇という家そのものを売る市にございます」
長慶は黙って聞いていた。
「ただ豪奢なのではございませぬ。豪奢にするだけなら、大内もできます。堺の商人もできます。銭さえあれば、公家を集め、唐物を並べ、香を焚き、能を舞わせることもできましょう」
「阿蘇は違ったか」
「違いました」
久秀は短く答えた。
「玻璃の器がございました」
「阿蘇の特産品か」
「一つ二つではございませぬ。主だった客へ出せるほどに揃えておりました」
「そこまでか」
「おそらく。少なくとも阿蘇の者は、宝を見せびらかすようには扱っておりませなんだ」
長慶は、小さく息を吐いた。
「宝ではない、ということか」
「阿蘇にとっては、道具にございます」
宝を道具にする。
それは、銭があるという話ではない。
職人がいるという話だけでもない。
宝を宝のまま置かず、政に使うということである。
「他には」
「氷菓子が出ました」
「八月にか」
「はい」
長慶の眉が動いた。
「氷室か」
「そう思いました。されど、ただ氷を削っただけではございませぬ。果汁と乳を合わせ、口に入れば溶ける。甘く、冷たい。しかも、それを溶かさず客へ運んだ」
久秀は、あの器の中を思い出した。
冷たい菓子。
周囲の者が驚く中、阿蘇の者だけは平然としていた。
その平然が怖かった。
「見えているのは菓子にございます」
久秀は言った。
「ですが、隠れているのは仕組みです」
「仕組み」
「はい。どう冷やすか。どう運ぶか。どの器に盛るか。どの順で客に出すか。客が驚いた時、どの言葉で受けるか。すべてが整っておりました」
長慶は、そこで初めて少し身を乗り出した。
「戦にも出るな」
「出ます」
久秀は即答した。
「火薬も、船も、米も、薬も、同じように扱う家にございます」
部屋が静かになった。
それは、久秀が阿蘇を恐れているという意味ではなかった。
見たものを、正しく測ったという意味である。
長慶は、その重さを理解した。
◇
「兵はどうであった」
「静かでした」
「強い、ではなく静かか」
「はい」
久秀は頷いた。
「槍の構え、鉄砲の置き方、門の立ち方。いずれも、騒がしくはございませぬ。勇ましさを見せる兵ではなく、命じられた場所で命じられるまで動かぬ兵にございます」
「常備の兵か」
「おそらく。少なくとも、祝言の警固に出ていた者は、国人の寄せ集めではございませぬ」
「厄介だな」
長慶は静かに言った。
国人は強い。
だが、国人は家の腹で動く。
常備の兵は違う。
主の腹で動く。
それを若い阿蘇惟種が持っている。
「それだけではございませぬ」
久秀は続けた。
「火が上がりました」
「祝砲のことか」
「はい。火薬筒を用い、夜空へ火を咲かせました。祝砲も鳴りました。火消しは控え、水桶も置かれ、火薬を扱う者の動きも決まっていた」
「失敗は」
「ございませぬ。少なくとも、客の前では」
長慶は、その言葉を聞き逃さなかった。
「客の前では、か」
「はい」
「失敗を隠す仕組みもあると見たか」
「分かりませぬ。ですが、失敗しても祝言を壊さぬ備えはありました」
久秀は、あの夜を思い返した。
誰もが火を見上げていた。
公家は息を呑み、武家は黙り、商人は目を見開いた。
その後ろで、阿蘇の者だけが火の行方と水の位置を見ていた。
夢を見せる者が、夢に酔っていなかった。
「阿蘇は、恐れと憧れを同じ火で作りました」
「誰かも、そのようなことを言ったか」
「島津日新斎殿が」
「なるほど」
長慶は短く言った。
日新斎がそう見たなら、久秀の見方だけではない。
阿蘇は祝っていた。
だが、同時に脅していた。
しかも、脅しに見えぬ形で。
◇
「惟種は、どう見えた」
長慶の問いに、久秀は少しだけ答えを遅らせた。
そこが、一番難しかった。
「若うございます」
「それは聞かずとも分かる」
「はい」
久秀は頭を下げた。
「されど、若さだけではございませぬ。あれは、欲の形が違います」
「欲か」
「はい」
