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宇宙の冒険者アーマッド 〈先住者〉の謎  作者: 謎村ノン
Vol. III 『ナルディア、再び』

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第十七章 出発前夜 ―― 宇宙船と緊張と、そしてツッコミ


 『チーム・ラシード』の拠点での紹介ラッシュをなんとか乗り切ったあたしは、ようやく心臓の爆速鼓動がおさまりはじめていた。

 緊張って、ほんとに溶けるんだな。

 さっきまでガチガチに固まっていたのに、いまは少しだけ“この現場にいてもいいんだ”と思えている。

 ――でも、落ち着いたのはここまでだった。

「よし、次は船の説明だ。ナルディア、来い」

 アーマッドが軽く指で“おいで”を示す。ついでに、視線だけで“ちゃんとついてこいよ”感を出してくる。

 なんなんだろう。

 この人の指示って、妙に“反論する余地なし”って雰囲気がある。

「え、あの、はい!」

 あたしは、駆け足で彼の後を追った。


***


 格納庫の中央、大きなプールくらいの長さの白い船体が影を落としていた。

 ステルスシャトルのシラトリは、磨かれていて、光沢のある外殻は、あらゆる面が空気抵抗の概念を捨て去っていた。

 あたしが、実家の星で見たときと、寸分変わらない感じで着座していた。

「俺が、モデリングした船だ」

 源一郎が、横でぼそっと言う。

 ……説明が、ぶっきらぼう。

「源一郎さん……なんだか、急に専門家感ありますね」

「別に。事実を言っただけだ。ってか、どこ触ってもいいけどな、壊すなよ」

「壊しませんよ! どんな扱いですかそれ?」

「新人は、だいたい壊す」

「そんなデータあるんですかっ!」

「ある。俺の人生経験に、な」

「統計母数が少ないぃ!」

 すでに、会話がコントっぽい。でも、こういう会話をしてると、ちょっと安心する。

 船体を眺めていると、アーマッドが腕を組んで説明してきた。

「ナルディア。お前、実機を操縦はできるか?」

「できると思います。研修のVRはやったんで……!」

「VRは机上の理屈を示しているだけだ。現物は嘘をつかん。匂いも、温度も、重さも違う」

「そうでしょうけど……」

「で、実習生には、安全講習をしておかないとな」

 アーマッドがそう言った瞬間、源一郎が顔をしかめた。

「講習って……また俺がやんのか?」

「お前しか、船の内部構造を説明できないだろう」

「いやいや、俺は正式メカニックじゃねぇし……説明とか、向いてないんだよ」

「向いていないのは、知っている。だから頼んでる」

「お前、それ、褒めてんのかディスってんのかどっちだよ!」

 源一郎が、珍しく声を張り上げる。

 それを横目に、アーマッドは、すっとあたしへ振り返った。

「ちょうどいい。ナルディア、お前の肌で“実戦仕様の講習”を味わわせてやる」

「なんで、怖い言い方するんですか!? 普通に講習してくださいよ!」

 緊張がとけたら、あたしのツッコミ本能まで解禁されてしまった。

「実戦が基準だからな」

「その基準を疑って!」

 もう、アーマッド相手にツッコミ体力が尽きる気しかしない。


***


「じゃあ、説明するか。ついてこい」

 源一郎がズンズンと歩きだす。

 その背中は“説明したくなさ”を背中で語っていた。

「まず、ここがエンジンブロックな」

 以前、乗船したときには入らなかった下部デッキに案内される。

「おお……!」

「ここのレールに近づくなよ。触ると死ぬ」

「説明雑ーーっ!」

「雑じゃねぇ。端的なんだよ。長ったらしい説明は、嫌いだ」

「嫌いって! 安全講習で嫌いを優先しないで!」

「でも事実だからな。死ぬもんは死ぬ」

「二回目の死ぬ! もっとこう、マイルドな言い方してくださいよ!」

 源一郎は、無表情で頬をかいた。

「じゃあ……“非常によろしくない事態になります”」

「それはそれで怖いんですけど!?」

 ――なんだこの講習……ほんとに安全向上につながってるの?と、あたしは思った。

「まあ、源一郎の言ってることは正しい。このエンジンは、特別仕様でな。空間エネルギー変換炉(SER)に、所々、〈先住者〉テクノロジーを使っている」

「わ、分かりやすい……!」

「だから、安全基準が、人類製とは違って、危険だ」

「分かりやすくない!」

「使えれば、問題ない。パフォーマンスがでれば、冒険者は勝ちだ」

「勝ち負けの話じゃないですよ? 冒険者の生存基準どうなってるんですか!」

 アーマッドは、少し笑った。

「お前、ツッコミの筋がいいな。研修に向いてる」

「褒め? 褒めですか今の? なんの研修ですかそれ!」


***


 講習のあと、アーマッドはコックピットの区画を見せてくれた。

「ここが操舵席だ。お前もそのうちここに座るかもしれん」

「えっ、あたしが……?」

「研修だろ。お前は、操縦資格持っているだろ? なんでもやるんだよ。お前はただの荷物じゃない」

(……荷物じゃない)

 その一言に、胸の奥がじんとした。

 アーマッドの語気は、いつも軽いが、時々こうして本音をぽつりと混ぜてくる。

 それがなんだかずるい。

「さて――一通り見せたし、あとは依頼を待つだけだな」

「依頼……!」

 ついに、あたしが冒険者研修として“本物の任務”に挑む……!

「最初の任務はな、普通、危険度が低めだ。心配いらん」

「よかった……!」

「ただし、退路はない」

「撤回します! 心配いります!」 

「冗談だ」

「冗談に聞こえないのが問題なんですってば!」

 アーマッドは、軽く笑い、

「大丈夫だ。俺たちがついてる」

 ――その一言で、さっきの不安がまた溶けていった。

 ほんと、この人は調子がいい。

 でも、安心するのがまた悔しい。

「さて、出発だ。研修生、覚悟しとけよ。宇宙は広いぞ」

「はい!」

 返事をした瞬間、胸がまた跳ねた。

 あたしはついに、夢だった“冒険者の現場”に飛び込む。

 ……なんかすでにツッコミ疲れしてる気がするけど、これはこれで悪くない。

 たぶん。

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