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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. III 『ナルディア、再び』

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第十八章 出発! ――船は飛び、研修生は叫ぶ


 トムは、バイトだから拠点に残ることになって、アーマッド、源一郎と、あたしでシラトリに乗り込んだ。

「さて、今回は、近場の星系の予備調査だから、母船(アル・サファー)は使わず、シラトリだけで行く。目的地の再確認だが――」

 コックピットの後ろにあるブリーフィングルーム兼、客席兼、食堂で、アーマッドがパネルをタップすると、地図が浮かんだ。

「トゥームラム星系第六惑星ヴェシルドの月だ。GDCからの調査依頼だ。〈先住者〉遺物が見つかった」

「はい!」

「研修生、お前の役割は“観察”だが、必要とあれば“作業”もやってもらう」

 アーマッドが、あたしに向き直る。

「……作業?」

「そうだ。探査、警戒、交渉、運搬、だな」

「し、仕事多くないですか? 研修生向けのメニューじゃないですよね、絶対!」

「冒険者の研修は、やりながら覚えるんだ」

「今“覚える”より“やらされる”の割合が多く聞こえたんですけど?」

 アーマッドは、肩をすくめる。

「大丈夫だ。死にはしない」

「絶対にフラグですそれ! “死にはしない”と言われて死んだシミュレーション何度も見ましたからね?」

「シミュレーションはシミュレーションだ」

「いや、現実のほうが怖いって意味です!」

 ……ツッコミながらも、ブリーフィングは終わった。


***


「ナルディア、暇ならこっちも見とけ」

 源一郎に呼ばれて、シラトリの整備室へ行くと――工具が山のように積まれ、謎の球体が浮いたり沈んだりしていた。

「ひっ……? な、なにこれ?」

「テスト用の自己修復ナノだ。ああ、触んなよ。噛まれるぞ」

「ナノマシンに噛まれる?」

「噛むというか……まあ……筋肉の一部ぐらい溶かされるだけだ」

「最悪じゃないですかそれ!」

「大丈夫だ。すぐ再生する」

「再生するかどうかじゃなくて、溶けるのが問題なんですよ!」

「シラトリの船体は、任務のたびに微細な亀裂が入っている。ナノマシンの群れは、それを密閉し、ひび割れを閉じる。パッチワークより速い」

「それは…….すごい」

 あたしは認めたが、すぐに身を引いた。

「それも怖い」

「両方だ」と源一郎は言った。

「〈先住者〉の工学の世界へようこそ、だな」

 あたしは、空中でゆっくり揺れる球体を見つめた。静かに見えた。無害に見えた。まるで一度も訓練生の筋肉を食べたことがないかのようだった。

 しかし……この整備室、研修生が入る場所じゃない。

「でも見とけ。お前、そのうち、ここの装備を触ることになるから」

「いや絶対無理ですって!」

「アーマッドの命令だ」

「アーマッドさんーーっ?」

「聞こえてるぞ」

 整備室の入口からアーマッドがひょっこり顔を出した。

「お前、逃げるなよ。研修だ」

「重い……研修なのに!」


***


 船は、ストライプ・ドリープ航法で順調に跳躍を続け、星々が窓の向こうで線を描いていた。

 こんな小型の宇宙船で星系間のリープができるのが凄いとは、実家の惑星で救助されたときは知らなかった。

 ちょっと怖い。

 不安。

 ツッコミの連打で喉が枯れそう。

 だけど――すべてが新しくて、胸が躍っていた。

 実家の惑星の遺跡を探査するのとは、大違いだ。

 子どものころ兄から聞かされた物語の中の“宇宙探査”が、今まさに目の前で動いている。

 手を伸ばせば届きそうなくらい……そんな錯覚さえする。

 そのとき、アーマッドが、あたしの隣の席に腰を下ろした。

「緊張してるか?」

「……してます。でも、嫌じゃない緊張です」

「いい返事だ」

 アーマッドは、少し笑って、ほんの短く、そのまま目を閉じた。

 なんだか、珍しく“静かなアーマッド”だった。

「お前の兄貴が言っていたぞ。“妹は意外と肝が据わってるから、現場に出たら強い”ってな」

「……お兄ちゃん、そんなこと……」

「まあ、今のところ――ツッコミの精度は確かに強い」

「そこ! 評価そこなんですか?」

「大事だぞ。冒険者は理不尽に耐える力がいる」

「理不尽とは言い切ったぁーーー!」

 また、笑いを取られてしまった。

 悔しいけど……不思議と、その笑い声が、居場所の証みたいに思えて、嬉しかった。

 その時だった。

 ピコン――!

 控えめなアラート音が船内に響いた。

『トゥームラム星系第六惑星ヴェシルドにリープアウトしました。周回軌道に入っています』

 AIが、声を上げた。

「よし。準備しろ。ここから先は“研修”じゃなく、“任務”だ」

 アーマッドの声が低く響いた瞬間、胸の奥にぐっと力が宿る。

「――はい!」

 あたしは、また新しい一歩を踏み出すのだ。

 ツッコミしながらでも、怖がりながらでも、胸を張って。

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