第四章 ウィッチーズ・ファミリーvsアーマッド
ざわっ、と空気が変わる。
辺境警備。
それは、海賊と軍の間みたいな存在で、“治安の死んだ星系”を合法的に蹴り飛ばす、変人集団だ。
ファミリーにとって“最悪クラスの来訪者”でもある。兄が昔、酔ったみたいに笑いながら言っていた。「宇宙冒険者ってやつは、だいたい同じ連合の縄張りで飯を食ってる。表札は違っても、発行元は同じだ」って。
……リーダー格が悲鳴を上げた。
「あ、辺境警備? それ本物かよ? なんでこんな辺鄙な惑星に?」
「知らん! でも関わったら死ぬぞ! 全火器向けろ! 俺たちには、このメカ、ゲヘナがある!」
男達は、慌てて、重戦メカのハッチ内に入って行った。
背部のエネルギータンクが赤く脈動し、主砲がアーマッドへ向けて旋回する。
あたしは岩陰から叫んだ。
「ちょっと! 早く逃げて! あれ、やばいわよ!!」
アーマッドはあたしの方にだけ、軽く視線を向けた。
そして――あたしの心臓が止まりそうになるほど落ち着いた声で言った。
「心配するな。相手になる」
え、相手になるって……あんた一人であんな化物メカ相手に?
ファミリーのリーダーの声が通信で叫んだ。
『ぶっ殺せェェ!』
砲門に赤黒い光が集束する。メカの脚が踏み込み、地面が爆ぜた。
アーマッドは動かなかった。
スーツのヘルメットが黒雪に染まるだけで、一歩も退かなかった。
その落ち着きに、むしろこっちの心臓が痛くなる。
「なにそれ……死ぬ気なの?」
ゲヘナの主砲が輝いた瞬間――アーマッドが、指をひとつ鳴らした。
「シラトリ」
その呼びかけに応じて、白い艇が唸るように光を帯びた。
パネルの隙間から薄い青白い膜が展開される。
まるで水面を押し広げるように、光の膜が空間に揺らめいた。
黒赤い砲撃が一直線にアーマッドへ――届かない。
砲撃は光の膜に触れた瞬間、霧のように散って溶けた。
ファミリー全員が悲鳴を上げる。
「あ? あれ、消えた? どうなってんだよ!」
アーマッドは肩をぽん、と叩いた。
「可変位相シールドだ。おまえたちの玩具では破れない」
『玩具って言ったな!』
メカの操縦士らしい男が怒り狂い、副腕のインパクトブレードを振りかざした。
『ぶっ潰せ!』
巨大な刃がアーマッドめがけて振り下ろされる――!
アーマッドは、ほんの半歩だけ横に動いた。
ほんの、紙一枚分の移動だった。
『どけどけええ!』
メカの刃は空を裂き、そのまま地面に突き刺さった。
地面が割れ、黒い雪が舞い上がった。
アーマッドは呆れたように溜息をついて言った。
「……力任せだな。もっと足下を見た方がいい」
『説教すんなああ!』
メカの男が絶叫し、また腕を振り下ろす。
しかし、その腕が動き切るより早く、白い高速艇が、鋭い声で応えた。
「シラトリ、ドローン展開」
艇の底部が分裂し、十数機の小さな白い影が飛び出した。鳥の骨格だけを機械化したような、細身のドローンだった。
ドローンは、翼を金属羽のようにきらりと光らせ、それらが一斉に重戦メカへ突っ込んでいった。
「ちょっ、あのドローン……動き速すぎ? あたしのドワーフよりずっとキレてるじゃない!」
ドローンは、ゲヘナの装甲に触れた瞬間、翼の先から鋭いビームのような刃を伸ばし――装甲を“なめるように”切り裂いた。
(ギギギギッ!)
