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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

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第三十章 源一郎、血縁を疑う

(視点:ナルディア)

 ――検索は冷たい。結果はもっと冷たい

 ランキスへ戻るまでの航行中、源一郎は、ほとんど艦橋にいなかった。

 整備室に籠もり、端末と美優のログを叩き続けた。

 あたしは時々、飲み物を持って覗きに行った。

 覗きに行くたび、怒られた。

「入るな。埃が入る!」

「埃入れないように静かに入ってるでしょ!」

「気配がうるせえ」

「気配って何?」

 でも、源一郎は追い出しながらも、端末の画面を隠さなかった。

 隠さないのは、たぶん“仲間”扱いの証拠だ。

 雑だけど。

 画面には、膨大な照合ログ――名前、年号、地域、戸籍相当、移民船名簿、事故記録、行方不明者リストだ。

 それらを“白石 美優”で探しても、当然出なかった。

 旧世紀の二十世紀の日本なんて、何百年前?って感じで、化石みたいな旧い時代だ。

 たぶん、ライフログがデータ化され始めた時代だと思うけど、歴史学者でもなければ、そんなデータ探せない。

 いや、データが残ってるほうが奇跡だろう。

「無理じゃない……?」

 あたしが言うと、源一郎は、短く言った。

「無理って決めたら、終わりだ」

「そういう根性論、あんまり好きじゃないんだけど」

「根性じゃねえ。手数だ」

 源一郎は、手数で殴るタイプだ。

 情報を、ひたすら叩く。

 叩いて、叩いて、叩いて、割れるまでやる。

「美優、覚えてること言え。細かいほどいい」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

 美優は、何故か、ガラXFIザA/Bのヒ素やその他の毒性物質を使っていないアンドロイドだった。

 チェック後、普通に船内を移動させられると分かったので、今は整備室の椅子に座っていた。

 彼女は、ぎこちなく手を膝に置いた。

 姿勢がよすぎた――機械の姿勢だ。

 でも、目だけは人間の不安を現しているように思った。

「……学校の名前……」

 美優が目を閉じる。

「……白い校舎……体育館……」

「地名」

「……分からない……」

「制服の色」

「……紺……たぶん……」

「スカートの丈とか知らねえか?」

 源一郎の言い方が雑すぎて、あたしは思わずツッコんだ。

「そこ、女の子相手に聞く項目じゃないでしょ!」

「必要なら聞く。必要じゃねえなら切る。今は切る」

 美優が小さく笑った。

 笑ったあと、眉をひそめる。

「……部活……図書委員……だったかも……」

「よし。図書委員。校内の配置、覚えてるか」

「……図書室……窓際……」

 断片が出る。

 でも、断片は断片だ。

 源一郎は、断片を“検索語”に変換する。

 それができるのが、この人の怖さだ。

 源一郎は、日本語の古い字体を扱うモードに切り替え、地球文化アーカイブの“復元検索”を走らせた。

 ついでに、事故記録の断片検索も行っていた。

 “猫”“トラック”“高校生”“行方不明”。

 雑すぎて、ヒットが多すぎる。

 でも、その中に“似た形”があるかもしれない。

「……出ないな」

 源一郎が、吐き捨てた。

 出ない。

 それはつまり、美優の過去は“記録されていない”か、“記録が消された”か、“別物”か。

 どれも、嫌だ。

 次に源一郎がやったのは、思い切り別方向の検索だった。

 美優のボディ。

 材料。

 製造思想。

 規格。

 グラブール系の技術に、人類の意匠が混じっている。

 それは誰かが“翻訳”した証拠だ。

「……これ、地球の古い規格に似てる」

 源一郎が、ぼそっと言った。

「え?」

 あたしが身を乗り出す。

「似てるって、何が?」

「端子の配置。冗長性。……古い医療機器の安全思想に近いな」

 医療機器……安全思想。

 その言葉が引っかかった。

 源一郎は、さらに別のアーカイブを開く。

 旧地球の医療規格、人体シミュレーション、義肢、そして“魂の再現”に関する禁忌研究の系譜を調べる。

 禁忌研究は、名前を変えて生き残るものだ。

 それは、宇宙でも同じだ。

 美優が、不安そうに言った。

「……わたし……禁忌……?」

「お前は、成果物だ。罪は作ったやつにある」