長慶は、黙って続きを待った。
「公方様は、阿蘇惟種を気に入っておられます」
「見れば分かったか」
「はい。阿蘇も、公方様を嫌ってはおりませぬ。むしろ、好いているように見えました」
「ならば幕府を支えるか」
「そこが違います」
久秀は静かに言った。
「阿蘇惟種は、公方様個人は大切に扱います。ですが、幕府を背負う気はございませぬ」
長慶の視線が止まった。
「なぜそう見た」
「公方様は氷菓子を京でも出せと仰せになりました。阿蘇へ上洛せよとも、軽く仰せになった。惟種は丁重に受けておりました。されど、目は笑っておりませなんだ」
「京に絡め取られることを嫌ったか」
「はい。礼は尽くす。朝廷の筋も軽んじない。されど、幕府の御用聞きになる気はない。京で政を回す気も、畿内に根を張る気も見えませぬでした」
「では、何を欲しておる」
長慶の声は静かだった。
久秀は、そこで初めて小さく息を吐いた。
「分かりませぬ」
「松永が分からぬと申すか」
「申し訳ございませぬ」
「責めてはおらぬ」
長慶は目を伏せた。
分からない。
それは、珍しい答えだった。
だが、久秀が軽く言ったものではない。
「京を欲する者なら、京で縛れる。官位も所領も、幕府も同じだ」
「はい」
「だが、京を欲せぬ者は縛りにくい」
「しかも、欲がないわけではございませぬ」
「何ゆえそう思う」
「祝言で分かります」
久秀は言った。
「あれほどの場を、ただ娘を迎えるためだけに作る男ではございませぬ。阿蘇は、銭がある。米がある。船がある。商人を動かせる。職人を動かせる。敵に回せば面倒、味方にすれば得。そう見せるための祝言にございました」
長慶は黙った。
久秀の言葉は、阿蘇惟種の腹を語っている。
同時に、阿蘇が三好へ向けて見せた刃を語っている。
「あれは、畿内を欲していないのではございませぬ」
久秀は声を落とした。
「畿内で満たせる欲を持っていないだけにございます」
長慶の目が、わずかに動いた。
その言葉は、部屋の空気を冷やした。
◇
「もう一つ、ございます」
「申せ」
「祝言の後、阿蘇惟種は織田三郎信長と会っております」
長慶は、すぐには動かなかった。
尾張。
織田。
三郎信長。
遠い名である。
畿内にいる三好からすれば、本来なら今すぐ重く扱う名ではない。
だが、久秀はそれを報告した。
ということは、軽くない。
「内容は」
「掴めておりませぬ」
「誰が同席した」
「確かなところでは、甲斐宗運。平手政秀。阿蘇惟豊も途中で入ったと聞きます」
「惟豊もか」
「はい」
「祝言の後に」
「祝言の後にございます」
長慶は、ここで初めて眉を寄せた。
祝言の後。
それは軽い時間ではない。
客を捌き、主家の内で礼を済ませ、新婦を迎え、重臣を労うべき時間である。
そこに、尾張の若者を呼んだ。
「なぜだ」
「分かりませぬ」
「また分からぬか」
「はい」
「尾張織田は、阿蘇にとって何だ」
「遠国の一勢力にすぎませぬ」
「ならば、型通りに遇すればよい」
「そのはずにございます」
「だが、会った」
「はい」
長慶は、指先で膝を一度だけ叩いた。
軽い音だった。
「織田三郎は、何者だ」
「うつけと呼ばれております。尾張織田信秀の嫡男。奇矯、粗暴、礼を欠く。されど、津島や熱田の商いを見る目はあると聞きます」
「商いか」
「はい」
「阿蘇が見たのは、そこか」
「あるいは」
久秀は慎重に言葉を選んだ。
「阿蘇惟種は、織田家ではなく、織田三郎そのものを見たのやもしれませぬ」
長慶は、わずかに笑った。
「遠国のうつけに、か」
「はい」
「阿蘇の鬼童が、祝言の後に」
「はい」
「それを軽く見るわけにはいかぬな」
信長が恐ろしいのではない。
阿蘇惟種が、信長を見たことが恐ろしい。
そこを、長慶はすぐに理解した。
「松永」
「は」
「尾張を見る」
「織田を、でございますか」
「違う」
長慶は短く言った。
「阿蘇の糸が、尾張で何を絡め取るかを見る」
