表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

第三十四章 ファナーク到着、ホテル待機という罠

(視点:ナルディア)

 ――安全って言葉は、だいたい裏切る。しかも疲れてるときに限って。

 また超高速モードで飛ばして、ステルスのまま、ロンド星系まで到着した。

 宇宙ステーションのファナークが見えたとき、あたしはまず「綺麗だ」と思ってしまった。

 思ってしまった自分に腹が立った。

 研究ステーションは、夜空に浮かぶ白い骨格みたいで、余計な装飾がなかった。

 ランキスの軌道エレベーターのゴテゴテとしたステーションと違って、無駄を削った清潔感があった。

 清潔は、外から見ると安心に見える。

 でも中に入ると、安心はだいたい“監視”の別名になることは、知っている。

『ファナーク:入港許可。航路誘導を受領。推進抑制。ステルスモード、解除』

 航行AI――シラトリの淡々とした声が告げた。

 淡々が、今日はありがたい。

 感情がある声だと、こっちの感情が揺れる。

「ステルス解除、嫌だなあ……」

 あたしが、ぼやくと、源一郎が、ぶっきらぼうに返した。

「解除しねえと、入れねえ。それに、ずっと吹かしてきたから、SERとキャパシターの負荷が大きい」

「そりゃそうだけど、追撃戦の後に解除するの、裸で歩く感じ」

「裸で歩くな。装甲で歩け」

「言い方!」

 船体は、右舷側に焼け跡が残っていた。

 外装は、補助隔壁で閉鎖済みだ。

 致命傷ではない。

 でも、こういう“致命じゃない傷”が積み重なると、最後に死ぬ。

 宇宙は、そういう足し算が好きだ。

 アーマッドが、淡々と指示を出す。

「入港後、ムゥ・アルシウムは研究所へ。こちらは状況報告。源一郎は、艦の応急点検。ナルディアは――」

「レーダーと通信ログまとめ?」

「そうだ。追撃のパターン、火球と光刃の挙動、媒介反応の座標変化を全部残す」

「了解。……吐きそうだけどやる」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言った。

「吐くな。吐いたら掃除回数が増える」

「そこに戻るな!」

 美優は、座席で静かに呼吸していた。

 金属の身体なのに、疲れているのが分かった。

 めくらましで、センサーを騙した反動があったのだろう。

「とりあえずは、二人で休め。まとめは、後でいい」

 アーマッドの言葉に、頷く。

 おそらく、美優自身の葛藤――“自分が武器として役に立ってしまった”という嫌な実感も、残っているのだと感じた。

「……美優、大丈夫?」

 あたしが聞くと、美優は、一度だけ頷いた。

「……大丈夫、たぶんね。……でも、怖いのは、残っている」

「残ってていいよ。怖いのが、正常」

 そう言った瞬間、ステーション側のドッキングライトが、やけに眩しく感じた。

 眩しいのに冷たかった。無菌室みたいな光だった。

 

