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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. III 『ナルディア、再び』

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第二十二章 因果な仕事と、新しい墓場 ― そして研修生活は続く


 整備区画に移動すると、源一郎がアエリミアスの点検をしていた。

「お疲れ様です、源一郎さん……」

「……あぁ。疲れたわ」

 ぶっきらぼうなのに、今日だけは声に疲労が滲んでいた。

「さっきの敵、相当強かったんですよね……?」

「まあな。“殴り返せる相手”だったから良かったが。反物質兵器みたいな奴だったら詰んでた」

「怖っ! 源一郎さん、脅さないでくださいよ!」

「事実を言ってるだけだ」

 彼は、肩を竦めた。

「でも新人、よく踏ん張ってたじゃねぇか」

「そ、そうですか……?」

「あの状況で逃げずにいた奴は珍しい。新人はたいてい船の中で泣いてる」

「泣いてる前提なんですか?」

「泣くのは悪いことじゃねぇよ」

「急に優しいですね? 源一郎さんどうしたんですか!」

「優しくねぇわ」

 ぶっきらぼうのまま優しいって何。

 この人の優しさ、分かりづらすぎる。

 すると、そこにトーマスが顔を出した。

「ねぇ、ナルディアさん、さっき録画見たけど、ずーっと叫んでたよね?」

「言うなーーー!」

「いや、むしろ褒めてるんだ。あれだけ騒げるの、メンタル強いって証拠だからさ」

「褒められてるような褒められてないような!」

 あたしの心は今日も忙しい。


***


 整備をしている源一郎とトーマスを見ていると、アーマッドが静かに近づいてきた。

「――ナルディア」

「はい?」

「今日、お前はよくやった」

「え……」

「理不尽も、危険も、わけの分からない機械も……全部ちゃんと“見て”、逃げずに立っていた。それは冒険者にとって大事な資質だ」

「……ありがとうございます……」

 胸がじんと熱くなった。

「自信を持て。お前は、必ず強くなる」

 その言葉が、今日一日の疲れを全て癒してくれるようだった。


 部屋に戻ると、疲労が一気に押し寄せた。

 けれど、ベッドに倒れ込む前に、あたしは窓の向こうに広がる、ランキスの光を見つめた。

(バーロック……ランコロウ……ガラXFIザA……地球企業……冒険者……)

 今日一日で、あたしの世界は五回くらい裏返った。

 でも――

(それでも……あたし、もっと知りたい)

 怖さより、好奇心と悔しさが膨らんでいく。

 父の惑星のの問題も、冒険者の世界も、“知らない”で済ませたくない。

(次は、逃げない)

 小さく拳を握ったとき、通信端末が震えた。


***


 次の日、朝食を取りにダイニングルームに行くと、アーマッドがもう起きていて、にこにこ話しかけてきた。

「まぁ、今回は、結果的には悪い話ばかりじゃなかった」

 アーマッドが、端末を軽く掲げた。

「あ、おはようございます。……どういう意味ですか?」

「ロマノリから“特別クレジット”は、きっちり奪った。あと――」

 アーマッドの声がわずかに低くなる。

「GDC本部に“見返り”として、今後の遺跡発見時の『チーム・ラシード』独占探索権も認めさせた」

「…………えっ、それって……?」

「そういうことだ。書類で殴られたら、書類で殴り返すだけだ」

「物騒な哲学ーーっ!!?」

 でも、胸の奥がじん……と熱くなった。

「……アーマッドさんって、資料じゃもっと“荒っぽい人”っぽい雰囲気でしたけど……意外と……頭脳派なんですね……」

「意外は余計だ」

「いや、だって……!」

「まあ、アーマッドは、こういう交渉ごと得意だからな」

 食堂で食事を取っていた源一郎が、感心したように言う。

「ただ武器振り回すだけの冒険者じゃねぇよ、うちのキャプテンは」

「武器、振り回してませんよアーマッドさんは!」

「振り回してもいいぞ?」

「やめてください! 今この状況でその冗談やめて!」

 返すツッコミにも、なぜか少し笑いが混じっていた。

(ああ……この人たち、本当に頼もしいな……)

 あたしは少し胸が弾んだ。

 ここであたしの研修が“続いていく”んだと思うと、理由もなくワクワクした。


「さて、朝食を取ったら、すぐ次の仕事に出るぞ」

 アーマッドが振り返る。

「すぐ!?」

「冒険者に休暇はない。次の依頼が来ている」

「ブラック?」

 しかしアーマッドはすでに次の画面を開いた。

>【GDC依頼】

>アルムニナ宙域――“宇宙船墓場”調査任務

「……宇宙船墓場……?」

 その名前を聞いた瞬間、背筋が寒くなった。

「何それこわい! 絶対こわいやつでしょ! “墓場”ってつけちゃダメなやつでしょ?」

「静かでいいところだぞ。異星人の戦争遺跡だ。地球のカイパーベルトの濃いヤツみたいなところで戦っていた跡だから、程度の良い戦利品が多い」

 アーマッドはサラッと言う。

「でも、静かって、死んでるだけでは? 不穏?」

 一緒に食事を取っていたトーマスも、ケタケタ笑っていた。

「やー、僕けっこう好きだけどね、あそこ。僕もつれて行ってもらったことあるけど、船がいっぱい浮いてて、宝探しみたいでワクワクする」

「ポジティブすぎる! 無理無理! あたしには、ホラーにしか見えない!」

「今回は、源一郎と組ませる」

「え? 源一郎さんと?」

「悪かったな」

 源一郎が、食べ終えたトレイを回収用シュートに運びながら、告げる。

「だが、お前の“危険察知”は悪くねぇ。墓場は、そういう直感がないと死ぬ」

「死ぬって言った! 今さらっと“死ぬ”って言いましたよね?」

「死にはしねぇよ。気をつけりゃ」

「語尾で軽くしないで! 怖さ残ってる!」

 でも、不思議と心の奥がざわつく。

(怖いけど……また行きたい……かも)

 なんで、そんなこと思ったのか自分でも分からない。

 でも、あのヴェシルドの月の谷で感じた、“未知に触れる瞬間”をまた味わいたい――そんな気持ちがあった。


 あたしは、ダイニングルームの窓から外を見た。

 星々が瞬き、軌道エレベーターのリングの外縁を横切る貨物艇の光跡が走った。

(怖いことばっかりだし、分からないことだらけ。でも……)

 胸の奥がふわっと熱くなった。

(それでも、前に進みたい)

 あたしは拳を小さく握りしめる。

「――よし。あたしの研修生活、まだまだ続くんだし!」

 そう呟いた声は、不思議と、未来を照らしていた。

 次の宙域へ。

 次の星へ。

 次の未知へ――まだまだ、冒険は終わらない。


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