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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. IV『宇宙の魔法人形』

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第二十六章 仮装巡洋艦との交戦

 ――海賊のふりをする軍艦は、だいたい礼儀正しく殺しにくる。

 主砲の――FLストレンジプラズマ砲――〈先住者〉テクノロジーの塊だと、源一郎が言っていた――非常に危険な物質である“ストレンジット”を安定的に閉じ込めたプラズマの弾を放つのだ。

 発射は、“光”より先に“影”がきた。

 視界が一瞬、暗くなる。

 それは眩しさの逆で、眩しさが来る前に、網膜が勝手に身構えるみたいな現象だった。

 次の瞬間、光が走った。

 宇宙に、音はない。

 でも、艦橋には音がある。

 船体が受ける反動が、金属の骨を伝わって、低い咆哮として鳴った。

 腹の底が揺れた。

 心臓が一拍遅れて追いつく。

「……っ!」

 あたしは息を飲む。

 光線は敵の戦闘機隊を薙いだ。

 点が消える。

 消える。

 消える。

 消え方が、容赦がなかった。

 戦闘機というより、虫の群れに殺虫灯を当てたみたいな、非対称的な掃討だった。

「戦艦並の兵装って、本当だったんだ……」

 源一郎の自慢を聞いたとき、眉唾だと思ったけど――このエネルギーの奔流は、シミュレーションでみた、もっと大きな地球の戦艦の主砲並だと思った。

 トーマスも、呟いた。

「うわぁ……僕、戦闘を生で見たの、初めて……」

「黙ってレーダーを見てろ。見惚れると、死ぬ」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言った。

 ぶっきらぼうのくせに、言葉が的確で腹が立った。

「敵、熱源反応。反撃!」

 慌てて、トーマスが叫んだ。

 粒子ビームだった。

 そのビームは、途中で散弾みたいに拡散した。

 狙いが雑――に見える。

 でも、雑なのは“見せ方”で、実際は逃げ道を潰しているようだ。

「包囲網……?」

 トーマスが叫んだ。

「大丈夫だ」

 アーマッドは、操縦桿を動かして、アル・サファーを岩塊のベルトへ滑り込ませた。

 『予習』してきたところによると、“宇宙船墓場”は戦場跡でデブリも多いし、地球圏のカイパーベルトを密にしたような小惑星が漂う空間だった。

 ここに入れば、敵の大砲は撃ちにくい。撃てば、自分の視界がデブリで乱れるのだ。

 もちろん、戦闘機も、旋回が制限される。

 ――だからここへ誘い込むのだ。

 アル・サファーは、小惑星の影に潜った。この船は、大きいが俊敏だから、“逃げる”より“潜む”方が似合う。

 捕食者の動きだ。

 敵の巡洋艦級が、距離を詰めてくる。

 スクリーンに映る外観は、海賊艦のように見える。

 船体に落書きみたいなマーキングがあり、アンテナが増設され、ツギハギされたような無秩序な外装をしている。

 しかし、編隊の“間”が一定だ。熱源分布が、揃いすぎていた。

 海賊なら、もっと距離を詰めて獲物を取り合う。なのに、こいつらは――互いの位置を守っている。

「……海賊じゃないな」

 あたしが口に出すより先に、源一郎が言った。

「見た目だけ海賊だ。中身は軍艦。嫌な趣味だな」

「どうして分かるの?」

「センサーのログ見ろ。排熱の周期が規則的だ。整備が行き届いてる。海賊がそんな丁寧なことするかよ」

 たしかに、推進器の噴射が整いすぎていた。

 ぶっきらぼうなくせに、説明はする。

 こういうところがムカつく。

 優しさの出し方が雑だ。

「仮装巡洋艦か」

 アーマッドは、短く言った。

 その言葉を聞いた瞬間、あたしの背中が冷えた。

 仮装巡洋艦――正式軍が“海賊のふり”をして、責任を曖昧にするための艦だ。

 撃っても「海賊だった」と言える。

 撃たれても「事故だった」と言える。

 政治の道具……つまり、汚い殺し方をする艦だ。

「グラブール人の、ってこと?」

 アーマッドが頷く。

「可能性が高い。……ここは人類連邦の影響圏内だ。だが、国境は曖昧だ。曖昧なところに、こういう船が出る」

 敵艦が、こちらの影を読むように動いた。

 小惑星の陰を“計算して”回り込んできた。

 海賊の動きじゃない――軍の教範通りの動きだ。もちろん、GDCは『正規軍』じゃないけど、あたしは、その正規軍「の」テキストも研修した。

 そして――通信がきた。

 源一郎が、眉を寄せた。

「通信帯域、拾えた。暗号の規格が……海賊の寄せ集め暗号じゃねえ。統一規格だ」

「確定だ」

 アーマッドが、吐き捨てる。

 その瞬間、敵が一斉射した。

 散弾ビームが岩塊帯に突き刺さり、砕けた岩が霧になった。

 霧は危険だ。

 デブリは、秒速で飛ぶ刃になる。

 小さな石でも、重力磁場バリアーがなければ、装甲に穴を開ける。

 目に見えない嵐が起きる。

「うわっ……!」

 艦橋のバリアーを示すスクリーンが光り、細かい衝突警告音が連続して鳴った。

 雨じゃない――死の雹だ。

「装甲鳴きも、出てる」

 源一郎が言う。

「え、鳴きってなに!?」