 源一郎の言い方が珍しく真っ直ぐで、あたしは少し驚いた。

 ぶっきらぼうなのに、核心だけは外さない。

 そのとき、端末が小さく音を鳴らした。

 照合のヒット音だった。いや、ヒットというより、“類似パターン”の警告が出ていた。

 源一郎の目が、細くなった。

「……白石」

「え、出たの!?」

「出た。だが、本人じゃねえ。……系譜だ」

 画面には、古い古い“移民船”の記録があった。

 人類が宇宙に散った最初期の系譜。

 そこで、“白石”の名が繰り返し出てくる。

 しかも、工学寄り。

 医療機器寄り。

 安全思想寄り。

 源一郎の指が止まった。

 止まるのが怖い。

 この人が止まるとき、だいたい嫌な真実が出る。

「……源一郎?」

 あたしが呼ぶと、源一郎は画面を睨んだまま言った。

「……血縁、かもしれねえ」

 その言葉が、整備室の空気を変えた。

「……え?」

 美優が声を漏らす。

「血縁って……誰の……?」

 源一郎は一度だけ、美優を見た。

 その視線が、いつもの“工具を見る目”じゃなかった。

 人を見る目だ。

 珍しい。

「俺の名字は、お前と同じ“白石”だ。……先祖かもしれねえ」

「先祖……?」

 美優の顔が歪む。どうやら、表情を作ることができるようになってきたようだ。

 でも、その表情は、嬉しいとか悲しいとか、そういう単純なものではなかった。

 怖れが一番強くでているように見えた。

「俺の先祖に……量子コンピュータの研究をして、おかしくなったヤツがいる。高次空間に人間の精神を飛ばせるとか、死んだヤツもそこにいるとか……」

「なに、宗教?」

 あたしの言葉に、源一郎は、頷いた。

「ああ。守護霊を超強化して、現世利益を追求するとか何とかでな。そいつの息子が、『教団』から抜けるために、移民船に乗り込んだって話だ。まさか、それに憑いて……」

「……じゃあ……わたし……」

 美優の声が震えた。

「……あなたの……家族……?」

「分からねえ」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言った。

 でも、その“分からねえ”には責任がある。

 軽く言ってない。

 そこが伝わる。

「分からねえが、無関係とも言えねえ。……だから調べる」

 源一郎が、端末を叩いた。

 さらに深い層へ。

 個人情報保護の層、消された記録の層だ。

 そこに手を突っ込むのは危険だ。

 でも源一郎は、躊躇しない。

 ぶっきらぼうな人間は、迷うときほど黙る。

 黙らないから、迷ってない。

 あたしは、息を吐いた。

「……美優。怖い?」

 美優は、ゆっくり頷いた。

「……怖い……。でも……知りたい……」

 その“知りたい”が、人間だった。

 機械なら、検索結果を待つだけだ。

 でも人間は、結果が怖くても、知りたい。

 源一郎が、ぼそっと言う。

「……泣けなくても、人間だな」

 美優が、驚いた顔をした。

「……今の……慰め……?」

「違う。観察だ」

「観察って言えば何でも許されると思ってる!」

 あたしがツッコむと、源一郎は肩をすくめた。

「許されるとは思ってねえ。だが、言う」

 ぶっきらぼう。

 でも、妙に温かい。

 嫌だ、この人。

 その夜、美優は艦橋の窓の前に立った。

 宇宙を見ている。

 黒い海。

 あたしは隣に立った。

「……ナルディア」

 美優が言った。

「もし、わたしが“誰かのコピー”だったら……どうする?」

 その問いは、あたしの胸に刺さる。

 答えなんてない。

 でも、答えないのはもっと嫌だ。

「コピーでも、本物でも、あんたがいま“ここにいる”のは変わらない」

 美優は、小さく笑った。

 笑い方が、ちょっとだけ自然になってきた。

「……ナルディアって、そういうこと言うんだね」

「言うよ。あたし、姫だもん」

「姫……?」

「黒雪の姫。……自称、かな」

「自称なのに、堂々としてるわね?」

「うるさい! だって、あたし、植民星の執政官(プレジデント)の娘だもん。姫なのは、確かよ」

 美優が、少しだけ、肩を揺らした。

 泣けない代わりに、笑えるようになってきた。

 それは、たぶん、生きるための変化だ。

お分かりかもしれませんが、この作品の設定は、『深淵の宴』のパラレルワールドになります。源一郎の恒星船に乗った祖先は、実は、『深淵の宴』の講義の講師のオジサンです。

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