表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/39

第三十一章 ステータス画面と、魔法の定義

 ――数字が出ると人は安心する。だけど数字は、首輪にもなる

 ランキスを見おろす軌道エレベーターのドックに帰ってきた。

 母船(アル・サファー)がドックに滑り込むと、待っていたのは整備員と――見たことのある銀河系に宇宙船の腕章を付けた一団だった。

 GDCだ。情報が早い。早すぎる。

「うわ、来てる……」

 あたしが呟くと、トーマスが、気まずそうに笑った。

「前も来てたよ。“変なもの”が絡むと、すぐ来るんだ。近くの星系に、支社があるからね」

「変なものって……否定できないのが腹立つ」

 源一郎が、ぶっきらぼうに吐き捨てる。

「腹立ててる暇があるなら荷下ろし手伝え。あれを、落としたら終わりだ」

「あれって、半壊偵察機のほうね。美優、本人じゃなくて」

「分かってんなら、余計な確認すんな」

 相変わらず、口が悪い。

 でも手順は正しい。落としたら終わるのは本当だ。

 ドック床に固定され、毒性物質が漏れないようにパッキングされた半壊機体――美優が乗っていたガラXFIザBの偵察機は、墓場の冷たさをそのまま連れてきたみたいなジャンクだった。

 焦げ、裂け、擦り傷があり、内部配線は露出したままで、表面の氷の結晶が溶けてパックの下に溜まっている。

 それをGDC職員が“綺麗な手袋”で触ろうとするのが、妙に気に障る。

「触り方が違うんだよなあ……」

 思わず漏れた独り言に、源一郎が即答する。

「違う。あいつらは“壊してもいいもの”として触る。俺らは“壊したら困るもの”として触る」

「言い方が最悪。でも正しいのが、もっと最悪」

 アーマッドが、一歩前に出た。

 いつも通り淡々としているのに、今日は雰囲気が硬い。交渉の顔だった。

 GDC側の責任者が形式的に頭を下げる。

「『チーム・ラシード』、キャプテン・ラシード。回収物の引き渡しを確認します」

「確認してくれ」

 アーマッドは、短く言い、機体を示した。

「ガラXFIザBの偵察機。半壊。内部ログは一部抜いたが、詳細解析はそちらが早い」

 計測光が機体表面に格子を描き、職員が数字を拾っていく。

 その手際の良さが、救いでもあり、嫌でもある。

 救いなのは、これで敵の手口が少し見えること。

 嫌なのは、同じ手で美優にも触れようとする気配があること。

 責任者が“ついで”みたいに言った。

「……なお、搭乗者の件ですが」

 あたしの肩が勝手に強張る。

 美優。

 その名前が、紙の上の処理に変換される瞬間が一番怖い。

「彼女は、チームの保護下にある」

 アーマッドの声は変わらない。変わらないから強い。

「理解しています。ですが、社内の倫理委員会と安全保障部が動きます。情報の整理が必要でして」

 整理……便利な言葉だ。

 整理と言えば、だいたい何でもできる。

 源一郎が、ぶっきらぼうに割って入った。

「整理って言って解体する気なら、先に俺を解体しろ」

「源一郎!」

 あたしが止める。言い方が物騒すぎる。

 責任者は、眉も動かさない。

「誤解です。解体ではありません。――現段階では」

「現段階って言い方が一番、信用できねえ」