まるで缶詰のフタをこじ開けるみたいな音がした。
金属片が雪のように飛び散るった。
メカ内の男が悲鳴を上げた。
『やめろおお!! オレの最新型の重戦メカがぁぁ!』
「いやあんたの物じゃないでしょ! ファミリーの装備でしょ!」
思わずツッこんでしまった……。
ゲヘナの側部装甲は、めくれ、内部の基盤がむき出しになった。
アーマッドは端末を軽く操作して言った。
「コア制御部を狙え」
ドローンが一斉に翼を向け――そこから、極細の光線が走った。
すると、機械音とともに、重戦メカの膝関節が折れた。
巨体が揺れ、バランスを崩した。
メカの男が叫んだ。
『まだだああ!! 空中部隊! ヘックスホーク隊、出ろ!』
すると、空から悲鳴のような甲高い音が聞こえた。
見上げると、黒い雪雲の奥から、多翼の黒い戦闘機が降りてきていた。
六枚羽で、かなり低騒音で飛行している。
バイザーの望遠で見ると、これも、黒い機体に紫のラインが入っていた。『ウィッチーズ・ファミリー』のドローン部隊だろう。
「アーマッド! 上!!」
彼は、落ち着いた声で答えた。
「分かっている」
その言葉と同時に、シラトリの背面から薄い光があふれた。
光は翼のように展開し、空に向けて扇状に開いた。
「……これ、もしかして……」
シラトリのAIが機械的な声で告げた。
(対空パルス粒子砲展開、迎撃開始)
光の翼が一斉に放射状へ切り裂くように光線を放つ。
ヘックスホークの機体が次々と光の筋に触れ――氷のように砕け散っていった。
「嘘でしょ……? 空中戦力も、秒殺じゃない!」
地上で、メカは必死に反撃していた。
『ぐぬぬぬ……! 第二メカ! 来い!』
すると、森の奥から、さらにもう一体のメカが現れた。
「え、第二メカ? なんでそんなに隠してるのよウィッチーズ!」
男がブラッドと呼んでいたメカは、重戦メカより小さいが、主砲が異常に長いかった。
細い砲身の中で、青い光子が脈動していた。
アーマッドは、わずかに目を細めた。
「……なるほど。二機同時か」
彼はコートの内側にある操作板をひとつ叩いた。
「シラトリ、“ワープエッジ砲”準備」
(了解。位相合わせ完了)
ブラッドが主砲を構えた瞬間、アーマッドがつぶやいた。
「撃ちたければ撃て。ただし――」
彼は、にやりと笑った。
「その弾は、おまえの背後から来る」
「は? どういう意味だオラァ!」
ブラッドの砲撃が放たれる。光の奔流がシラトリへ飛んでいく……はずだった。
しかし――次の瞬間、その光は空間で“ねじれ”、ブラッドの“背後”に現れた。
「――――ッ?」
自分の砲撃に自分で貫かれ、ブラッドは内部から爆発した。
アーマッドは淡々と言った。
「ワープエッジ砲だ。攻撃を受け取って返すだけの簡単な連携だ」
いや、簡単ではないでしょ、どう考えても! そんな技術、地球人には、ないはずだ。
このアーマッド、〈先住者〉とかの技術を持っているの?
アーマッドが、重戦メカに視線を向ける。
すると、内部の声の人は、完全に怯えた声でい、言った。
『やめろ……来るなぁ……!!』
しかし、黒い雪を彼の肩に積もらせながら、アーマッドは歩いた。
「ウィッチーズ・ファミリー。これ以上、暴れれば――」
足下の雪が吹き上がった。
「拘束する」
アーマッドが端末を指で弾くと、重戦メカの周囲に一斉にワイヤーが伸び、動きを封じた。
そして、ワイヤーに白い光が走って、放電音がした。
巨体がぐらりと揺れ、音を失って倒れる。
そのメカの中のハッチが開いて、男達が出てきた。
「投降しろ。もう終わりだ」
アーマッドは、静かに告げる。地上降りた男達に、白いドローンが拘束リングを発して固めた。
それを見届けたアーマッドは、あたしの方に振り向いた。
「さて、お嬢さん。迎えに来た」
あたしは、岩陰から叫んだ。
「最後のセリフだけは妙にカッコつけるのやめなさいよ! でも……ありがと……!」
アーマッドは無言で、しかし確かに微笑んだ。
数秒間、誰も動かなかった。
嵐が音を立てた。ドローンたちはホバリングしていた。捕らえられた男たちは、まるで悪夢から目覚めたかのように手錠を見つめていた。ゲヘナ――このそびえ立つ暴力の塊――さえも、白いケーブルに押さえつけられ、黒い雪の中でかすかに光っていた。
私だけが岩の陰に隠れていた。
というのは――正直にいうと、男が二体の機械をハエを叩くように消すのを見てから、ちょっとビビってしまった。
アーマッドは、急かさずに待ってくれた。怖かった。
ついに、無理やり足を動かした。あたしは、隠れ場所から抜け出し、手を彼に見えるように置いた。雪はブーツの下でカリカリと音を立て、スーツの損傷したサーボは一歩ごとに不満を漏らした――
間近で見ると、「白い服の男」は実際には白い鎧を着ていなかった。
暗いスーツで、淡い装甲で、きれいなラインで、識別できる紋章はなかった。雪が柔らかな汚れとなって、磨かれた石に灰がついたような感じ。彼は、兵士には見えなかった。ただ、確信に満ちた表情をしていた。