久秀は、深く頭を下げた。
「承知いたしました」
「津島、熱田、堺。荷の流れを見よ。阿蘇の商人が尾張へ入るなら、必ず銭と紙が動く。鉄砲や火薬だけを見るな。帳を見よ」
「帳にございますか」
「阿蘇は帳で国を縛る家だ」
長慶は、思い出すように言った。
府内の乱が、燃え広がらなかった。
大友の名を残し、旧臣を分け、民を動かさず、理を握った。
その報せは、すでに長慶のもとへ届いている。
「槍より先に、帳が来る」
長慶は言った。
「尾張へ帳が入れば、織田三郎は変わる」
「はっ」
「斎藤にも、今川にも、尾張の内にも目を置け。だが、騒ぐな」
「なぜでございます」
「今騒げば、こちらが恐れていると見える」
長慶は冷静だった。
「尾張の若者を三好が恐れるなど、馬鹿げている。だが、阿蘇が見た火を放置するのも馬鹿だ」
久秀は、わずかに口元を動かした。
「では、恐れず、侮らず」
「そうだ」
長慶は頷いた。
「火種は、踏めば消えるものと、踏めば足に燃え移るものがある」
久秀は、阿蘇の夜空を思い出した。
火が空へ上がった。
皆が見上げた。
だが、阿蘇の者だけは、火の落ちる先を見ていた。
阿蘇惟種は、尾張に火を置いたのかもしれない。
◇
「方針を定める」
長慶は言った。
久秀は姿勢を正した。
「阿蘇とは、今は争わぬ」
「はっ」
「畿内に兵を入れさせるな。だが、敵にもするな」
「はい」
「公方様は丁重に扱う」
久秀の目がわずかに動いた。
「公方様を、でございますか」
「そうだ」
長慶は淡々と言った。
「阿蘇は幕府を欲せぬ。だが、公方様を気に入っておる。ならば、公方様を粗略にすれば、阿蘇に口実を与える」
「御意」
「公方様は京におわす。面目は立てる。だが、政と兵は三好が握る」
「自由には」
「させぬ」
長慶の答えは早かった。
「丁重に囲う」
久秀は、深く頷いた。
丁重に囲う。
それは三好らしい言葉だった。
剥き出しの脅しではない。
礼の形を取りながら、実を握る。
「幕府は壊さぬ」
長慶は続けた。
「少なくとも、今は」
「幕府を」
「残す」
「されど」
「分かっておる。わしも、幕府をありがたがっておるわけではない」
長慶は、少しだけ冷えた笑みを浮かべた。
「だが、幕府が消えれば、空白ができる。空白には、誰かが入る」
「阿蘇が」
「あるいは、阿蘇が使う誰かが」
久秀の脳裏に、織田三郎の名が浮かんだ。
尾張の火。
阿蘇が置いたかもしれぬ火。
「ならば、幕府は残す。中身は三好が握る。公方様の面目は立て、阿蘇の介入の口実を消す」
「はっ」
「堺を見よ」
「阿蘇商人にございますな」
「禁じるな」
久秀は顔を上げた。
「禁じませぬか」
「禁じれば、堺は不満を持つ。商人は、利を塞ぐ者を嫌う」
「では、許す」
「許す。だが、見る」
長慶は言った。
「荷を見よ。人を見よ。誰が玻璃を買い、誰が火薬を欲し、誰が阿蘇の紙を扱い、誰が尾張へ流すかを見よ」
「承知」
「阿蘇の技は盗め」
久秀は、そこでわずかに笑った。
「それは、得意にございます」
「だろうな」
長慶も少しだけ笑った。
「だが、技だけだ」
「制度は入れぬ」
「そうだ」
長慶は声を落とした。
「阿蘇の技は欲しい。筒も、船も、玻璃も、氷の仕掛けも、火薬の扱いも欲しい。だが、阿蘇の政をそのまま入れれば、三好の腹が裂ける」
「国人、寺社、商人、家臣団」
「すべてが揺れる」
長慶は続けた。
「阿蘇は民を直接見る家だ。帳で人を数え、蔵を改め、道に灯を置き、商人を太らせる。よい政だろう。だが、よい政だからこそ危うい」
久秀は頷いた。
「三好の下にある者が、阿蘇式を望みますな」
「そうだ」
長慶の目は冷静だった。
「民が望む政ほど、支配者には毒になる時がある」
久秀は、その言葉を胸に刻んだ。
長慶は、阿蘇をただ恐れているのではない。
見抜いている。
阿蘇の恐ろしさは、兵ではない。
民がそちらを向くことだ。
◇
「阿蘇は九州へ戻す」
長慶は言った。