「船が悲鳴上げてるって意味だ。黙れ、今は音が情報になる」

 アーマッドが操舵を切った。

 アル・サファーが、岩塊の陰から陰へ滑った。

 滑るたびに、Gキャンセラーが間に合わず、重力が横から引っ張った。

 内臓が遅れて動いた。

 吐き気が喉まで上がるが、飲み込んだ。こんなに大きな船なのに、すごいと思った。

 敵巡洋艦が二隻、挟撃に入った。

 片方が正面、片方が側面だ。

 逃げ道を作らないつもりだ。

 海賊なら、ここで「降伏しろ」と叫ぶところだろう。身代金が欲しいからだ。

 しかし、仮装巡洋艦は違った。

 ――黙って殺しにくる。

「……うわぁ」

 トーマスが呟いた瞬間、アーマッドが言った。

「主砲、再装填。魚雷、準備」

「了解」

「魚雷? ここで?」

 あたしが叫ぶと、源一郎が、即答した。

「ここでだ。岩塊帯は、魚雷向きだ。遮蔽物が多いから、誘導が生きる」

「魚雷って……あの、〈先住者〉の大型エネルギーフィールド発生ミサイルだよね?」

 出航前に武装をチェックしたときに見た、剣呑そうな円筒形の巨大ミサイルを思いだした。

「C++魚雷だ。軽いくせに、準光速質量効果でエネルギーをため込む。だから怖い」

「怖い魚雷が、一番嫌!」

 アル・サファーの腹の奥で、反応炉がエネルギーをチャージし、溜めすぎる前に冷却系が唸った。

 熱が船体に滲んだのか、艦橋の空気が、ほんの少し乾いたように思った。

 汗が冷たくなる。

 これは、単なる戦闘じゃない……船を限界まで使う戦闘だ、と思った。

「反応炉、オーバーヒート気味だ」

 源一郎が、ぶっきらぼうに言う。

「気味、って……爆発の前兆じゃないの?」

「爆発する前に冷やす。冷やせないなら、撃って終わらせる」

「終わらせるの対象が怖いんだけど!」

 敵艦がさらに近づいてきた。

 スクリーン上で、装甲の継ぎ目まで見えそうな距離だ。

 こっちの位置を読んでいるのだろう。

 いや、読んでいるというより“予測している”のだ。

 こちらの回避運動の癖を、計算しているようだ。

 その瞬間、アーマッドが短く言った。

「上げる」

 アル・サファーが“上”へ動いた。

 宇宙で上も下もないのに、あたしの感覚は確かに「上へ跳んだ」と感じた。

 重力が一瞬、なくなった。

 内臓が軽くなる。

 そして次の瞬間、船体が横へねじれる。

「なっ……!」

 敵の斜線から外れた。

 外れるだけじゃない。次の瞬間、アル・サファーはその射線の内側へ潜り込んでいた。

 相手の刃が振り切れた“隙”に、懐へ入る動きだった。

 軍艦相手に、喧嘩の作法で殴りに行く。

「主砲、撃て!」

 アーマッドの声が落ちる。

 落ちた声は、妙に冷たい。その冷たさが、怖さを消してくれる。

 源一郎が、ボタンを押した。すると、FLストレンジプラズマ砲の第二射が斉射された。

 光が走り、敵艦には当たらなかったものの、敵の護衛戦闘機がまた消えた。

 しかし、今度は、消え方が違っていた。

 単に消えるのではなく、こちらの“逃げ道”をデブリで塞ぐように焼かれていた。

「……やっぱ、海賊じゃないわ」

 あたしが呟くと、源一郎が吐き捨てる。

「だから言っただろ。殺されても、味方が有利になるように立ち回るのが、軍だ」

「その表現、最悪!」

 アル・サファーは、更に岩塊の陰に滑り込んだ。

 そして陰から、魚雷を放った。

 C++魚雷は、発射の瞬間、ただの金属の棺桶みたいに見えた。

 でも次の瞬間、棺桶が“考えた”――周囲のデブリの動きを読み、重力の歪みを舐め、敵艦の回避パターンを予測した。

 誘導というより、狩りだった。

 魚雷は小惑星の陰を使い、敵の死角から浮上した。

「あ……」

 トーマスが声を漏らした。

 敵巡洋艦が気づいたのか推進器が噴射し、回避した。

 軍艦の回避だから、速い。

 しかし、魚雷は、その回避を“予測していた”。

 船腹に突き刺さる。

 爆発は、光よりも“形”で見えた。

 船体が内側から膨らみ、裂け、破片が花みたいに広がる。

 その花は美しくない。

 金属の骨と、燃料の霧と、熱の筋が混ざった、汚い花。

「……撃沈」

 トーマスが、震える声で言った。

 でも、勝っていない。

 残りの敵艦が距離を取る。

 距離を取るのが、海賊じゃない。

 海賊なら怒って突っ込む。

 軍艦は――引いて、状況を整理するのだ。

 その時、トーマスが通信ログを再度拾って、顔色を変えた。

「……撤退信号、出てます。統制された……撤退ですよ」

「……やはり海賊ではない、な」

 アーマッドが静かに言う。

 源一郎が、ふっと息を吐いた。それが安堵なのか苛立ちなのか分からない。

「面倒な相手だったな」

「面倒で済ませないでよ……」

 あたしが言うと、源一郎は、ぶっきらぼうに返した。

「面倒が、一番厄介なんだよ!」

 敵艦が去り、残ったのはデブリだけだ。

 墓場の入口に、さらに死体が増えただけだ。

 そして、あたしの胸の奥には、別の冷えが残った。

 ――人類連邦の影響圏内で、グラブールの正式軍艦が“海賊のふり”をして出入りしている。

 それってことは、つまり、ここには「隠したい何か」があるのだ。

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