 源一郎が吐き捨てた。

 アーマッドが視線で源一郎を制し、責任者に言った。

「場所を変えよう」

 ドックの死角に近い通路へ。

 “見られても聞こえない”場所だ。宇宙はそういう場所だけは、やたら用意されている。

 あたしは、着いていこうとして、源一郎に襟を掴まれて止められた。

「行くな。顔に出る」

「ひどい!」

「事実だ」

 最悪だ。反論しづらいのが最悪……。

 低い声で条件が交わされている。

 美優は“個体”ではなく“契約対象(技術協力者)”として登録される。

 身柄は渡さない。接触は同席のみ。質問は記録する。

 精神干渉系の検査は、本人同意なしでは禁止する。

 そして、解析ログから“起動鍵”関連が出たら最初に共有する代わりに、緊急時は共同対処――という名の、首輪の影。

 紙の上で、縄が結ばれていく。

 悔しいのに、必要だ。

 拳だけじゃ守れない。

 密約が終わり、偵察機は、GDCの貨物機のクレーンで吊られて運ばれていった。

 浮かぶ死体……その死体が“研究”になるのだ。

 美優は、少し離れた場所から、黙ってそれを見ていた。

 表情は読めなかった。

 でも指先がわずかに震えているのが分かった。

 あたしは、隣に立った。

「見なくていいよ。嫌なら」

 美優は、小さく首を振る。

「……見たい。自分が、どこから来たのかを」

「偉い。あたしは目を逸らすタイプだ!」

「ナルディアは、逸らさないで、怒るよね」

「うるさい!」

 美優が、ほんの少し笑った。

 笑える――それが救いだ。

 でも、笑いの奥で、新しい現実が始まっていた。

 ――監視。

 ドックを出るとき、GDCの腕章の職員が二人、自然に後ろへついた。

 露骨に張り付かない。

 でも消えない。

 “いつでも見てる”という距離感。

「……ねえ、あれ、尾行?」

 あたしが小声で言うと、トーマスが同じくらい小声で答えた。

「尾行って言うと怒られる。正式には“安全確認”」

「言い換え宇宙の礼儀、ここでも健在」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言った。

「気にすんな。気にすると負ける」

「気にしないと刺されるでしょ!」

「刺されたら、その時は刺したやつを刺す」

「言い方!」

 アーマッドが淡々と歩きながら言う。

「彼らは敵ではない。だが味方でもない」

「一番嫌な分類!」

「しばらくしたら、いなくなるだろう。それまでは、外部からの客として扱う」

 美優が、ぽつりと呟いた。

「……わたし、契約対象……なんだよね」

 その声が、妙に静かで、妙に重い。

 彼女は“紙の上で人間じゃなくなった”感覚を理解している。

 理解した上で、飲み込もうとしている。

 それがつらかった。

 あたしは言った。

「契約対象でも、あんたはあんた。契約は、首輪じゃなくて、いまは盾でしょ」

 美優は、少しだけ目を伏せた。

「……盾だって、持ち方を間違えると、刺さるよね?」

「……その通り。だから一緒に持つ!」

 美優が、小さく頷いた。

 そのとき、彼女の視線が、空中の何かを追った。

「……見える」

「何が?」

 美優は、自分の胸元を指す。

「……文字。透明な……」

 あたしは、眉をひそめた。

 空中に文字?

