第三章 ウィッチーズ・ファミリーと、王子様?登場
影が、ゆっくり姿を現す。
それは、戦車よりヤバい、地上用重戦術メカだった。
金属の手足を持ち、胴体の中心には旧時代の戦車砲を強化したような巨大砲がついている。
表面の装甲プレートには“魔女の帽子”を模したペイント。
……どう見ても『ウィッチーズ・ファミリー』のマークだ。
「……どうしてギャングが重戦メカ持ってんのよ!」
わかってる、ファミリーだからだ。なんでも持ってるんだろう。
ファミリーと名の付く連中は、無法者のくせに、ハイテク兵器だけは宇宙のどこよりも早く導入する。
それでも、目の前のメカは異常だ。
スーツのバイザーの望遠倍率を変えた。
はっきり見えるメカは、多分、違法改造が何段階も重ねられている。
しかも、ノーマル状態では絶対に説明つかないほど、でっかい。
「これ、絶対に“星一個くらいなら軽く荒らせますよメカ”じゃん……」
しかも、よく見るとあたしの探していたもの――ドワーフたち――が、その後部に括りつけられている。
(ちょっとーーー! それあたしの戦利品ーーー!)
叫びたい衝動を必死で飲み込んだ……この距離で飛び出したら即ミンチだ。
メカの周囲には人影も見える。
黒いスーツに、派手な帽子、ゴテゴテのアクセサリーがぶら下がった、見るからに悪趣味な集団だ。
あれがファミリーの“ブランチリーダー”の部隊だろう。
その中の一人が、紫色のホログラムタブレットを振りながら叫んだ。作業用スーツは、黒だけど、紫ラインの入った帽子を被って、見るからに悪趣味だった。
「ヘイ、ここで捕まえたガキってのがいんだろ? 執政官の娘とか何とか。マジかよ、値段つくぜこれは! へっへっへ! 早く回収しに行こうぜ」
彼ら、わざわざ、オープン回線で話している。
(ちょ、あいつらが、私をここに置き去りにしたのね!)
「奥様も喜ぶだろうよ。あの女、自分の“可愛いお人形”を増やすのが趣味だからなァ」
(いやな趣味……! ほんっとロクな人間じゃないわねあの継母!)
「そうですねえ。でも、あの方、表向きは継母とか言ってるけど実質“ローカル支部の女ボス”だろ」
「支部長どころか、“詠唱部隊”を取りまとめてるって噂だぜ?」
(詠唱部隊? 名前だけ可愛いのやめて!)
あたしは心の中で叫んだ。
『ウィッチーズ・ファミリー』は、構成員にやたらファンタジーっぽい役職名を付けることで有名だ。
“詠唱部隊”……おそらく、電磁パルス兵器専門のハッキング集団だ。
名前だけ聞くと儀式でも始めそうだが、昔と違って、電磁パルスで脳をいじるなんてことも実用化されている。
「そんな連中が……パパにマインド攻撃してたってわけね……!」
怒りが胸の奥からブクブク膨れ上がってきた。
しかも、あたしを殺そうとした継母は、その部隊のトップのひとり――いわば“悪魔の声部隊の歌姫”みたいな存在だ。
よりによって父の再婚相手がそれとか、もう宇宙に向けて笑うしかない。
怒りで頭が熱くなったとき、メカの塔載スピーカーが急に音を鳴らした。
(ターゲット:執政官令嬢 索敵中)
「おい、冗談抜きで探してるじゃん?」
あたしは、慌てて身を伏せる。
メカの頭部にある複眼センサーが、青白くギラリと光って森の中をスキャンしていた。
(生命反応多数あり 分類:小動物99% 人間0%)
「よかった、小動物扱いされてる……いや良くはないんだけど、生き延びたという点では良いか……!」
……安堵しかけた瞬間だった。
――パチン。
乾いた音が空気を裂いた。
直後、メカのセンサーが火花を散らす。
「えっ?」
ファミリーの連中も騒ぎ始めた。
「な、なんだ!?」
「ジャミングだ! どこの回線から!?」
「誰がこの周波数に割り込めるんだよ!」
何が起きたのかわからない。
ただ一つ確実なのは――ファミリーが“予想外の何か”に混乱しているということだ。
***
そのタイミングで、空気が変わった。
黒い雪が“逆向き”に舞い上がった。
風が吹いたわけじゃない。重力が一瞬だけ狂ったみたいに、雪が空へ吸い上げられた。
その“かすかな異変”に続くように、あたしのスーツが警告を出す。
(未確認機体の高速度接近)
「未確認機体!? なにそれ……!」
空を見上げた。
黒い雪を切り裂くようにして、遠方から“白い線”がこちらに向かってきていた。
白い光ではない、白い物体だ。
細身で長く、前方が鋭く尖っている。
あれは――宇宙艇のシルエット――正確には、迎撃仕様の高速艇だ。
そんなもの、この星にはない。
そして――ファミリーのものでもないだろう。
「何だあれ!?」
「自律艦か!? 黒市の傭兵か!?」
「撃て! 撃ち落とせ!!」
しかし、彼らが慌てる間に、高速艇は一直線に降下し、ファミリーのメカのすぐ上で急制動した。
空気が爆ぜ、黒い雪が半径数十メートルで吹き飛んだ。
ざぁっ、と黒雪が舞い、前が見えなくなった。
雪煙が晴れると、白い艇の側面パネルがスライドして開いた。
そして――そこにいたのは一人の男だった。
長身で、ただ立ってるだけなのに場の空気がそっちへ吸い寄せられる。
白いコートには装飾もなく、手に武器も持っていなかった。
なのに、妙な迫力がある。
男は飄々とした声で言った。
「……ずいぶん派手な玩具で暴れてるじゃないか。ウィッチーズの諸君。辺境で重戦メカを暴れさせるとは、やる気満々じゃないか」
ファミリー全員が固まる。
あたしも固まる。
え、なにこの声……渋い。
渋いけど、皮肉と余裕がにじみ出ている。
ハードボイルドを絵に描いたような声だ。
メカに乗っていたブランチリーダーが叫ぶ。
「名乗れ! どこの軍だ!? 俺たちの邪魔をする気か!」
「アーマッド・L・ラッシード。宇宙の冒険者にして、辺境警備ライセンス保持者だ。諸君、重戦メカの無許可運用と、執政官暗殺未遂の容疑で逮捕する」




