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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

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第三十七章 突入、迷彩殺し、リセット阻止

 ――派手な登場は嫌い。でも助かるなら文句は後で言う

(視点:ナルディア)

 換気口が割れた瞬間、金属片が雨みたいに落ちた。

 雨みたいに落ちるのに、音が硬い。

 そして、その雨の中心から“重い影”が降ってきた。

 床が沈む。

 クラブの床が、ほんの少したわんだ。

 その“たわみ”だけで分かる。

 人間じゃない重さ――人型ロボットだ。

 アーマッドが乗っている、あの人型は、アエリミアスを変形させたヤツだ。

『位置確認。対象:美優。脅威:複数。……ナルディア、生存』

 胸部スピーカーから、アーマッドの声で、AIが淡々と話した。

 淡々のくせに、いまはそれが救いだ。

「遅い!」

 あたしが叫ぶと、源一郎の声が下から飛んできた。

「生きてるなら黙れ! 次、来る!」

「助けに来た側が怒られるのって、おかしくない?」

「お前が、怒りすぎなんだよ!」

 言い合いしてる暇なんてない。

 でも言い合いができるのは、生きている証拠でもある。

 悔しいけど、救い。

 フランケン一家が一斉に動く。

 銃口。

 刃物。

 スタンガン。

 光学迷彩の輪郭が空気に滲んだ。

 見えないのにいる。

 いるのに、見えない。

「また迷彩かよ!」

 あたしが吐き捨てて、バイザーを被った瞬間、アーマッドのロボが腕を振った。

 ただ振っただけなのに、見えない相手が壁に叩きつけられた音がした。

 音だけで、痛い。

『脅威排除。……源一郎、ログ確保を優先』

 慌てて、フランケン一家の人間は、逃げ出した。そのついでに、アーマッドのロボに銃声を浴びせるものもいたが、当然、何もならない。

「了解」

 源一郎が、ぶっきらぼうに返して、壁面パネルを剥いだ。

 いや、剥いだというより、引きちぎった。

 その動作が整備士じゃない。荒事の職人だ。

「シラトリ、照明系統の制御権、こっちに回せ」

『承認。制御権限を一時移譲』

 航行AIの声が、遠隔で艦内回線に割り込む。

 こんなところでも淡々と仕事するの、腹立つくらい頼もしい。

 次の瞬間、クラブの照明が一斉に明滅した。

 点灯、消灯、点灯。

 周期が乱れる。

 ネオンが狂ったみたいに瞬いた。

 ――迷彩が、乱れた。

 光学迷彩は、安定した光で強い。

 光が変動すると輪郭が揺れる。

 揺れた輪郭が、一瞬だけ“見えた”。もう一体いた!

「見えた!」

 あたしが叫ぶと同時に、源一郎の弾が走った。

 撃ち方が冷たい。

 殺すためじゃなく、止めるための撃ち方。

 関節を狙っていた。

 動力を落とした。

「アンドロイドめ!」

 そして、倒れた相手に端子を差し込む。

「ログ抜く」

 ぶっきらぼうに言って、源一郎が、データを吸い上げる。

 現場でログ抜き……って、この人、ほんとに何者?