 ふざけてる場合じゃないのに、宇宙は平気でふざけた現実を投げてくる。

「……MP」

 美優が言った。

「は? それって、ゲームの魔法ポイント?」

 思わず声が出た。

 アーマッドが、落ち着いた声で言う。

「シャドー・マターのコンデンサーの容量じゃないか? 自己診断UIが投影されているのだろう」

「自己診断が、MPって表記になるの、誰の趣味?」

 源一郎が、ぶっきらぼうに返す。

「趣味じゃねえ。翻訳だ。人間に分かる形に落としてるんだろう。……落としたやつのセンスが悪いだけだ」

「センス悪いとか、言ってる場合じゃない!」

 美優は、恐る恐る手を前に出した。

 指先が、かすかに震える。

 震えられるようになったのが、少し嬉しい。

「……ライト」

 次の瞬間、光が生まれた。

 熱がないのに、明るい。

 目の奥がきゅっと痛む。

「……ほんとに、魔法!」

 あたしが呟くと、美優は、苦笑した。

「魔法って言うと軽いわね。でも……他に言い方がない、ね」

「これは、シャドーマターを通常物質のプラズマに変換しているのだろう。実際の見たのは、久しぶりだ」

 アーマッドが頷いた。その言い方が現実的で、だからこそ怖かった。

「アクア」

 美優が呟くと、空気中の水分が凝結し、細い霧になった。

 粒が細かい。制御されてる。

 適当に出してない。

 美優は“強い”。

 アーマッドが淡々と説明する。

「シャドーマターにより水の電子配置を変更して、凝結しやすくしているらしい。密度操作で、局所的に物理定数を揺らしている」

「定数を揺らすって、相変わらず言い方が宇宙的!」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

「怖いなら扱い間違えるな」

「それはそうだけどさ!」

 美優が、あたしを見た。

「……ナルディアも、見える?」

「え?」

「ステータス……」

 あたしは、目を凝らした。

 最初は、何もなかった。

 でも視界の端に“引っかかり”がある。透明なフィルムみたいな感じだ。

 そこに、薄い文字が浮かんだ。

 ――ナルディア

 ――MP:低〜中

 ――適性:冷却/遮蔽(?)

「……うそ!」

 思わず、言う。

「見えた……。見えたんだけど……人生がゲーム化してるの怖い!」

 美優が小さく笑った。

「たぶん、私の能力。これで、パーティー、組めるね」

「組めるね、じゃない! 世界観が壊れる!」

 でも、その笑いが途中で止まった。

 美優の目が少しだけ暗くなる。

「……これ、武器だよね?」

 その言葉で、空気が締まる。

 美優は、理解しているようだった。だから、怖がっている。

 怖がれるから強い。

 あたしは美優の手を見た。金属の手。

 でも今は、拳を握っている。

 自分の意思で。

「美優」

「なに?」

「怖いなら、怖いって言っていいよ。GDCが見てても、言っていい」

 美優は一瞬だけ目を伏せた。

「……GDCが見てるのが、いちばん怖い」

「分かる。あたしもね。あいつらの“安全確認”って言葉が嫌い」

 源一郎がぶっきらぼうに言う。

「見てるなら、見せてやれ。お前が壊れねえってことを」

「それ、強がりじゃない?」

「強がりでいい。強がりは生存術だ」

 美優が、ふっと息を吐いた。

 そして、小さく頷いた。

「……うん。壊れない」

 その返事が、前よりずっと強かった。

 アーマッドが歩きながら、淡々と次の任務を告げた。

「GDCから、緊急依頼が入った。ムゥ・アルシウムの輸送任務だ」

「え、早っ」

「早い。だから危険だ」

「その理屈、最悪に納得できる……」

 美優が小さく呟く。

「……ムゥ・アルシウム……」

「あたしの星のプシー・スレートとは違う種類のエキゾチック物質だね?」

「そうだ。シャドー・マターと関係があると言われている特殊鉱物で、半減期が短い。地球でも、昔、ケム・トレイルと言われて目撃されたのが、それだと言われている」

 影が濃い物質。

 影が濃い戦争。

 影が濃い契約。

 あたしは舌打ちして、でも前を向いた。

「よし。じゃあ研修生、今日も働きますか。……ほんと研修って何?」

 美優が、少しだけ笑った。

「ナルディア、怒ってる」

「怒ってるよ。だから進む」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

「進むなら、足元見ろ。宇宙は落とし穴だらけだ」

「それ地面の話じゃなくて人生の話でしょ!」

 アーマッドが、少しだけ口元を緩めた。

 たぶん、ほんの少しだけ。

 そして、GDCの腕章が、まだ後ろにいた。

 盾にもなるし、首輪にもなる影が。

 それでも――あたしは美優の隣に立った。

 首輪があるなら、切り方を覚えればいい。

 覚えるまで、あたしがツッコミで踏ん張る。

「ランガータ星系の惑星テューロの鉱山だ。シラトリの高速モードで行く。少し揺れるぞ」

「うぇ~」

 アル・サファーの高速モードの揺れを思いだして、少しげんなりした。

 しばらくして慣れたけど、シラトリは小さいから、もっと“揺れる”だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