「本当にフロンティア・セキュリティなの?」
あたしは、そう尋ねた。
「そうだ」
私は、彼を細めて見た。
「バッジ、持ってる?」
彼は、少し首をかしげ、私が面白いのかどうかを見極めるようだった。
「見たいか?」
「そうじゃない」と、あたしは、認めた。
「もし、あんたが、あたしの胴体ほどの大きさの銃を取り出すなら、無理ね」
小さな吐息――ほとんど笑い声のような――が彼のバイザーを曇らせた。
「賢明な選択だ」
背後で拘束されていたギャングの一人が、飛びかかろうとした。すると、ドローンが前に飛び出し、拘束リングが一瞬明るくなった。男は、まるで足を切り取られたかのように地面に倒れた。
「おい!」
あたしは、反射的に憤りをこらえて鋭く言い放った。
「やめて――」
アーマッドは、手袋をした指を一本上げた。私に向かってじゃなく、男に向かって。
ドローンたちは凍りついた。
話すときも声を荒げなかった。
「連邦フロンティア法に基づき、無許可の重火器配備及び殺人未遂の容疑で逮捕する。抵抗すれば鎮静剤を投与される。」
男の虚勢はあまりにも早く崩れ、ほとんど滑稽だった。
わたしは、言葉を飲み込んだ。
「ここで、逮捕できるの?」
「機密だ」
アフマドの口調は変わらなかった。
「つまり、誰かが基本法を守らなきゃいけないってことだ」
ブランチリーダーは、まだゲヘナの壊れたコックピットに閉じ込められているか、あるいは今は手錠をかけられた男たちの中にいるのかもしれないが、苦い笑いを漏らした。
「お前、彼女を勝手に連れて行けると思ってるのか?」
「彼女は、今は、ファミリーに属している財産だ!」
胃がねじれるような感覚がした。
財産。
それでも、その言葉は私の喉元を締め付ける力を持っていた。
アーマッドは、声の方へ顔を向けた。その動きは小さく、その音で空き地全体が静まり返った。
「もう一度言ってくれ」
彼は言った。
ブランチリーダーはためらった。彼自身も、礼儀正しさの裏に鋭さを感じ取ることができた。
「彼女はウィッチーズ・ファミリーに所属している」と、男は今度は弱々しく試みた。
「彼女の契約は――」
アフマドは一歩前に出た。
「書類には興味がない」
彼の声は落ち着いていた。
「誘拐が何を意味するのか、君が理解しているかどうかに興味がある」
怒鳴らないで。脅しもしなかった。
ブランチリーダーは、口を閉じた。
私はアーマッドを見つめ、次に自分の手を見て、また見上げた。心臓は、痛みを伴う動きをしていた――走りたいのに、どの方向に向かっているかわからなかった。
「電話したわけじゃない」
まだ自分に主体性があるように聞こえる何かを言わなければならなかったからだ。
「じゃあ、どうして、あんたは、ここにきたの?」
アーマッドの視線が私に戻った。
「情報だ」
「何についての?」
彼は、言葉を止めた。ちょうど気づくくらいの時間だけ。
「スーツが損なわれた少女について」と彼は言った「偽名で、メタン空の氷の岩で働かざるを得なかった少女の話だ」
息を呑んだ。
彼はm知っていた。大まかな形だけでなく、細部まで。
「君のスーツを無効化した連中は、君を殺そうとしたわけじゃない」と、アフマドは付け加えた。
「クリーンな話じゃない。彼らは君を瀕死にしたがっていた。予想通りだ」
手袋の中の手のひらに爪が食い込んだ。
「そういう作戦は痕跡を残すからここにいるんだ」と彼は言った。
「そして、君がその中心に立っているからだ。」
冷たい笑いがこみ上げて、止められずにこぼれ落ちた。
「ラッキーだったわ」
アフマドは、私の意見に反論しませんでした。
彼はただ手を差し出した――開いたまま、無防備だった。
「一緒に来い」と彼は言った。
「医療処置と暖房、そして動作する通信回線が用意される。その後は、何を望むか決めていい」
私は、彼の手を見つめた。
人々はサーヴァント・ナンバー・スリーに選択肢を与えなかった。
彼らは命令を出した。罰を与えられた。彼らは、檻を提供しました。
選択肢は――怪しい。
背後では、ドローンが見張りを続けていた。頭上にはシラトリが忍耐強い捕食者のように浮かび、雪がちょうど良い当たりに当たると淡い青色のシールドがかすかに見えた。
そして、この星に放り出されて以来初めて、私の内側で何かが緩んだ――希望というよりは、その可能性が。
あたしは、彼の手を取った。
彼の握りはしっかりと、手袋越しに温かかった。彼はまるで私が何も重くないかのように、漂流を乗り越えるのを助けてくれました。
白い船に向かって歩きながら、私は一度振り返った。
黒い雪は降り続けた。捕らえられた男たちは拘束具の中で身を縮まらせていた。死んだメックたちは半分埋もれたまま座り、愚かさの高価な記念碑のようだった。
黒い雪の中、白い男が降り立った瞬間――世界が少しだけ明るく見えた。