「整備士だよね? 整備士って何?」

「うるせ。口動かすな。足動かせ」

「はい!」

 あたしは立ち上がり、二階のガラス部屋へ走ろうとした。

 走るな、って言われたのに、走る。

 走らないと間に合わない。

「美優!」

 ガラス部屋の中で、美優が横たわっている。

 目は閉じたままだ。

 でも、まつ毛が微かに震えたのが分かった。

 その震えが、“そこにいる”証拠で、胸が痛い。

 そして――バーロック。

 彼はガラスの向こうで、まだ笑っていた。

 笑っているのに、指はリセット端末の上。

 あたしのレンチでひび割れたガラス越しに、その指が見える。

「君は、本当に、邪魔だね」

 バーロックの声がスピーカー越しに響いた。

 ガラス部屋の内部通信だ。

 つまり、こいつは自分の声さえ管理しているのだ。

「邪魔で結構!」

 あたしが叫ぶと、バーロックは穏やかに続けた。

「君が、美優を“人”と呼ぶほど、私は彼女を欲しくなる。……人を演じられる器は、最高の偽装だからね」

「偽装とか言うな!」

「偽装だよ。魂は情報。情報は移せる。移せるなら、身体も替えられる」

 穏やかに、語る。

 丁寧に語る。

 その丁寧さが残忍だ。

 そこで、アーマッドのロボが二階へ跳んだ。

 床を蹴るだけで、金属の梁が軋む。

 ロボは重いのに、動きが滑らかだ。

『ナルディア、下がれ。リセット端末を破壊する』

「破壊って……美優まで危なくない!?」

『破壊対象は端末のみ。精密操作で行う』

 精密操作。

 この状況で精密操作と言えるのが、アーマッドの怖さだ。

 怖いけど、信じる。

 源一郎が下から叫ぶ。

「ナルディア! ガラス割って入るな! 罠だ!」

「でも!」

「でもじゃねえ! 入ったら首が飛ぶ!」

「首は飛ばないでしょ?」

「飛ぶ」

「断言しないで!」

 バーロックが笑った。

「彼の言う通りだよ。君が入れば、私は喜ぶ。……君の怒りを、もっと近くで見たい」

 吐き気がする。

 好きとか喜ぶとか、そういう言葉で人の恐怖を弄ぶやつは、ほんとに嫌い。

 その瞬間、床の影が揺れた。

 輪郭がないのに“立っている”影。

 光学迷彩の機械人形が、あたしの背後に回っていた。

「……っ!」

 気づいたときには遅い。

 手首に冷たいもの。

 スタンガンの先端。

 ――また。

 電撃が来る前に、あたしの身体の奥が熱を作った。

 ナノマシンが、先に反応したのが分かった。

 でも、完全には防げない。

 来る。

 来たら、また倒れる。

 倒れたら、美優が終わる。

「させるか!!」

 あたしは、肘を後ろへ叩きつけた。

 硬い感触だ。

 機械の胸部に当たった。

 迷彩が瞬き、輪郭が浮いた瞬間――源一郎の照明変調が追い打ちをかける。

 迷彩が乱れる。

 乱れた輪郭に、あたしはレンチを叩き込んだ。

 金属音。

 関節が悲鳴を上げる。

 機械人形がよろける。

 そのよろけに、アーマッドのロボの一撃が落ちた。

 ――壁が凹んだ。

『脅威排除』

 アーマッドの声。

 淡々。

 でも、今はその淡々が救い。

 次。

 リセット。

 バーロックの指が、端末に触れる。

 触れた瞬間、端末が赤く点滅した。

『RESET SEQUENCE: START』

「やめろ!!」

 あたしが叫んだ瞬間、源一郎がぶっきらぼうに言った。

「叫ぶな! 線を切る!」

 源一郎が下から、壁面配線を引き抜いた。

 ファナークの電源系統を“短絡”させる。

 明滅が、完全な暗転に変わる。

 真っ暗。

 暗いのに、赤い文字だけが浮く。

 『RESET』

 赤が、目に焼き付く。

『補助電源へ移行』

 バーロックの声が暗闇の中で響く。

 冷たい。

 嬉しそう。

「無駄だ。私はこの部屋だけは、落ちないようにしてある。……君たちは、私の舞台を暗くできない」

 その瞬間、アーマッドのロボが動いた。

 暗闇の中で、正確にバーロックの端末へ腕を伸ばす。

 精密操作。

 嘘みたいな精密さだ。

 金属の指先が端末を掴んだ。

 掴んだ瞬間――バーロックが笑った。

「触るな。呪いが移る」

「呪いとか言うな!」

 あたしの叫びと同時に、端末が発光した。

 光が走る。

 まるで端末が生き物みたいに。

『RESET: 45%』

 数字が進んでる。

 進んでるのに、止められない。

 アーマッドのロボの指が、端末を“壊せない”でいる。

 精密すぎて躊躇している?

 違う。

 壊した瞬間、美優に何かが返る可能性がある。

 連動している。

「アーマッドさん! それ、美優と繋がってる!」

『推定:高』

「じゃあ、どうするの!?」

 源一郎が、ぶっきらぼうに叫んだ。

「美優側の端子を外す! 座席を切る!」

「座席って言うな!」

「今は、言葉に突っ込むな!」

 源一郎の指示に従って、あたしは美優のストレッチャーへ駆け寄った。

 駆け寄ると、胸元に小さなポートが見える。

 隠されていた端子。

 手が震える。

 震えたら負ける。

 でも震える。

 怖いから。

 怖いのに、やるしかない。

「美優……ごめん……!」

 端子を掴む。

 冷たい。

 引き抜く。

 その瞬間、美優の身体がびくんと跳ねた。

 心臓がないはずなのに、心臓が跳ねたみたいに見えた。

『RESET: 46% → 46% …停止』

 数字が止まった。

 空気が一瞬、止まる。

 バーロックの笑い声が、初めて途切れた。

「……なるほど。君たちは賢い」

「賢いって褒めるな! 気持ち悪い!」

 アーマッドのロボが、今度は端末を握り潰した。

 今度は躊躇しない。

 バキ、と鈍い音。

 端末が死んだ。

 舞台が壊れる。

 バーロックは、まだ笑っていた。

 笑いを戻した。

 笑いで自分を保つやつは、折れそうな証拠だ。

「だが、遅い。私は“器”を壊されても――」

 その言葉の途中で、バーロックの身体の輪郭が揺らいだ。

 揺らいだというより、“中身”が抜けていく。

 器。

 器は、ただの殻だった。

 バーロックの身体だったものが、崩れ落ちる。生体型のアンドロイドだろう。

『精神体反応』

 シラトリの声が、艦内回線越しに淡々と届く。

『高次情報体、離脱を検知。方向:外壁』

 バーロックの声が、空気の中から響く。

「私は逃げる。……君たちは守る。守る者は遅い。追う者は速い」

「逃げるな!!」

 あたしが叫ぶと、源一郎がぶっきらぼうに吐き捨てた。

「逃げるに決まってんだろ。顔が割れてるやつは、逃げ方だけは上手い」

「そこで冷静に皮肉言うな!」

 アーマッドが静かに言った。

『追わない。今は美優を確保する。……ナルディア、状態確認』

「美優は……」

 あたしは美優を抱えた。

 軽い。

 軽いのに、重い。

 人を抱える重さじゃない――意識がない、“失いかけた”重さだ。

「呼吸は……いや、呼吸はない。でも反応がある。目が……動いた」

 美優の瞼が、わずかに震えた。

 震えるだけで、涙が出そうになる。

 でも泣く暇はない。

 まだ敵の中だ。

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

「撤収。ここ、臭え」

「臭えって! でも同意!」

 アーマッドが言った。

『撤収。ログは確保。フランケン一家は無力化するが、根は残る。……バーロックは逃げた。次が来る』

 次。

 その言葉が嫌なのに、現実だ。

 あたしは美優の手を握った。

 冷たい。

 でも、握り返してきた。

「……美優」

 美優の声は、かすれた。

「……ナル……ディア……?」

「そう。ここ。ここにいる。置いていかない」

 その瞬間だけ、宇宙の意地悪が少しだけ黙った気がした。

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