***


 ドックに入ると、人の動きが早かった。

 早すぎる。

 歓迎というより“処理”っぽい。

 シラトリを、あたしたちを、貨物と同じラインに載せて流していく動きだ。

 GDCの腕章があった。

 ファナークにも、当然、いるのだろう。

 だけど、当然、腹が立つ。

「……追っかけてきた?」

 あたしが小声で言うと、源一郎がぶっきらぼうに返した。

「追っかけじゃねえ。元からいる。ここは、研究ステーションだ」

「それも嫌!」

 アーマッドが、GDC職員と短く言葉を交わした。

 ムゥ・アルシウムの受領。

 遮蔽室への搬入。

 そして――美優への視線があった。

 視線は、言葉より痛い。

 白い手袋の職員が、形式的に言った。

「……技術協力者の方にも、後ほど簡易確認をお願いします」

 簡易確認。

 便利な言葉――だいたい、嫌なことをオブラートで包んでいるタイプのやつだ。

「私の同席が条件だ。記録も残す」

 アーマッドが、淡々と応える。

「承知しました」

 承知しました、の発音が綺麗すぎて信用できない。

 綺麗な言葉は、だいたい刃を隠している。

 手続きは流れるように終わった。

 終わり方が、早すぎた。

 疲れている身体に、早さは麻酔みたいに効く。

 麻酔が効いた瞬間が、一番危ない。


***


 その後、結局、あたしたちは「ホテル待機」という名目で区画を移された。

 待機。

 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が皮膚の下で跳ねた。

「……待機って言葉、嫌い」

 あたしが言うと、美優は枕を抱えたまま小さく頷いた。

「……置いていかれるみたいで、嫌」

「置いていかない。絶対」

 言い切った。

 言い切ったのに、言い切った言葉が喉の奥で引っかかる。

 宇宙は、言い切った言葉を折るのが好きだ。

 アーマッドは、状況報告へ。

 源一郎は、シラトリの応急点検へ。

 残ったのは、あたしと美優だ。

 部屋は、綺麗すぎた。

 床が光り、空気が軽い。

 そして――見えない“誰か”の気配がした。

 綺麗な部屋で、異物が混じると分かりやすいはずなのに――分かりやすいはずの異物が、分からない。

 照明がふっと“色を失った”。

 暗くなるんじゃない。色だけが抜けたように思った。

 世界が一瞬、白黒になる。

「……え?」

 耳が変だ。

 雑音が小さくなる。

 心臓の音だけが近い。

 そして空気が“濃く”なった。

 湿度じゃない。圧だ。

 ――来る。

 あたしは反射で立ち上がり、端末を掴む。

 通信。

 ……圏外じゃない。

 なのに、繋がらない。

 妨害。

 また妨害。

「くそ……!」

 美優が息を呑んだ。

「……いる」

「どこ」

 問い返した瞬間、背中に寒気がした。

 見えない視線。

 見えない輪郭。

 部屋には二人しかいないはずなのに、“立っている”圧があった。

 床がきしんだ……気がした。

 本当は、音が鳴っていないのに、脳が「足音」と判断する。

 もし光学迷彩だったら、光は隠される。

 でも、重さは隠せない。

 空気の揺れも、残る。

「……どこ?」

 言い終わる前に、空気が裂けた。

 輪郭が現れた。

 細い人型だ。

 関節の動きが滑らかすぎる。

 姿勢が不自然に正確だ。

 人間の“迷い”がない。

 アンドロイドだ。

「待っ――!」

 あたしが叫ぶ間もない。

 腕が伸びる。

 速い。避ける余地がない。

 とっさに、テーブルの花瓶で殴りかかる。

 ヒットした!

 すると、手首の先で青白い火花が散った。

「スタン……っ!」

 電撃が皮膚を貫いた瞬間、感覚が“まとめて黙らされる”。

 痛いじゃない。熱いでもない。

 神経が一斉に落とされる感覚。

 身体が、命令を受け取らなくなる。

 声が出ない。息が止まる。視界が揺れる。

 倒れる瞬間、あたしは美優を見た。

 美優も固まっている。

 いや、固まっているというより、動けない。

 機械人形が背後に回り、首筋に何かを当てた。

 美優の瞳が大きく開く。

「……ナル……」

 呼びかけが途中で切れる。

 美優の身体から力が抜ける。

 倒れそうになったところを、機械人形が支えた。

 あたしの意識が沈む直前、見えたのは――

 美優を抱え上げ、光学迷彩が再起動して輪郭が薄れていく光景。

 そして最後に、耳の奥でシラトリの淡々とした警告が遅れて届いた。

『異常電磁パルス検知。局所。発信源――』

 途切れる。

 妨害。

 遅すぎる。

 ――くそ。

 追撃戦を抜けたのに、ここで奪われるなんて。

 待機はフラグだって、知ってたのに。

 暗転する視界の中で、あたしは誓った。

 次に目が覚めたら、絶対に取り返す。

 もう二度と、置いていかせない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