「戻す、でございますか」
「そうだ。朝廷にも幕府にも、そういう形を取らせる」
「九州静謐の任」
「うむ」
長慶は頷いた。
「阿蘇殿は九州を治める重き役を担う。畿内の静謐は三好が支える。互いに分を守る。それが天下の安寧である」
「きれいな言葉にございます」
「きれいな言葉はよく効く」
「阿蘇も、表向きは拒みにくい」
「畿内に興味がないなら、なおさらな」
久秀は、深く頭を下げた。
長慶の策は、一本につながっていた。
敵にせず、入れず、禁じず、見張る。
技は取る。
だが、阿蘇そのものは入れない。
「修理大夫様」
「何だ」
「それで、阿蘇は止まりましょうか」
長慶は、しばらく答えなかった。
庭の方へ目を向ける。
京の庭は整っている。
石があり、苔があり、松がある。
水の音もある。
だが、阿蘇の夜空に咲いた火はない。
久秀は、そう思った。
「止まるかどうかは分からぬ」
やがて、長慶が言った。
「だが、今こちらから動けば、阿蘇を畿内へ呼び込む」
「はい」
「ならば、今は呼ばぬことが勝ちだ」
久秀は、静かに頭を下げた。
「御意」
「松永」
「は」
「阿蘇を見よ」
「はい」
「品ではない。人を見よ。船ではない。港を見よ。菓子ではない。冷やす仕組みを見よ。火ではない。火を祝いに変える心を見よ」
長慶の声は静かだった。
「そして、惟種が何を欲しておるのかを見よ」
久秀は、しばらく顔を上げられなかった。
何を欲しているのか。
それが分からない。
京では測れない。
官位では測れない。
所領では測れない。
幕府でも測れない。
阿蘇惟種は、何を見ている。
民か。
国か。
天下か。
それとも、久秀たちにはまだ名もない何かか。
「承知いたしました」
久秀は、ようやく答えた。
◇
その夜、久秀は自らの宿所へ戻った。
火は小さく、灯は揺れている。
阿蘇の灯とは違った。
阿蘇の館では、夜の道に灯が置かれていた。
客のために。
警固のために。
火事と悪事を見逃さぬために。
京にも灯はある。
だが、阿蘇の灯は意味が違う。
夜を飾るためではない。
夜を治めるための灯だった。
久秀は、座ったまま目を閉じた。
玻璃。
氷菓子。
祝砲。
火の花。
静かな兵。
商人の目。
公方様の笑み。
惟種の困った顔。
そして、祝言の後に呼ばれた織田三郎。
すべてが、一つの絵の中に入っているようで、まだ形にならない。
ただ、一つだけ分かる。
阿蘇は、畿内を欲していない。
少なくとも、今は。
だが、それは安心にはならない。
畿内を欲していない者が、畿内を変えぬとは限らない。
「京で満たせる欲を、持っていないだけか」
久秀は、誰にともなく呟いた。
その言葉は、夜の中へ落ちた。
返事はない。
だが、阿蘇の夜空に咲いた火だけが、まぶたの裏でまだ消えなかった。
◇
翌朝。
三好長慶のもとから、いくつかの文が出た。
堺へ。
兵庫へ。
淡路へ。
近江へ。
尾張筋を知る商人へ。
文面は、いずれも穏やかだった。
阿蘇を敵とするものではない。
織田を咎めるものでもない。
公方様の面目を立て、商いを安んじ、海路の乱れを戒めるだけの文である。
だが、その裏で目が動く。
荷を見る目。
人を見る目。
噂を見る目。
帳を見る目。
三好は、阿蘇と戦わないことを決めた。
同時に、阿蘇を見続けることも決めた。
久秀は、その文の控えを見ながら思った。
戦わぬというのは、安心ではない。
刀を抜かぬというだけで、戦は始まっている。
阿蘇は祝言で戦をした。
ならば三好も、礼と文と商いで戦う。
その先に、いつか火が上がるかは分からない。
だが、火種はもう置かれている。
九州に。
畿内に。
そして、尾張に。
久秀は、筆を取った。
尾張織田。
津島。
熱田。
織田三郎信長。
それらの名を、静かに書きつける。
まだ小さい火である。
だが、阿蘇惟種が祝言の夜にわざわざ見た火だ。
小さいまま終わると考えるほど、久秀は愚かではなかった。




