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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

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第二十七章 宇宙船墓場、死体の海

 ――漂うものは、だいたい触ったら危険

 墓場に近づくと、レーダーが“ざらつく”。

 画面が、ちょっと砂嵐みたいになった。

 金属片、氷結した燃料、壊れたアンテナ、裂けた外装材、大小の死体みたいな有機物が、潮の流れみたいに漂っていた。

「……ここ、嫌い」

 あたしが言うと、トーマスが苦笑した。

「サルベージ屋は、好きか?」

「サルベージ屋って、ここで生活できるの?」

 源一郎が、吐き捨てる。

「生活じゃねえ。生存だ」

「近づくぞ。固定用ドローンを出す」

 アーマッドが短く言った。

 源一郎は、頷いて、ドローンを放った。

 小型のドローンがデブリの隙間を縫い、目標物にワイヤーを絡めていく。

 墓場は“止まっている”ように見えて、全部が少しずつ動いている。だから、固定が必要だ。

 固定の仕方を間違えると、こちらが引きずられる――引きずられた先にあるのは、岩塊でも船殻でもなく、たぶん死だ。

「ナルディア、窓際に立つな。衝突したら、破片が飛ぶ。今、バリアーは切ってるからな」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

「立ってない! ちゃんと離れてる!」

「離れてねえ。二歩下がれ」

「はいはい!」

 言い方がむかつくのに、指示が正しいから従うしかない。

 あたしが二歩下がると、次の瞬間、窓の外を細い破片が走った。

 刃物みたいな光。

 当たったら終わる。

「……ほらな」

 源一郎が言った。

 むかつく。

 でも、正しい。

 宇宙は、腹が立つ。

 やがて、トーマスが声を上げた。

「小惑星の陰に、反応あり。……小型機かな? でも、半壊している、かも」

 画面に映る機体は、異様な形だった。

 六角柱の一方を引き延ばして、突起をたくさんつけたみたいな感じだ。前に見たバーロックが乗った機体とちょっと似ていたけど、もう少しシンプルな感じだ。

 しかし、人類の戦闘機の“流線形”とは違う設計思想で作られた機体だ。

 そして、焼け焦げていた。

 外装が裂け、内部の配線が露出して、氷の結晶が張り付いていた。

「ガラXFIザBの偵察機だ。超小型だが、シラトリみたいに、単体でFTL航行もできる、はずだ」

 アーマッドが、告げた。

 ガラXFIザBは、グラブールと敵対する異星人の一種族だ。砒素を代謝する砒素系生物で、ガラXFIザAとBの二種類の混合種族だ。

 ガラXFIザAの船はヴェシルドの月で見たが、Bの方は、初めてみた。

「グラブール人に追われて、ここまで逃げてきたんだろうな」

 源一郎の言葉に、皆が頷いた。

「近づく。サルベージする」

 アーマッドの声が落ちた。

 墓場の空気が、さらに冷たくなった。

 ドローンが機体を固定し、アル・サファーがゆっくりと寄った。

 この“ゆっくり”が怖い。

 速いほうが怖いと思いがちだけど、宇宙ではゆっくりのほうが事故が多い。相手の回転や微細な動きが見えて、つられてしまうのだ。それでミスると、最悪だ。

 でも、当然ながら、アーマッドには、そんな心配はいらなかった。慎重ながら、軽やかにアル・サファーを近づけていった。

 すると、機体の様子が、肉眼でも見えてきた。

 コックピット周辺が、かろうじて形を保っている感じだった。ハッチは歪み、隙間にデブリが噛んでいた。

 そして――中に、影が見えた。

「……人?」

 あたしが言うと、源一郎が首を振る。

「違う。……人形、みたいだな。よし、軌道が完全に合った。取り込む」

 アル・サファーの格納庫の扉が開いていく。

 源一郎がAIと一緒にスラスターを調整しつつ、ガラXFIザBの機体を取り込んだ。


***


「固定、完了。動力反応、なし」

 AIが告げる声に、源一郎とアーマッドは、立ち上がると艦橋から出て行った。慌てて、あたしも後を追った。

 あたしと源一郎は、宇宙服に着換えると、工具箱を持って、格納庫の中に入った。

 源一郎の歩き方は、戦場の整備兵のそれだと思った。

 迷いがない。

 迷いがないのが、怖い。

「開けるぞ。下がれ」

「またそういう……!」

「いいから下がれ。指、飛ぶぞ」

 ぶっきらぼうに言って、源一郎はハッチの隙間に工具を差し込んだ。

 既に、格納庫には、空気が満たされつつある。ミシ、と金属が鳴った。

 隙間が少し広がり、冷えた空気が漏れた。

 密閉空間に溜まった“古い冷気”だった。

「分かってるだろうが、ガラXFIザBの呼吸する気体は、人類には猛毒だからな。バイザーを上げるなよ」

 誰かが最後に吐いた息が、まだそこに残っているみたいな冷気だった。

 格納庫の空調が猛烈に唸った。レーザーで完全に空気中の化合物を分解して、元素毎に精錬する空気清浄機が働いているはずだ。

 コックピットの中には、何かが座っていた。

 金属の肌で、人類型の女性の顔をしている。

 目は、閉じられている。

 ただ、眠っているみたいだった。

「……グラブールの機怪人形、か」

 検査機を持ってきた宇宙服のアーマッドが言う。

「機械人形?」

「機“怪”人形……グラブール人の特殊な超能力(サイキック・パワー)を使える、アンドロイドの一種だ」

「グラブール人――って、魔法みたいな力を使う、色々な獣みたいな姿の異星人、だよね?」

 あたしは、違和感を抑えられなかった。

「……でも、顔……完全に人間っぽい」

 源一郎が、短く言う。

「そう、人間だな。……間違いなく、人間を模している。嫌な予感がするぜ」

 源一郎が“嫌な予感”を言葉にするのは珍しい。

 この男はたいてい、嫌な予感を工具で殴って黙らせるタイプだ。

 アーマッドが言う。

「汚染がないか調べて、起動できるか、試す」

 起動。

 この死体みたいな人形を――この墓場で。

「……起動って、簡単に言うけどさ?」

 あたしが言いかけた瞬間、源一郎がぶっきらぼうに遮った。

「簡単じゃねえ。だからやる」

 ――その言い方が、妙に頼もしくて、腹が立った。

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